第47回原産年次大会 会長 所信表明



一般社団法人 日本原子力産業協会
今井敬会長

 日本原子力産業協会の会長を務めております今井でございます。第47回原産年次大会の開会にあたりまして、一言ご挨拶を申し上げます。

 東日本大震災から三年余りが経過いたしました。
 東京電力福島第一原子力発電所の事故により、いまだ多くの皆様が、ふるさとを離れ、不自由な避難生活を余儀なくされていることに、心からお見舞い申し上げます。

 政府は、昨年来、民主党政権が描いてきたエネルギー戦略を根本から見直し、わが国の中長期のエネルギー政策の基本となる「エネルギー基本計画」を検討してきましたが、4月11日にようやく閣議決定がなされました。
 しかし、エネルギー基本計画の「はじめに」の部分を読みますと、「事故で被災された方々の心の痛みにしっかりと向き合い、寄り添い、福島の復興・再生を全力で成し遂げる。震災前に描いてきたエネルギー戦略は白紙から見直し、原発依存度を可能な限り低減する。ここが、エネルギー政策を再構築するための出発点である」と記載されております。
 この思いをエネルギー問題に関与する関係者間で共有することが大切だと思います。
 この三年間、被災地域の復興に向けた懸命の努力が続けられてきたところですが、あらためて関係機関の総力を結集して復興を加速し、被災者の方々が一日も早く以前の生活に戻れるようにすることが、我々に課された使命と考えております。
 エネルギー基本計画の中には、「多層化・多様化した柔軟なエネルギー需給構造の構築」を基本的な考え方として掲げ、国際的な視点と経済成長の視点を配慮した上で、原子力発電については、「安全性の確保を大前提に、エネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源」と位置づけました。
 責任あるエネルギー政策の構築を目指した安倍政権の決意と受け止め、今後のわが国の原子力政策の方向性が国内外に示されたものと高く評価しております。
 しかしながら、停止中の原子力発電所の再稼働が見通せない中で、エネルギーミックスにおける原子力の比率は依然として不明確であります。
 再生可能エネルギーの比率と合わせて、温室効果ガスの削減目標を示すことができないことは、国際社会に対する日本の責任の観点から、早急に解決すべき課題と思います。
 現在、我が国では、全ての原子力発電所が停止している状況下で、火力発電用燃料として液化天然ガスや原油の輸入量が急増し2013年の貿易赤字は11兆5千億円まで拡大しております。

 このコスト負担は電気料金の値上げ要因となり、一般家庭及び製造業をはじめとする産業界の負担増につながっております。
 停止期間の長期化により、更なる電気料金の値上げを検討する電力会社も現れ、国民の皆さんの負担の増大が現実的な問題として差し迫っております。
 また、停止期間の長期化により立地地域経済も疲弊しております。
 長年我が国のエネルギー政策に貢献してきた地域が直面している窮状を早急に打開すべきであります。
 エネルギー基本計画では、次のように書いてありますが、「原子力規制委員会により世界で最も厳しい水準の規制基準に適合すると認められた場合には、その判断を尊重し原子力発電所の再稼働を進める。その際、国も前面に立ち、立地自治体等関係者の理解と協力を得られるよう、取り組む。」としております。
 この国の姿勢を評価するとともに、われわれ原子力産業界は、原子力が再びベースロード電源の役割を担うために最大限の努力をしてまいるつもりでおります。

 しかし、残念ながら原子力に対する信頼は回復していないのが実情であります。
 複数のマスメディアによる最近の世論調査では、過半数が再稼働に反対し、9割近い国民の方々が再び同様の事故の発生に不安を持っているとの結果が得られております。
 事故の教訓を反映して、規制は強化されましたが、安全に対する漠然とした不安感があるのではないのでしょうか。
 このような原子力に対する不安が拭えない理由のひとつには、高レベル放射性廃棄物の最終処分の道筋が、未だついていないことにあると考えます。
 原子力発電に伴い確実に発生する使用済み燃料の処理について、将来の世代に先送りすることなく、現世代の責任として着実に進めていくことが重要であります。
 そのためには、これまでの取り組みを抜本的に見直し、国の関与を強め、処分地点の選定方法の見直しや貯蔵能力の拡大など使用済み燃料対策を総合的に進めることが不可欠と考えております。
 事故の反省に立ちこの3年間、事業者・メーカーを始めとする産業界は、規制の要求を満たすことだけに甘んずることなく、更なる安全性向上を目指した自主的な活動に取り組んでまいりました。
 具体的には、安全確保の一義的責任は事業者にあることを認識しつつも、事業者から独立し、強い権限を持った原子力安全推進協会(JANSI:ジャンシイ)を一昨年設立いたしましたことです。
 そして、事業者の安全性の向上に向けた取り組み状況を、第三者的立場で評価し、安全性確保の信頼性を高める活動を行ってきております。
 また、JANSIの設立に際しては、各社のトップが「常にさらなる高みをめざす」べく、安全文化の醸成と仕組みの構築を宣言し、安全確保に対するトップの強いリーダーシップを示しております。
 しかしながら、世論調査の結果が示しますように、事業者によるこのような取り組みが、必ずしも国民の方々に伝わっていないのではないかと危惧するところであります。
 人類の進歩は、リスクを乗り越えることで培われてまいりました。
 事故前と比較して、事業者が安全神話と決別し、リスクと向き合っていること、事業者の何がどう変わったのか、変わろうとしているのか、これをわかりやすく国民の方々に伝え、不安と懸念の解消に全力を挙げなくてはなりません。
 とりわけ、事業者のトップには、「福島第一原子力発電所と同様な事故は、二度と起こさない」という決意を事業経営の柱としていただきたいと存じます。

   本日、ここに参加いただいている関係者の皆さんに、このことを強く申し上げたいと思います。

 次に、原子力の国際性及び人材育成の必要性について申し上げたいと思います。
 世界に目を向けてみますと、エネルギーの安定確保と地球温暖化対策の観点から、世界の潮流は原子力利用の継続であり、今後新たに原子力発電の導入を計画しているトルコ、サウジアラビア、UAE,ベトナムといった国々から、日本の技術力による一層の支援が求められております。
 我が国では、過去50年に亘り57基の原子力発電所を途切れることなく建設してきており、その過程で様々なトラブルを改良改善により克服しながら国産技術を確立してまいりました。
 そこで蓄積された技術力、とりわけ高品質の機器を製造し、建設プロジェクトを工程通り、予算内で仕上げる能力は世界に誇れるものでございます。
 このように、原子力発電に関してこれまで蓄積してきた我が国の技術力を活かして世界各国からの期待に応えると共に、福島第一原子力発電所の事故の経験から得られた教訓を世界各国と共有することが、重要だと考えます。
 また、我が国は、当初から一貫して原子力平和利用を実践してきており、核不拡散体制の維持向上に向けた活動において、世界の模範ともなっており、これらは、国際社会に対する責務でもあります。
 加えて、世界の安全保障を考えますと、核セキュリティへの対応も重要な課題と受け止め、関係者の更なる積極的な取り組みが必要でございます。
 このようにエネルギー・原子力の問題を考えるにあたって、グローバルな視点が更に重要性を増している点は疑う余地がございません。
 国際協力・展開で必要なのは技術力、交渉力、そして国際感覚であり、次代を担うグローバルな人材の確保・育成は、産官学が協力して取り組むべき喫緊の課題であります。
 当協会は、人材の確保・育成を戦略的にすすめる活動に引き続き注力してまいります。

 次に、廃止措置について申し上げたいと思います。
 福島第一原子力発電所の廃止措置は、国際的な関心を集めております。
 特に、汚染水問題を解決しないと廃止措置は前に進みません。
 地元関係機関のご理解を得て、地下水バイパスが開始される運びとなったことはその第一歩であります。
 一日も早く汚染水の安全かつ安定的な浄化処理運転を確立し、関係機関や国際社会への理解に努め、処理水の海洋放出が必要であります。
 また、この廃止措置は、溶融した燃料の回収など難題に取り組むことから、今後40年もの期間を要し、困難な作業となることが見込まれます。
 そのため、これを円滑に進めるためには、当事者の東京電力と国や研究機関等が有機的に連携することが重要となります。
 そして長期に亘る、前例のない、過酷な作業に従事することから、「現場第一線が働きやすい環境を作ることが何よりも重要」との考えを関係者間で共有していただきたいと思います。
 現場の士気を維持し、作業員の安全管理・健康管理を徹底していただき、着実に進めていただくことが大切でございます。
 また、福島の廃止措置は、これまで経験したことのない技術的困難が予想されるため、国際的な経験や叡智を結集して取り組むことが重要だと思います。
 そして、そこで得られたさまざまな知見を世界と共有し、原子力の安全研究や将来の廃止措置作業に役立てることが我が国の責務であります。
 このような研究開発の場は、将来の原子力を担う若い研究者にとって世界と交流する格好の機会であり、人材育成の観点からも極めて重要と考えています。
 更に、廃止措置に係る研究施設を充実・拡大させることで、廃止措置作業の加速化と雇用の拡大により、福島復興の一助となることも期待しています。

 次は、福島の復旧・復興についてであります。
 事故発生以来、被災地域において、復旧・復興に向けた多くの取り組みがなされてまいりました。
 特に、この1年の、「帰還に向けた避難指示区域の見直し」、「中間貯蔵施設建設地点の絞込み」、そして「廃止措置への国の関与」など、国が前面に立ち、諸課題への対応を進めている姿勢は大きな前進であります。
 しかしながら、被災者の方々の視点に立ちますと、除染をはじめ未だに課題は山積しております。
 われわれ原子力産業界は「福島の復興なくして日本の原子力の将来はない」との認識のもと、事故からの復旧・復興に広く関係機関と連携してまいりました。
 当協会は、今後とも地域に寄り添い、地域の方々の目線に立ち、放射線に対する理解活動など対話と交流を進めてまいります。

 これまで述べてまいりました我が国の原子力を取り巻く厳しい現状に着目して、本年次大会は「信頼回復に向けた決意」を、基調テーマといたしました。
 本大会では、開会講演に引き続いて、3つのセッションを、2日間にわたって行ってまいります。
 一つ目のセッションでは、原子力に疑問を持つ意見が多数を占める国内世論を直視し、信頼回復に向けた産業界の取り組みと決意を国民のみなさまへ伝えるとともに、海外の事例も参考に、議論を深めてまいります。
 二つ目のセッションでは、持続可能な社会の確立に向けて、2050年という長期的な視点から、世界の各地域の実情を踏まえながら、原子力の果たすべき役割を考えます。
 三つ目のセッションでは、福島の実情を伺い、チェルノブイリ事故後の事例も参考にしながら、地域の復興・再生のために取り組むべき課題を議論いたします。
 このように、広く国内外からご登壇をいただく方々と課題を共有しながら、今後の原子力のあり方について、ご参加の皆様と共に考察し、原子力の健全な発展にとって有意義な会合になることを期待したいと思います。

 最後になりますが、お忙しいスケジュールの中、国内外から今回ご登壇いただく方々に対し、この場を借りて厚く御礼申し上げます。

 これをもちまして、私の所信といたします。
 ご清聴、ありがとうございました。

以 上