第40回原産年次大会における原産協会会長所信表明
以下は、平成19年4月10日午前の開会セッションにおける今井会長の所信表明です。
2006年4月10日 (社)日本原子力産業協会 会長 今井 敬
本開会セッションの議長をなされています東北電力社長の高橋宏明様、弘前大学の学長で本大会準備委員長の遠藤正彦様、青森県知事の三村申吾様、原子力委員会委員長の近藤駿介様、ご多用中のところ、第40回原産年次大会にご参加下さいまして、誠に有り難うございます。
また、海外諸国からのゲストの皆様、原子力産業界の皆様、そして青森県の皆様の多数のご参加に、厚く御礼申し上げます。
さて、燃料サイクル事業の要である六ヶ所再処理工場が本年11月に本格操業を開始する運びとなっております。燃料サイクルの完結に向けて、原子力産業界が安全確保を大前提として、推進に取組む決意を改めて示すために、本大会を青森で、開催することとした次第です。
また、原子力平和利用の推進と核不拡散の検証および原子力安全を任務とする国際原子力機関(IAEA)が設立 50周年を迎えるに当たり、本年次大会と合わせて、特別シンポジウムを開催します。
このようなことから、本年次大会の準備委員会でご審議いただき、大会のテーマを「原子力立国日本をささえる燃料サイクル −− 平和利用促進と核不拡散の調和を世界へ」とさせて頂きました。
青森での大会開催にあたりまして、まず、日本の最重要施設であります六ヶ所再処理工場など原子燃料サイクル施設を受け入れて頂き、その建設、運転にご理解を頂いております青森県の皆様に、心から御礼を申し上げたいと思います。
私は、昨年6月に会長に就任して以来、日本各地の原子力施設や知事を訪問しておりますが、その際、痛感致しましたのは、日本のエネルギーの太宗となった原子力は、日本各地の様々な地域の方々の理解と協力によって支えられているということです。
青森県においては、日本原燃をはじめとする事業者が何よりも安全確保を最優先して事業を進めることが肝要ですが、県民の皆様におかれましても十分なご理解を頂けるようお願い申し上げる次第です。
皆様ご高承のように、BRICs(ブリックス)諸国、特に中国の非常な発展によりまして、資源・エネルギーの需給が逼迫し、価格が高騰し、我が国にとっても資源・エネルギーの安定的な確保ということが、重要な問題となってまいりました。また、地球温暖化が進みまして、環境問題への対応が待ったなしの状態になってきております。そして、こうした問題の切り札として原子力が世界的に見直されてきています。日本では、「原子力立国計画」が昨年発表されました。政府による「ぶれ」のない原子力政策の推進を強く期待するとともに、私共民間産業界も一体となって進めたいと考えております。
日本の一次エネルギー自給率は、僅か4%であり、原子力を準国産エネルギーとみて、盛り込んだとしても16%に過ぎません。食糧の自給率が少ないと言われていますが、それでも40%あります。
石油の供給については、日本は、政情不安な中東に90%も依存しており、中でも米国と緊張関係にある イランから15%も輸入しています。
天然ガスについては、今ロシアが大きな影響力をもつに至り、また日本が大幅に輸入しているインドネシアでは、内需が増えており、日本の輸入量は従来の半分に減るかもしれません。このように天然ガスの世界情勢は変化しています。
この意味から、燃料を作り出す原子燃料サイクルを回し、原子力発電をエネルギーの中心に据えて、エネルギー安全保障を図ることは、極めて重要です。
京都議定書の発効を受けて、我が国では、炭酸ガス排出量を減らすために、原子力発電所を2030年までに10基以上新設する計画でおりますが、電力需要の伸び悩みもあって、計画通り進んでおりません。
電力kWh当たりの炭酸ガス排出量は、石炭を100としますと、天然ガスは、50であり、原子力は、僅か2です。風力や太陽光よりも少ないのです。
ですから、原子力は、まさにエネルギー自給と地球環境の切り札なのです。このような目で、原子力の意義をもう一度、考えて頂きたいと思います。
昨年秋、電力会社において過去のデータ改ざんが明らかになったのを契機に、国は、一般電気事業者に対して、全ての発電設備について、過去に遡りデータ改ざんや必要な手続きの不備、その他同様な問題がないかの総点検を行うよう指示を出しました。電力会社は、それを受けて3月30日に調査結果を公表しました。
この調査は、長い期間の過去に亘って、電力会社自らの手によって、昔のOBを含めた7万人の面接調査等を実施して、自らの過ちを掘り出したものであります。
いま各社の行うべきこととしては、過去の過ちに真摯に向き合って、技術、経営、社員の行動様式などに至るまで、その要因を徹底的に分析し、今後に活かすことです。
先日(4月6日)、この課題を解決するための対策が、各電力会社より表明されました。
「この課題を解決しないと、原子力開発利用に未来はない」との覚悟のもとで、電力会社はもとより、関係のメーカーなどと一体となって、早急に対応して頂きたい。
冒頭で申し上げたとおり、原子力は、我が国にとって、あるいは国際社会にとっても不可欠なものとなっており、活動の停滞は、許されるものではありません。
私は、現在わが国が行っている軽水炉による原子力発電は極めて安全性の高いものと考えており、皆さんにもそう申し上げてきました。今回の調査で明らかになった臨界問題については、同様な事態が今後も続くようでは、原子力発電の安全性に対して国民の信頼を得ることはできません。技術的問題については、しっかりと調査し、確実な防止方策を取って頂きたい。
適切な方策が講じられれば、基本的には原子力発電の安全性が揺らぐものではないと考えております。
日本原子力技術協会は、電力会社との連携を強化して運転経験情報の共有を一層推進し、その利活用をはかるとともに、ピアレビュー等を通じて事業者との対話を充実させていくとの方針を表明されました。
当協会は、昨年10月に「原子力産業安全憲章」なるものを制定して、原子力産業に携わる者一人ひとりの行動指針としました。私はこれを携えて全国の原子力施設立地県を訪ねて対話・広報に努めておるところであります。今後は、この度の対策が確実に実施され、再発防止に繋がるよう、今まで以上に経営トップと意見交換を重ねたいと考えます。
施設を安全に管理・運転するには、まず現場で働く人達に過度の負担をかけず、使命感をもって自主保安活動に専念できるようにすることが重要であります。当協会としても、現場の声に耳を傾け、そのための方策を提案して参りたいと存じます。
さらに、このような活動の進展を広く関係方面に発信し、立地地域をはじめとする皆様に、原子力の信頼を回復してもらえるよう行動して参りたいと存じます。
わが国では、今後10年間に、計画通りに進めば10基程度の原子力発電所を建設することになっていますが、実際には、電力需要の伸び悩みもあり、低迷が続くものと考えられます。しかし、2030年頃になりますと、既存の原子力発電所のリプレース時期を迎えますので、大量の発注が予想されます。
一方、海外では、米国、ロシア、中国、インドでは、2020年頃までにそれぞれ20基前後の原子力発電所の建設を計画しております。ベトナム、インドネシアなどの途上国においても原子力発電の導入を計画しており、世界では、原子力発電所の建設ブームが間近に控えております。
将来の日本でのリプレースを含む原子力発電所の建設ブームに備えるために、今から日本のメーカーと電力が一体となって取組んで、国内建設だけでなく、輸出にも強い体制基盤を確立し、世界の厳しい競争社会の中で、勝ち抜くことのできる体制になって貰いたいと思います。
また、国は、我が国の原子力産業界が、世界と競合しながら国際展開を進めるためにも、我が国の規格・基準を国際規格・基準に合わせるよう取組んで頂きたい。
使用済燃料を再処理することにより発生する高レベル廃棄物の処分については、原子力開発の当初から技術的・制度的な課題について取組まれてきたところですが、2000年の春にその処分の方針が決定しました。現在、高レベル廃棄物の処分場を決めるために、原子力発電環境整備機構([NUMO])が中心になって、その候補地選定の公募を進めております。
処分事業は、国家のエネルギー政策に影響を与える重要な事業であること、また、その事業の長期性を考えますと、処分場を誘致した地域だけが、この問題を背負うには、あまりにも荷が重過ぎます。
このため、国および電力をはじめとする関係機関は、国民各層の間で広範な議論をさらに行い、地層処分の必要性や安全性についての理解を深め、事業を受け入れる、そして受け入れた地域を社会が支える環境を広く醸成させていくことが必要です。従いまして、国は、処分事業の重要性や安全性を広く国民に訴える努力をして頂きたいと考えます。
以上、わが国として取組むべき当面のいくつかの課題を申し上げました。最後に、今回の年次大会の準備会議メンバーの方々、国内、海外の発表者、議長の皆様に感謝の意を表したいと存じます。また、本協会の今後につきましても十分その責が果たせますよう、今後ともご指導ご鞭撻頂きますようお願い申し上げます。
以上
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