米国の2003年エネルギー政策法案、上院での議事妨害のため先送りに
11年ぶりの包括エネルギー法となるはずだった「2003年エネルギー政策法」(Energy Policy Act of 2003)は2003年11月21日、上院でのフィリバスター(採決妨害)によって、議会通過が先送りされた。1100ページを超える同法案には、米国のエネルギー供給の柱として原子力(発電)を拡大するための規定が数多く盛り込まれていることから、原子力産業界も成立に大きな期待を寄せていた。
2003年エネルギー政策法案の両院協議会報告は11月18日、246対180の賛成多数によって下院で承認され、上院での審議に移ったが、同法案に反対する民主党と共和党穏健派議員らが採決の妨害を目的としたフィリバスターと呼ばれる戦術(長演説を展開して討議を続け採決を妨害する)を展開。このため、討議を終結し採決に移るための表決が行われたが、討議中止(フィリバスター阻止)に必要な60(57対40)に達しなかった。法案は、休会後の2004年1月20日以降に再審議される見通し。
上院の審議では、原子力や石炭産業ならびにいくつかのプロジェクトに対する税額控除に関して論争もあったが、それほど大きな争点とはならなかった。エネルギー政策法が突然失速してしまったのは、当初はそれほど注目されていなかったMTBEに関する規定。MTBEは、メチル・ターシャリー・ブチル・エーテルの略で、無鉛化ガソリンの普及にともなうオクタン価向上のための添加剤として使われてきた。しかし、水溶性で激しい汚染を引き起こすその性質から、ガソリンスタンドの貯蔵タンクから漏れ出し、水源の地下水を汚染させる問題が全米各地で起こった。今回、エネルギー政策法の審議で、意見が対立したのは、水汚染に対して起こされた訴訟から石油企業をまもるためにかかるコストの扱いという(ニューヨーク・タイムズ紙)。
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2003年エネルギー政策法案には、原子力に関する重要な規定も盛り込まれている。主な内容は以下のとおりである:
1. プライス・アンダーソン(原子力損害賠償)法の改定
- プライス・アンダーソン法を2023年まで20年間延長する。
- 同法を構成する「責任保険」と「遡及賦課方式」のうち、「遡及賦課方式」の毎年の支払限度額を1000万ドルから1500万ドルに上げるとともに、将来については物価上昇率を勘案して調整を行う。
- 出力10〜30万kWのモジュール方式の原子炉を数基組み合わせて原子力発電所を構成する場合、それぞれ単独で同法を適用するのではなく全体を1基(最大出力130万kW)として定義して適用する。
2. 一般的な原子力問題
- 原子力規制委員会(NRC)の発給している(当初の)40年という原子力発電所の認可期間(license period)を、認可が発給された日付ではなく、原子力発電所が運転を始めた日付から数えるよう原子力法を改定する。
- 利用施設あるいは生産施設を建設あるいは運転するための新規申請に際してNRCが独占禁止の面から検討を行うという法的要件を削除するよう原子力法を改定する。
- デコミッショニング信託基金に関して、運転認可が失効した後でも、以前の認可取得者に対する権限をNRCが保持することを明確にするよう原子力法を改定する。これによって、原子力発電所を売却する事業者は、(たとえば税金面での目的から)デコミッショニング基金を従来どおり管理下に置きながら、NRCからの認可取得者としての他の責任を無効にすることができるようになる。
- 既存のDOEサイトに商業用の原子力発電所を開発するための実行可能性を1年以内に報告書にまとめるよう指示する。
- テロ支援国家への原子力輸出を禁じる規定を含む既存の法律を拡充する。
- 新規のウラン濃縮施設の建設にかかる申請の検討、承認を促進する。たとえば、NRCは申請から2年内に決定をくださなければならない。
- 低濃縮ウランの国家備蓄を創設することをDOE長官に認める。
3. 新型炉/水素併給プロジェクト
- アイダホ国立工学環境研究所(INEEL)に、水素製造のための新型炉を設置するようDOEに指示する。さらに、同プロジェクト向けとして、施設の建設に5億ドル、また5会計年度にわたって6億3500万ドルを計上することを認める。
4. 原子力施設の防護措置
- 原子力発電所に対する潜在的な脅威に関する調査を行うとともに、そうした脅威に対する責任が連邦政府か民間のどちらにあるかを明らかにするよう大統領に要求する。調査が終了したあとで、NRCは規則によって設計基準脅威(design basis threat: DBT)を改定してもよい。
- 原子力発電所ならびに高濃縮ウランを扱う燃料サイクル施設について、侵入者から施設を防護するための能力を完璧なものとするため、定期的な訓練を実施するようNRCに要求する。
- 原子力発電所の防護要員が、連邦法や州法に関係なく、拳銃、ライフルあるいはショットガン、砲身の短いショットガンあるいはライフル、マシンガン、半自動式の突撃兵器ならびに弾薬の入手、保持、運搬、使用の許可をNRCに認める。
- NRCが濃縮施設や再処理工場あるいは原子炉の認可を発給する前に、提案された施設の立地点がテロ攻撃にとって脆弱な可能性があるかどうかということを国土安全保障省と協議することを要求する。
5. 水 素
- 輸送部門での利用に向けて、水素ならびに関連技術を開発するための計画を詰める。水素製造技術の1つとして原子力も含まれている。
6. 原子力研究開発
- 今後、5会計年度にわたって、原子力研究プログラム向けに総額で27億7300万ドルを計上することを認可する。この中には、以下のようなものが含まれる:
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− 将来の原子炉に焦点をあてた原子力研究イニシアチブ
- − 稼働中の原子炉の効率を上げる原子力発電所最適化プログラム
- − 2010年までに新しい原子力発電所を市場に導入するというDOEの原子力発電2010イニシアチブ
- − 先進的な原子炉の設計に関する作業を支援する第4世代原子力システム・イニシアチブ
- − 大規模な水素製造のための原子炉の設計に関する原子炉水素製造研究
- − 既存の原子力施設を維持・改良するとともに、新規施設を建設することに焦点をあてた原子力基盤支援
- 核拡散抵抗性を備えたリサイクル・核変換技術を開発することをめざした先進的核燃料サイクル・プログラムへの財源を確保する
- 次世代の原子力専門家を養成するための奨学制度や研究奨励制度、大学の研究炉に資金を提供するため、大学の教育課程への資金提供を認める
- 安全性とセキュリティを改善した設計の原子炉の研究開発を行うことを認める
- 産業用の大規模放射線源の代替策としてどのようなものがあるかについて、研究開発プログラムを実施するようDOEに要求する
7. 税 金
- 先進的な原子力発電所(advanced nuclear power plant)の運転については、最初の8年間、発電量kWhあたり1.8セントの税額控除を行う。この中に含まれる原子力発電所は、法案に大統領が署名した後にNRCから承認を受けた設計の原子炉を採用したもので、2021年以前に運転を開始したものはすべて含まれる。kWhあたり1.8セントという控除額は、物価上昇率に応じて段階的に拡大されることはない。こうした税額控除にあたっての条件は、以下のとおり:
- − 先進的な原子力発電所の(控除を受けられる)設備容量の上限は合計で600万kW。600万kWを超える新規設備が税額控除の資格がある場合には、比例配分という形になると思われるが、財務省長官とエネルギー省長官が、資格がある施設の間で600万kWという上限を配分することを許可する。
- − 出力100万kWの原子力発電所を想定すると、1基あたりの年間控除限度額は1億2500万ドル。たとえば、100万kWの先進的な原子力発電所は、年間1億2500万ドルの税額控除を受ける資格を持つ。同じく、70万kWの先進的な原子力発電所は1億2500万ドルの70%、130万kWの先進的な原子力発電所は同じく130%の税額控除を受ける資格を持つことになる。
- 原子力発電所のデコミッショニング信託基金については、いくつかの方法によって税処理を改訂する。具体的には、以下のような方法が含まれる。
- − 適格デコミッショニング信託基金と非適格デコミッショニング信託基金間の任意の区別をなくす。適格基金とは、1984年以後に設立された基金のことである。この規定によって、非適格基金の資金を適格基金の中に移すことができるようになり、原子力発電所の残りの運転認可期間にわたって控除することが可能になる。
- − 現行の法律で規定されている総括原価要件を廃止する。これによって、原子力発電事業者は規制下に置かれているかどうかに関係なく、適格デコミッショニング基金を設立し、同基金への毎年の拠出金を控除できる。
- − 原子力発電所の売買によって移転されたデコミッショニング基金の税処理を明確にする。この規定によって、原子力発電所の売買取引にあたって、税金に影響することなく適格デコミッショニング基金を移転できるということがはっきりする。
- 蒸気発生器の輸入に対する5.2%という関税の一時撤廃を2008年まで延長する。同期間中に、19基の蒸気発生器が交換されるとみられている。また、2007年まで、23台の原子炉容器ヘッド部に対する3.3%という輸入関税も一時的に撤廃する。
(11月21日)
[終わり]
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