バングラデシュ人民共和国
2009年10月22日
目次
T.経済動向
バングラデシュは、世界で最も人口密度が高い国として知られる貧困国である。国営企業の非効率な運営、天然ガス資源開発の遅れ、慢性的な電力の供給不足、経済改革の実施の遅れ――などが指摘される一方で、1996年以来5〜6%前後の経済成長率を達成している。GDPの半分以上はサービス部門が占めており、廉価な衣服の輸出や、中東や東アジアへの出稼ぎ労働者からの送金が、この経済成長率を達成させている。国民の3分の2は農業部門に従事している。
政府は2008年、雇用促進を狙った財政策を打ち出したが、インフレを引き起こしてしまった。また2009年2月にはバングラデシュ国境警備隊(BDR)内の反乱により、将校約70名が殺害される事件が発生し、治安、内政の不安定さを露呈している。
U.エネルギー・電力需給動向
バングラデシュ原子力委員会の発表(IAEA Technical Meeting on Invitation and Evaluation of Bids for NPP, 2009年6月)によると、同国のエネルギー資源は以下の通り。
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天然ガス:国内22ガス田の確認埋蔵量は15兆5,100億立方フィート。2006年までにすでに5兆6,000億立方フィートを消費しており、2015年までに枯渇すると予測されている。
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石炭:埋蔵量20億トンのうち5億トンは推定埋蔵量であり、近い将来に枯渇すると予測されている。
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水力:既存のカプタイ・ダムの出力は23万kW。マタムフリ・ダム(30万kW)、サング・ダム(20万kW)のほかに、いくつかの小型水力発電(1万kW)の開発計画がある。
2008年末時点の総発電設備容量は545.3万kWで、電力開発庁(BPDB)が381.2万kW、独立系発電事業者(IPP)が133.0万kW、小規模IPP(SIPP)が31.1万kWだが、うち稼動可能な設備は最大で414.6万kW(2009年4月時点)に過ぎない。
2006〜2007年の一人当たり年間電力消費量は149.97kWhで、世界の最低国に属する(参考:日本は約8,500kWh)。比較的開発の進んだ東部地域等人口の43%のみが電気を使っている。農村部の煮炊きの燃料の95%がバイオマス燃料(農作物残渣、薪、動物フン)である。
バングラデシュは、乾期にはほとんど雨が降らず、ボロ米と呼ばれる高収量米の作付けでポンプ灌漑が不可欠である。このため、慢性的な電力不足に加え、2006年2月頃から国際石油価格の高騰により、ポンプ動力源(電気やディーゼル油)や肥料の供給が不安定化し、4〜5月にかけていくつかの農村やダッカ近郊で抗議デモの農民と警察の衝突が起きた。このようにバングラデシュでは、電力不足が社会の治安を脅かす問題となっている。
電力部門は、電力・エネルギー・鉱物資源省(MPEMR)が管轄しており、電源開発等に統括的な責任を負っている。電力供給基盤が脆弱なことから、政府は1996年に「民間セクター発電事業政策」を策定、発電・配電事業への国内外民間資本の参入を呼びかけた。
BPDBは電源開発、発電計画の策定・実施のほか、IPPからの電力購入、発電、小売を行っている。送電はBPDBの100%子会社であるバングラデシュ電力系統会社(PGCBが担当している。
*2005年5月、米国資本のVulcan Energy社がバングラデシュ政府と、16億ドルを投じて180万kWの発電設備を建設する覚書に調印した。
*2004年、インドのTataグループが、肥料、発電、鉄鋼、石炭開発(含50万kW石炭火力1基と100万kWガス火力1基の建設)での総額30億ドルの投資意向を示したが、バングラデシュ政府への不満から撤回となった。また中国ハルビンの会社への3発電所(8万kW、9万kW、15万kW)建設発注も問題を起こしている。
政府は、IPP活用に加えて、1998年4月、1万kW程度までの小規模発電事業促進政策を発表し、2003年から世界銀行の支援も得ている。2020年の全土電化をめざしている。
現在、BPDPの発電コスト(2.53タカ/kWh)と売電価格(一般家庭へは2.15タカ/kWh、政府機関向けには1.94タカ/kWh)の逆鞘解消と、送配電ロス21.9%の改善が急務である。
ルプール原子力発電所(Rooppur Nuclear Power Plant:RNPP)計画
バングラデシュでは、遅れている西側地域の開発に発電所が必要であり、1961年に原子力発電所建設プロジェクトが浮上し、1963年にダッカ北西160kmのガンジス川沿岸ルプールが建設候補サイトに選ばれた。
同プロジェクトには、米国、カナダ、スウェーデン、ソ連、ベルギーがそれぞれ建設提案を出した。米国国際開発庁(USAID)は7万kW炉への融資を提案したが、直後に取り下げている。
1965年、ルプールに納入予定だったカナダ型重水炉(CANDU)がカラチ(パキスタン)に設置された。1971年、ベルギーが20万kW炉でのファイナンス契約の調印に漕ぎ着けようとした矢先に、バングラデシュ独立戦争が始まってしまった。1980年8月、フランスと原子力協力協定を締結。3.5億ドルで、1986年までに仏製PWR(12.5万kW×2基)を運開させる計画だったが、サウジアラビアからの資金手当てに失敗し中止となった。
*1982年9月、バングラデシュはIAEA主催「原子力発電経験国会議」で、20〜40万kWの中小型炉をIAEA、炉供給国、国際金融機関(世界銀行、アジア開発銀行、OPEC基金等)との協力で、国際実証炉(IDR)として建設・運転することを提案。バングラデシュ国内で各国がデータ収集と訓練に参加する利点を強調したが、その後、立ち消えになっている。
1997年12月、バングラデシュはIAEA専門家と予備検討を行い、60万kW×2基が推奨された。2003年、BAECはIAEAの勧告を受け、RNPPサイト安全性報告書を改訂、また入札書類準備に着手した。ターンキーで2010年着工、2015年運開をめざす。建設費10〜15億ドルのBOO(建設・運転・所有)/BOT(建設・運転・移転)でのファイナンスを希望している。
1995年に「RNPP実施委員会」(首相が委員長)を設置、2000年1月に「バングラデシュ国家原子力行動計画(BANPAP)」を採択した。インド、パキスタン、中国、ロシア、韓国がRNPPに関心を示している。
現在BAECは、原子力分野の専門家900名を擁し、ルプール原子力発電所プロジェクトの準備を進めている。
今後独立した原子力発電実施主体として、バングラデシュ原子力庁(NPAB)が設立される計画で、2010年までに、サイト安全性報告書の最終版を完成させると同時に、ファイナンス等の契約準備を進める考えだ。
バングラデシュの加入している主な原子力関係国際条約
条約等名称 |
批准時期 |
核不拡散条約(NPT) |
1979.08.31 |
核物質防護条約 |
2005年に受諾 |
原子力安全条約 |
1996.10.24 |
原子力事故早期通報条約 |
1988.02.07 |
原子力事故または放射線緊急事態における援助条約 |
1988.02.07 |
IAEA保障措置協定(INFCIRC301) |
1982.06.11 |
IAEA追加議定書 |
2001.03.30 |
IAEAアジア原子力地域協力協定(RCA) |
1987.08.24 |
原子力関連年表
年 月 |
事 項 |
1955年 |
パキスタン原子力委員会設立 |
1964年 |
東パキスタンのダッカ原子力センター(AECD)設立 |
1971年 |
バングラデシュとしてパキスタンより独立 |
1973年2月27日 |
バングラデシュ原子力委員会(BAEC)設立(1973年大統領令第15号) |
1975年 |
サバール原子力研究事業所(AERE)設立 |
1979年 8月31日 |
核不拡散条約(NPT)を批准 |
1980年 8月29日 |
フランスと原子力協力協定締結(ラーマン大統領のパリ訪問時) |
1981年 9月27日 |
米国と原子力協力協定締結 |
1982年 6月11日 |
IAEA保障措置協定発効(INFCIRC 301) |
1982年8月 |
IAEAの会議で、バングラデシュに中小型国際実証炉(IDR)建設・運転を提案 |
1986年 9月13日 |
TRIGA-U(出力3MW)臨界 |
1988年2月7日 |
原子力事故早期通報条約、緊急時支援条約を批准 |
1993年 |
原子力安全・放射線管理法(NSRC)制定(それに基づく規則は1997年に制定) |
1995年 |
「RNPP実施委員会」(首相が委員長)を設置 |
1996年10月24日 |
原子力安全条約を批准 |
1997年12月 |
IAEA専門家との予備検討で、60万kW×2基が推奨された |
2000年1月 |
「バングラデシュ国家原子力行動計画(BANPAP)」を採択 |
2000年3月8日 |
包括的核実験禁止条約(CTBT)を批准 |
2001年3月30日 |
IAEA追加議定書に署名・発効 |
2005年4月8日 |
中国と原子力協力協定締結(温家宝首相のダッカ訪問時。核物質探査と原発建設で協力) |
2009年5月 |
ロシアと原子力協力覚書に署名。年内に協定締結予定。 |
ダッカ原子力センターには、TRIGA Mark-U型の熱出力3MWの研究炉(濃縮度19.75%、被覆SS304、最高中性子束が7.6×1013ncm-2s-1)があり、基礎研究(物質構造検査)、短半減期RI製造、試験に使われている。
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