服部拓也日本原子力産業協会副会長は、第50回IAEA総会に際して開催されたスペシャル・イベント「21世紀の原子力エネルギー利用への新たな枠組み:供給保証と核不拡散」(9月19〜21日)において、20日午前の「セッション2A:供給保証の枠組み−制度的な見方」で講演を行いました。以下に発表論文フルテキストの仮訳を掲載します。
供給保証戦略:日本の原子力産業界からの展望(仮約)
日本原子力産業協会 副会長 服部 拓也
(1) はじめに
議長、ありがとうございます。
本日ご出席の代表団、専門家の皆様、そしてお集まりいただいた皆様。本日は、国際的な供給保証の枠組みに関しまして、日本の原子力産業界の意見を、皆様にお話しできる機会が得られましたことを、大変うれしく思います。日本原子力産業協会は、設立はIAEAとほぼ同じ年になりますが、1956年に設立された産業界組織で、電力会社やメーカー、研究機関、地方自治体、マスメディアなど、400以上の企業や団体によって構成されています。当協会の役割は、原子力に関する研究、開発および利用について、産業界としての立場から議論し、政策を打ち出す場を提供することにあります。今日は、供給保証の国際的枠組みに対する、日本の原子力産業界の考えを皆さんにお伝えしたいと思います。ご存知のとおり、日本の原子力産業は現在、濃縮から再処理まで、核燃料サイクルを完結する能力を持っております。
今IAEA総会において、日本政府は「IAEA核燃料供給登録システム」を提案いたしましたが、日本の原子力産業界としましては、この提案を全面的に支持していきたいと考えています。提案されている制度は、IAEAと加盟各国が締結する供給保証協定の柔軟なネットワークです。この制度の下では、IAEA加盟国のうち、ウラン原料の供給、転換、濃縮、燃料加工、燃料備蓄などの能力を持つ国は、任意にIAEAに登録を行なうことになります。これは任意に基づいた、バーチャルなシステムですから、コストや管理上の煩雑さも最小限に抑えることができます。本日ここで改めて、日本政府のこの提案に対する、産業界としての全面支持を表明したいと思います。
私達は、国際的な供給保証枠組構築の考えを支持しています。同時に、原子力エネルギーの恩恵を各国が受けながらも、ウラン濃縮や再処理といった機微な原子力技術の拡散を制限する必要性も理解しております。このような枠組みは、近い将来に原子力を導入したいと考えている開発途上国にとっては、特に恩恵となるでしょう。核燃料の供給保証を確保しながらも、核燃料サイクル技術開発の必要性から開放されるわけです。日本の原子力計画の初期には、国際市場において核燃料を確保できるかどうかは非常に大きな問題でした。供給保証枠組みは、新たに原子力を導入しようとしている途上国にとって、核燃料をさらに確保しやすくなる制度となるはずです。
日本の原子力産業界としては、この枠組みの構築に協力することによって、枠組み樹立に貢献していきたいと考えています。たとえば、日本は核燃料成型加工サービスを提供する供給者の役割を果たすことが可能です。また近い将来には、日本は濃縮サービスの分野でも供給者になる可能性があります。このような枠組みをIAEA、あるいはその他の組織が構築していく際には、日本の原子力産業界は是非、議論に積極的に参加していきたいと考えています。
(2)日本の原子力および核燃料サイクル計画
日本の電力会社は現在、55基の原子力発電所を運転しており、総発電容量は4,958万kWです。この数字は米国、フランスに次ぐものであり、日本は、世界で第3位の原子力発電国であります。現在、高速増殖炉(FBR)もんじゅを含め、新たに3つの原子力発電所が建設され、さらに11基・1495万kWの原子力発電所の建設が計画されています。現在、原子力発電は日本の電力供給量全体の30%以上を占めており、わが国にとって、なくてはならない電源です。原子力は今後も長期的に、必要不可欠な発電源であり続けると思われます。原子力発電が全発電量に占める割合は、2030年には30%〜40%以上になるものと予想されています。
原子力発電がエネルギー源として非常に重要であると同時に、日本の原子力計画が非常に大規模であることから、日本政府と日本の原子力産業界は、核燃料サイクルの技術開発に巨額の資金と人材を投入してきました。核燃料供給を確保するための努力の一環として、1960年代からウラン濃縮技術を開発してきたほか、使用済み燃料の再処理技術も開発してきました。遠心分離技術を日本独自に開発する努力の結果、1992年には年間1,050トンSWUのウラン濃縮施設の商業運転を開始しました。また、年間800トンの処理能力を持つ六ヶ所村再処理工場は現在、運転開始に向けた最終試験を行なっており、商業運転開始は2007年半ばの予定です。
さらに2000年から、六ヶ所濃縮工場の運転者である日本原燃(JNFL)は、より高い性能と経済性を備えた新型遠心分離機の開発に取り組んでいます。この努力の結果、2010年には六ヶ所施設で新型遠心分離機の設置が開始される予定です。新濃縮施設の規模は年間1,500トンSWUです。
IAEAスペシャルイベント開会セッション (3)日本の電力会社の供給保証戦略
次に、日本の電力会社が、核燃料供給の途絶リスクを管理するためにとっている戦略について、お話ししたいと思います。これは主に、(a)長期契約の利用、(b)供給者の多様化、そして(c)燃料サイクル施設および原子炉炉心における備蓄――の3つの方策から成り立っています。
(a)長期契約によるリスク管理
日本の電力会社は、ウラン鉱の供給はもとより、様々な燃料サイクルのサービス、たとえば転換やウラン濃縮などのサービスについても、長期契約を利用しています。これらの品目やサービスをスポット市場で購入することもありますが、基本的には10年程度の長期契約が購入戦略の土台であり、これによって燃料やサービスの安定した供給を、安定した価格で受けることができるようになっています。
(b)供給者の多様化によるリスク管理
サプライヤーを、国境を越えて多くの企業に分散化することも、もうひとつの重要な戦略です。たとえば、日本のある大手電力会社は、ウラン精鉱を北米、オーストラリア、アフリカ、中央アジアなどの10社から購入しています。さらに、ウラン濃縮サービスについては、国内企業1社と外国企業4社の合計5社を利用しています。核燃料成型加工サービスについても、ほとんどを国内2社から調達し、残りを海外2社から調達しています。
ひとつのサービスについて、複数の会社を利用することには、技術的あるいはそれ以外の理由によって供給が止まる可能性に備えるという意味の他に、サプライヤー側の競争を促進して価格を下げるという意図もあります。ウラン濃縮で計画されているような国内生産能力の拡大も、さらに供給安定性に貢献すると考えられます。
(c)燃料サイクル施設および原子炉における備蓄の役割
ウラン鉱石がU308に精製されてから、成型加工された燃料集合体として原子力発電所に納入されるまでには、約2年かかります。これはつまり、フロントエンドの様々な段階において、多くの核燃料物質が「仕掛品」という形で「備蓄」されているということになります。また一般的に、燃料集合体は原子炉内で4年から5年間、燃やされることになります。したがって、炉心内にある燃料集合体は、利用可能な形での数年間分の「備蓄」だと考えることができます。さらに、日本の電力会社は緊急事態に備えて、新しい燃料集合体をサイトで何体か備蓄しています。
このように、様々な核燃料サイクルプロセスや、炉心、さらに原子力発電所サイトにおいて備蓄されている核燃料の実質的および潜在的な数量は、すべて合わせると、6、7年分の核燃料に相当します。この備蓄は電力会社にとって、供給が途絶えた際の備えとして役立っているのです。
(4)多国間アプローチ(MNA)に関するコメント
このスピーチの冒頭で述べましたとおり、日本の原子力産業界は、供給保証の国際的枠組みに関与し、貢献していきたいと考えています。今日はこの場にお集まりの外交団及び専門家の方々にご検討をいただくために、この提案に関していくつかコメントしたいと思います。
(a)供給保証国際的枠組みの必要条件
核不拡散条約(NPT)は、国際的な核不拡散体制にとって、『要』となる条約であります。従いまして、これを補完する方策、たとえば供給保証枠組みについては、この条約との矛盾を避けなければなりません。追加議定書への加盟を含め、NPTに基づき核不拡散誓約を順守しようとしている国々に対しては、NPT第4条に基づいて、その権利の行使が認められなければなりません。このような『良い』国の権利を制限することは、長期的に見て、核不拡散体制に悪影響を及ぼす可能性があると考えます。
ウラン濃縮のような機微技術の拡散を管理する必要性は理解できます。しかし、NPT加盟国を、「核燃料サイクル施設を持つ国」と「持たない国」に分けることは、核不拡散体制にとって有益ではないかもしれません。私達は、本日お集まりの外交団と専門家の皆様に、機微な技術を管理するための、より柔軟なシステムについてお考えいただくよう、お願いしたいと思います。またその意味で、日本政府の提案は、柔軟で現実的な制度の例として、お考えいただけるのではないかと思います。
(b)燃料集合体バンクに関する意見
IAEAでは、枠組みの一部として、「燃料集合体バンク」が検討されていると聞いております。確かに、すべての可能性を模索することが重要であるのはよくわかるのですが、電力会社の視点からすると、燃料集合体を備蓄しておくということは、あまり現実的ではありません。というのは、原子炉の種類や、ユーザーの要求によって、市場には本当に様々な種類の燃料集合体が出回っているからです。さらに、品質保証と規制のための要求事項が加わると、状況はさらに複雑になります。私達は、ウラン燃料の備蓄保証は、濃縮ウラン粉末(UO2)、あるいは「イエローケーキ」(U3O8)粉末の段階で行われるべきだと考えています。それならば、ユーザーの必要性や規制要求に応じて、様々な燃料集合体の製造が可能だからです。
(c)回収ウラン
日本の電力会社は、再処理によって生じた膨大な量(約7,000トンU)の回収ウランを所有しており、これらは、日本と欧州において備蓄されています。回収ウランには、天然ウランよりも高い割合のU-235が含まれており(約1%)、これは燃料供給保証において効果的に利用することが可能です。日本の電力会社は、日本政府を含めた関係各国の政府から承認および合意が得られるのであれば、将来的な国際核燃料バンクに回収ウランを商業ベースで提供することを進んで検討したいと思います。
(5)結論
議長、
機微技術の拡散を制限することによって核不拡散体制を強化する必要があることは、十分に理解するところであります。しかし、核不拡散体制の強化は、NPT体制と調和した形で行なわれなければなりません。NPTは、不拡散義務を遵守し、核不拡散にコミットしている国々に対して、原子力技術を平和的目的に利用する権利を保証しています。もちろん日本はそのような国のうちのひとつであり、法的にも政治的にも、真剣に核不拡散にコミットしています。ここで、NPTが核兵器保有国に対して、核軍縮に向けた真剣な努力を行なうことを義務付けている点を指摘しておくべきだろうと思います。そのような真剣な努力がなされれば、NPT体制の安定化に資することでしょう。
日本の民間原子力産業界の代表として、私達は新たな供給保証の国際的枠組みの構築に、単に恩恵を受ける者としてだけではなく、アクティブなプレイヤーとして関与し、貢献していきたいと思っています。短期的には、日本の回収ウランとならんで、日本の燃料成型技術を提供できる可能性があります。さらに長期的には、日本の濃縮技術もこの目的のために利用可能となるかもしれません。
ご清聴ありがとうございました。
発表論文のオリジナル(英文)は、以下をご参照ください。
発表論文フルテキスト(英文)
同 図表(英文)(844 KB)
以上
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