原産協発18(国・産)第119号 平成18年10月31日
婦人之友 編集部 編集長 殿
(社)日本原子力産業協会
2006年「婦人之友」10月号掲載 里見宏(照射食品反対連絡会)殿著
「不必要な「進歩」にブレーキを カレーが危ない スパイス94品に放射線照射を要請」
(136ページ〜139ページ)について
拝啓 時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。
社団法人 日本原子力産業協会は、原子力平和利用の促進によってわが国の国民経済と福祉社会の健全な発展向上に資することを目的に活動をしております公益法人です。
食品照射は、食品衛生の確保や損耗防止に有効な技術であること、化学薬剤を用いた食品衛生管理が環境への影響や薬剤自身の毒性の観点から制限される方向にあって、経済性に優れた代替技術が求められていること、世界各国で照射食品の許可・実用化が進展し実績があることなどから、その技術は有用性が高く、わが国でジャガイモ以外の食品についても実用化する意義は大きいと、わたくしどもは考えております。また、現在の国内外の研究結果から、技術の健全性(安全性および栄養学的適格性)の点でも問題ないと考えております。
今般貴誌2006年「婦人之友」10月号に掲載された首題記事は、食品照射の技術に疑問を呈する、あるいは否定する見解を掲載したものと考えられますが、その内容については多くの点で疑問を感じております。当該記事は、貴誌自身が事実関係の確認をした上で採用されたのでしょうか。そうであるのなら、下記に具体的に示します疑問点に対する根拠(資料・データ)を提示していただけないかと存じます。
もし、仮に、貴誌が根拠の乏しい偏った見解を採用したものであるなら、当該記事を掲載した貴誌の報道によって、読者である国民全般の不安と誤解を徒に引き起こしかねないと強く懸念しております。さらに、このことが将来の食糧および人口問題に寄与し得る科学技術の「必要な進歩にブレーキとなる」ことを心配いたします。 貴誌の食品照射に対する見解および報道姿勢をご説明いただくとともに、わたくしどもの疑問点に対する事実関係についてご確認いただき、報道機関として適切に読者にお伝え下さいますようお願い申し上げます。
なお、本件につきましては、貴誌からのご回答を含めインターネットを通じ当協会のホームページに掲載するなど情報公開していきたいと考えておりますので、あらかじめお断り申し上げます。
敬具
記
1.表題(p136)
1−1「原子力委員会は昨年十月、食品への放射線照射の推進を決めた。」
〈コメント〉
原子力政策大綱には、「生産者、消費者等が科学的な根拠に基づき、具体的な取組の便益とリスクについて相互理解を深めていくことが必要」「多くの国で実績がある食品については、関係者が科学的データ等により科学的合理性を評価し、それに基づく措置が講じられることが重要」と記述されておりますが、「推進を決めた」と判断される記述は見当たりません。その事実を示す資料をお示し下さい。
1−2「その皮切りに…(略、以下同じ)…スパイス94品目を選んだ。」
〈コメント〉
原子力委員会食品照射専門部会報告書「食品への放射線照射について」(平成18年10月決定)においては、そのような記述はなされていません。その事実を示す資料をお示し下さい。
2.ジャガイモだけに許可(p136-137)
2−1「…士幌農協は在庫を抱えることになり、日本学校給食会を通じて全国の学校給食で食べさせたのです。」
〈コメント〉
士幌農協では、必要量に応じて照射しており在庫を抱えるということはなく、日本学校給食会に圧力を加えることはあり得ないときいておりますが、士幌農協から日本学校給食会へ働きかけたことを示す資料をお示し下さい。
2−2「士幌農協は3万トンの照射能力がありますが、生産量は一切公開していません。」「保坂展人議員が出した質問趣意書に初めてその量が公表され、…その行方は分かりません。」
〈コメント〉
士幌農協は、他のジャガイモと同様に、生産量や出荷先の情報は明らかにしていると思われますが、照射ジャガイモだけを特別に情報公開しないようにしているような事実を示す資料があればお示し下さい。
2−3「…原子力委員会は、この状況を苦々しく思っていたのです。」
〈コメント〉
その事実を示す、あるいはこのように記述した根拠となる資料をお示し下さい。
3.スパイスに便乗した原子力委員会(p137)
3−1「原子力委員会は、原子力発電の他に照射食品も推進する方針を、・・・決めました。それは、原子力平和利用を強調するためでもあります。」
〈コメント〉
1−1で書きましたとおり、原子力政策大綱で食品照射推進を決定した事実はありません。また、原子力発電との関係において、平和利用を強調する必要性はまったくありません。わが国は、原子力基本法で原子力の研究、開発及び利用は、平和の目的に限っております。食品照射が原子力の平和利用の強調にどのように関係するのか、何故そのようにお考えなのか理解できません。ご説明下さい。
3−2「しかも照射食品が広がらないのは、消費者の理解不足と決めつけ、消費者の抵抗は根拠のないものとしたのです。」
〈コメント〉
原子力政策大綱には、「社会への技術情報の提供や理解活動が不足している」「生産者、消費者等が科学的な根拠に基づき、具体的な取組の便益とリスクについて相互理解を深めていくことが必要」と書いてありますが、食品照射について上記のような記述は見当たりません。根拠となる資料をお示し下さい。
4.信憑性に問題がある報告書(p137-138)
4−1「原子力委員会は、照射食品が安全だという根拠をIAEA(国際原子力機関)・FAO(国連食糧農業機関)・WHO(世界保健機関)…80年に出した…報告書にゆだねました。」「…ここに集まった推進派の人たちが、…焦りのあまり国連機関を利用して作り上げた、非科学的な結論といえます。」
〈コメント〉
IAEA/FAO/WHOの合同専門家委員会の報告は、十分信頼性のある科学的結論であると考えますが、この結論に対し、信頼できる科学的データをもって異を唱える国際機関、国の規制機関、研究機関などがあれば教えて下さい。また、「焦りのあまり国連機関を利用して作り上げた、非科学的な結論」ということを証明できる資料がありましたらお示し下さい。
5.照射タマネギは危険(p138)
5−1「全文(スパイスの中にタマネギも入っているのですが、日本の国立衛生試験所…卵巣と睾丸が小さく、骨に異常が出ることがわかり、再実験が行われました。…1万グレイどころか150グレイでも危ないのです。)」
〈コメント〉
当該実験で、実際そのようなデータが含まれていたことは承知しています。ただ、それが放射線照射に起因するものであるかどうか、単なるデータのバラツキを部分的に捉えただけのものではないかとも考えられますので、当該実験結果に対する国立衛生試験所の最終的な評価、結論はどうなっているかをご説明下さい。
6.その他の問題点(p138-139)
6−1「照射すると食味が低下する食品がある…。これは安全性と密接な関係があります。」
〈コメント〉
食味が低下することと安全性がどのように密接な関係があるか理解できません。「照射臭がHACCPを作るきっかけとなった」、「ベビーフードへの照射が発覚したきっかけともなった」、「臭いは照射によって新しい物質が出来ること」、「照射によってできる物質2−ドデシルシクロブタノンの強い発ガン増強作用」という論理展開として読み取れますが、食味またはその一部ともいえる臭いが直接人の健康に影響を与えるという研究報告や具体的メカニズムについてご説明下さい。また、シクロブタノンの毒性に関する研究報告は承知しておりますが、それが人の健康に危険をもたらすものであるという、科学的に信頼性の高い評価をしている国際機関、国の規制機関、研究機関などがこの他にあればご教示下さい。
6−2「原子力委員会は、…それを引用して安全だとしたのです。…実験してみればよいのですが、それをせずにWHOを信じたのです。」
〈コメント〉
原子力委員会は、リスク評価機関ではなく、わが国では食品安全委員会がその責任を負っていることはご存知かと思います。今回の食品照射専門部会報告書は、現時点で世界で公表されている信頼性の高いデータを調査して、「健全性について一定の見通しがある」との結論を出したもので、国のリスク評価機関として最終的な結論を出したものではないと承知しています。今後食品安全委員会で実験を実施してその検証をしなければいけないような重要なこととされるかどうかは疑問ですが、もし、原子力委員会が現時点で実験をして検証しなければ不十分であるとする根拠があれば、それをご説明下さい。
6−3「照射ジャガイモやタマネギは…三倍も腐りやすくなります。」
〈コメント〉
その根拠となる、信頼できる科学的研究データを示してください。
6−4「また、照射で殺菌すれば食中毒を防ぐといっていますが、これは中毒のメカニズムを無視しています。照射後、直ちに完全密封しないとまた菌がついてしまう…密封すれば照射臭が残り、…放射線に強いカビが生き残って、そのカビが出すアフラトキシン・・・が、照射食品から見つかるのです。」
〈コメント〉
食品衛生に関しては、生産から消費者の口に入るまであらゆる過程で十分な品質管理がなされないことには安全性が確保できないことはいうまでもありませんが、食品照射も例外ではなく、適切な処置、管理がなされなければ、他の技術と同様二次汚染は当然起こり得ると考えます。また、密封して照射すれば照射臭が残るものもあります。それらは対象とする食品の選別や品質管理の方法など工夫次第で解決できるものと考えておりますし、ある特定の食品に対し、他の技術の方が優れていると判断されればそちらを選択すればいいことは自明であります。このような観点から、他の技術との比較で、食品照射が特に「中毒のメカニズムを無視している」とする根拠をお示し下さい。また、アフラトキシン産生菌は放射線に弱いときいておりますが、放射線抵抗性のカビがアフラトキシンを出すという科学的な証拠をお示し下さい。
7.照射の有無を調べる検知法はない(p139)
7−1「どのくらいの線量を何回当てたのかという定量的検知技術は開発されていません。これでは実用的な意味がないのです。」
〈コメント〉
定量的検知は、他の技術でも必ずしも要求されていないと思います。例えば、加熱温度や処理時間を検知する方法が無くても加熱殺菌は許可されています。定量的検知技術が開発されるにこしたことはありませんが、現在の定性的検知技術でも十分実用に耐え得ると考えます。他の技術との比較において、定量的検知技術の開発がなければ実用的意味がない理由をお示し下さい。
〈本件ご連絡先〉
(社)日本原子力産業協会 国際・産業基盤強化本部
〒105-8605 東京都港区新橋2-1-3 新橋富士ビル5階
TEL: 03-6812-7125 FAX: 03-6812-7110
(社)日本原子力産業協会HP http://www.jaif.or.jp/
以 上
注:文中、個人情報に係る語句は修正または削除いたしました。
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