1.IAEAの目的と任務(同憲章から抜粋)
2.IAEAとは――わが国にとっての意味――
3.IAEAとの協力を進める基本的立場
4.IAEAとの交流開始
5.IAEAとの協力支援
6.技術協力分野での協力支援
7.原子力知識管理分野での協力
8.IAEA通常総会、原産協会年次大会レベルでの交流
9.人材育成プログラム
10.専門家派遣
11.IAEA邦人職員増強活動――IAEA活用を内部から推進するために――
1. IAEAの目的と任務(同憲章から抜粋)
第2条 目的
IAEAは、全世界における平和、保健及び繁栄に対する原子力の貢献を促進し、及び増大するように努力しなければならない。IAEAは、みずからが提供し、要請により提供し、又はその監督下若しくは管理下において提供した援助がいかなる軍事的目的を助長するような方法でも利用されないことを確保しなければならない。
第3条 任務(抜粋)
全世界における平和的利用のための原子力の研究、開発及び実用化を奨励しかつ援助し、要請を受けたときは、IAEAの加盟国による他の加盟国のための役務の実施又は物質、設備及び施設の供給を確保するため仲介をし、並びに平和的目的のための原子力の研究、開発又は実用化に役だつ活動又は役務を進める。
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2. IAEAとは――わが国にとっての意味――
上記目的と任務を果たすための実務理念としてIAEAは次の「三つの柱《を掲げている
三つの柱:safeguards, technology and safety
これを「原子力平和利用の推進とその安全担保《と捉えて、わが国、特に産業界としての意味を考えてみる。
平和利用の推進では、技術開発自体より技術移転を中心とする水平展開にあると考えて良いだろう。その方法として「技術協力(Technical Cooperation)《があり、各種文書(言わば「ガイダンス《)作成がある。かつての日本はその受けて側だったが、今や供給側として期待されている。「供給する《とは、IAEAの場を利用(経由)して受け手である国々に情報や技術を広めることである。それは、日本の原子力への国際理解を深めることに留まらず、日本技術の輸出にも繋がる戦略になり得ることも意味する。もちろん、他の原子力先進国との情報交換を通してわが国の原子力の質を高める場としての意味も強い。
安全担保では、原子力施設の安全を国際レベルで確保する各種基準類整備と、核物質管理・査察がある。基準類は、原子力利用国間での安全クウォリティー向上均質化を目指しており、途上国が原子力活動を始める際の国内基準雛型となっている。技術供給者としては自国の基準と受け手側基準との共通性、共有性の指標となるから「技術輸出のし易さ《に繋がる。IAEA基準類と自国基準の調和を図ることの意義が出てくる。規制分野は国の機関が整備の主力であるが、運転管理、品質管理など産業界との関連が深い基準類もある。核物質管理(保障措置)分野では「受け手《側面がわが国にも強いが、「統合保障措置《制度など、国情を実態に合わせるためにもIAEAを積極的に利用する考えも欠かせない。
わが国にとってこのような意味を持つIAEAの中で、対象となるIAEAの部局は、平和利用の推進では原子エネルギー局と技術協力局、安全担保では原子力安全・セキュリテイー局と保障措置局が中心となる。その協力を、効果的、効率的に進めることがわが国の原子力、原子力産業界、会員組織に有意義であるとの立場から日本原子力産業協会(略して原産協会)は、以下に示すような協力活動に力を入れている。
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3. IAEAとの協力を進める基本的立場
原産協会(前身の日本原子力産業会議を含む)はこれまで、日本の原子力開発の促進を図るうえで、平和利用の担保が上可欠であり、これを各国政府の直接の利害を離れた民間の立場で進めるにはIAEAが最も相応しい国際機関であるとの観点から、日本の原子力産業界を代表して、IAEAの諸活動に協力して来た。
NPT批准に向けて政府や政党への働き掛けを重ねてきたのも、日本の核燃料サイクル路線推進の環境を整え、国情に合ったIAEA保障措置査察業務の制度化に協力してきたのも、IAEAの存在意義を高めることがわが国産業界にとって実務的に有意義であると考えるからである。
さらに近年は、途上国における原子力利用が急速に進みつつあることから、その安全確保、日本原子力産業の海外進出の手がかりとして適切な対応を検討する場としてもIAEAの役割は重要である。途上国は技術導入を図るにも、原子力インフラを構築するにも、先ずIAEAをよき指導者、相談相手としてアプローチする。その場に日本もいることで、日本原子力への理解を進め、国同士の協力関係を築いていく格好の場がIAEAであり、戦略的にも活用を図っていく必要と意義があると考えている。
IAEAへの日本の代表機関は政府であるが、原子力の平和利用と安全利用を促進するためには、政府と相俟って、産業界としての意思を表明し、提言するチャンネルを確保することが必要と認識している。
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4. IAEAとの交流開始
原産協会発足は昭和31年(1956年)である。「原子力平和利用《の道が国の予算処置で幕が開いた2年後である。産業界の総意を受けて「まとめ役《を担うことになった。
「未知《に近い「原子力平和利用《推進だったから海外の原子力先進国との交流も最初から活発であり、昭和33年(1958年)の第2回IAEA通常総会では、「国際協力で実績ある非政府団体《として、ユネスコやILOとならんで、IAEAの諮問的地位(Consultative Status)を得ている(手続きを経ての正式認定は2年後の昭和35年(1960年))。当時唯一の民間機関であった。それ以降、IAEAとの恒常的な交流が続いている。
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5. IAEAとの協力支援
最初の支援として昭和36年(1961年)、産業界の協力を得て、IAEAがウィーン郊外に設立したザイベルスドルフ研究所に、当時の金額で500万円に相当する放射線計測機器等を寄付している。
それ以降、日本の原子力産業界のため、IAEAのために情報交流、人事交流を続け、また、要請を受けて双方の仲介を続けている。以下は、その最近の実績概要である。
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6. 技術協力分野での協力支援
IAEAが世界的に推進する「原子力平和利用《の柱の一つに、開発途上国への「平和利用技術移転《がある。それを業務として管轄するのが技術協力局(Department of Technical Cooperation, TC)である。
アジア太平洋地区もその大きな対象地域であり、専門部局を設けて取り組んでいる。それがアジア原子力地域協力協定(RCA)である。
*RCA:、アジア・太平洋地域各国に、原子力科学技術に関する研究開発・訓練の協力を促進するIAEAのメカニズム。日本は昭和53年(1978年)に加盟。
原産協会は過去に、以下のような協力支援をしている。
① 昭和56年(1981年)から数年間、「製鉄業《、「製紙業《等を対象に、研修と現場訪問を組み合わせた放射線計測機器利用の3研修コースを毎年開催(各2週間・10吊前後)。
② 昭和57年(1982年)6月から約1年、「UNDP/IAEA地域プロジェクト事務所《を原産協会内に開設。これは、工業利用プロジェクトの運営効率化のために、東京に事務所を設けたいとのIAEAと日本国政府依頼を受けたもので、他の地域プロジェクトの手本となった。
③ 最近では平成12年(2000年)からの5年、アジア原子力協力フォーラム(FNCA)事務局を勤めていた原産協会から、RCA政府代表者会合へ代表者を派遣してその政策、実行計画立案に参画し、FNCAとの協調のあり方等を協議。
人的貢献としてIAEA TC局に原産協会職員を派遣し、内部から技術協力局運営に参加もしてきている。
① 訓練コース・フェローシップ課、専門家派遣課で途上国への技術移転橋渡し役を担当(昭和62年(1987年)から平成5年(1993年))
② アジア・太平洋課プログラム管理担当官として、各国で実施する技術協力プロジェクトの企画・実施・評価を担当(平成5年(1993年)から平成12年(2000年))
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7. 原子力知識管理分野での協力
人材育成、技術継承は原産協会発足以来の大きな活動である(例えば原子動力研究会)。IAEAでもこ分野では大きな資源を投入してきている。上述した技術協力による途上国の人材育成もその一部である。
原子力先進国でも、人材育成、技術継承は世代の交代、持続性ある発展の継続に必要であり、IAEAで「原子力知識管理(Nuclear Knowledge Management、略してNKM)が部局間を越えた活動の柱となったのは前世紀末だったろうか。
直接の協力の最初は、IAEA主催の国際会議(2004年、フランス)への協賛、日本の現状報告(原産協会人材問題小委員会活動の概要)である。2007年のウィーン会議「原子力施設における知識管理に関する国際会議《では、日本原子力産業、特に原子力発電分野でのNKM状況の分析(問題点と今後の対策)をもとに、これから原子力発電を始めようとする途上国への提言を報告している。この会議では、日本のPWR/BWR/核燃料サイクルの実情を示すポスターも展示して、日本の原子力技術の広報に努めている。
平成19年(2007年)、国内ではNKMに関する最初のIAEA会議(アジア地区ワークショップ、10月)を協賛団体として開催に協力、論文も出している。日本の原子力開発の歴史上、技術伝承、人材育成がどのようになされてきたかの経験を紹介している。
これらのIAEA NKM活動に内部から推進する立場として平成19年(2007年)初頭から原産協会職員を原子エネルギー局原子力知識管理課に派遣し、特にアジア地区の関連活動(ANENTなど)に力を入れている。
IAEAそのものではないが、IAEAも協力支援しているこの分野の国際活動に世界原子力大学(World Nuclear University)がある。その活動の柱は、若手指導者を育てるための夏季研修(Summer Institute)である。平成19年(2007年)、韓国でこのセミナーが開催されたときは講師仲介に協力している。平成20年(2008年)、オタワで開かれた研修には、参加者(フェロー)と生活を共にしてフェローの議論を援け、研修運営に側面から協力する初の日本人メンター(ファシリテーター)として職員を派遣した。「夏季研修の紹介《コーナーでは、その報告や研修の実態などを掲載している。参照いただくと幸いである。
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8. IAEA通常総会、原産協会年次大会レベルでの交流
毎年のIAEA通常総会には、諮問的地位の団体として原則出席して情報交換に努める一方、併催の「サイエンティフィック・フォーラム《では、講演を通して世界の原子力課題を議論し、日本の実情を紹介している。
①. 「日本の産業界の視点で見た供給保証戦略《(2006年)
②. 「持続可能な発展に寄与する燃料サイクルシステムの全体像《(2004年)
③. 「わが国の原子力発電プラントのライフマネジメントに関する政策《(2002年)
通常総会には多くの国の代表団が集まる。その場を利用して日本の実情を展示で紹介をする例もある。最近では、新潟県中越沖地震による柏崎刈羽原子力発電所への影響についてポスターと映像で紹介した。
逆に原産協会年次大会にもほぼ毎年IAEA幹部の参加を得て、IAEA政策等紹介願っている。原産協会年次大会が極東の民間原子力機関が主催する重要な国際会議として定着する中で、IAEAにも有意義な場である。昨年(2007年)には、「IAEA創立50周年記念行事《も併催されている。
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9. 人材育成プログラム(Nuclear Energy Management School)
これから原子力発電計画に取り組もうとしている主として途上国の原子力人材育成研修プログラムが2010年、本格的に始まった。毎年、イタリア北部のリゾート都市トリエステにある「理論物理アブダス•サラム国際センター(ICTP)《を拠点に開かれるが、各国のニーズに応えてそれ以外の土地でも臨機に催される。日本でも2012年6月、アジア地区の参加者を中心に開かれた。原産は人材育成ネットワーク(NHRDN)の共同事務局としてその開催に協力し、メンターワークショップも企画・実施した。
原子力発電立ち上げに必要なインフラ整備、その段階的取り組み(Milestone Approach)、国際支援の枠組み、安全基準体系・規制の世界的レジームなど、IAEAが中心になって「平和的、健全な原子力体制構築《を支援する立場で3週間の集中的研修がその内容である。
2010年の第一回に講師&メンターとして参加した経験からその概要、日本としての活用性等を紹介する。
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10. 専門家派遣
特定できない日本の専門家をIAEAの担当者が探す場合、諮問的地位を有する原産協会にその紹介、仲介の依頼、期待が寄せられる場合がある。直近(2007年)の例では、日本が特別拠出金を出している「アジア原子力安全ネットワーク(ANSN)《のワークショップへの専門家紹介依頼である。その他にも最近では、インドネシアの原子力海水淡水化プロジェクトの推進計画に日本の軽水炉経験者、広報実務者を紹介している(2005年、2006年)。
IAEAの専門家派遣はその技術協力局が間に入る場合が多く、そこでの実務経験者を有し、産業界との太いパイプを持つ原産協会は専門家紹介仲介の適役であろう。今後とも有効で系統的な、わが国産業界としての有機的活動として協力を進める体制を作って行きたいものである。
原産協会職員を直接専門家として派遣する例も少なくない。最近の例では
① 原子エネルギー局政策諮問委員会(SAGNE)に日本委員として原産協会技術顧問がその任に当たった(2001年から2期6年)。
② 「原子力発電所補修要員と契約者の訓練とパフォーマンスに関する良好事例普及のための技術会合《(2007年9月、於ハンガリーのバラトンヒューレド)で経験事例を発表。
③ 中国対象の調整研究(CPR-4-027)「原子力発電プロジェクトの建設管理能力の向上プロジェクト《のキックオフ会合(2007年1月、於北京)に参加、中国での課題分析と対応策を提言、助言。
④ 「原子力海水淡水化に関する経済性予備成立性評価プロジェクト《総括会議((2005年5月、於インドネシアのジャカルタ)で、IAEA技術協力プロジェクトとして進めてきた同プロジェクトの総括とその後の進め方について助言。
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11. IAEA邦人職員増強活動――IAEA活用を内部から推進するために――
IAEAには従来から約40数吊の邦人職員が在籍している。もちろんIAEA活動を内部で運営する立場である。同時に日本原子力界との効果的なチャンネルであり、技術交流の橋渡しをする立場でもある。
冒頭に述べた「わが国にとっての意味《つまり日本原子力の質を高め、国際理解を深め、日本技術の海外進出をIAEA内部からファシリテートする先進部隊といっても良い。
その邦人職員を増強し、国としてよりよくIAEAを活用したいとの方針は国でも示しているが実効が思うほど上がらない。ここでその原因を分析する余裕はないが、「邦人職員増強《に関する原産協会の活動を示す。
①. IAEA採用ミッションの開催に協力(2001年5月)
②. 「原子力国際研修講座《の運営:政府の支援を受け、IAEA等国際機関要員を育成するための実践的訓練コースを毎年20人くらいの定員で実施した。2005年までに20回開催して終了。
③. 「国連機関応募の勧め《: IAEAの職員募集案内を原産協会新聞上で紹介する一方、2003年より新たに原産協会ホームページ上に本コーナーを運営。個人的相談を含め、支援情報を配信している。
④. 講演等による広報:原子力学会委員会、東大国際研修コース特別講義、学会誌や業界紙への投稿などを通して、国際機関で働く意義、日本原子力界への期待効果、心構えなどを紹介している。
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以上
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