当協会服部理事長がインドを訪問

 原産協会の服部理事長は、2010年1月30日〜2月7日の日程でインドを訪問し、ニューデリーで開催されたWANO(世界原子力事業者協会)隔年総会に参加するとともに、バネルジー原子力委員長との懇談、バーラト重電公社(BHEL)およびワルチャンドナガール・インダストリーズ社(WIL)の視察を行いました。


WANO隔年総会

 1月31日〜2月2日のWANO隔年総会では、「更なる原子力安全の確保に向けて〜変化する世界の中で」をテーマに、新興国の原子力発電導入・拡大、既存事業者の増設、次世代の人材育成、経営トップの関与のあり方といったトピックについて議論されました。また、設立から20年の今年を岐路と位置づけ、これまで安全確保に向けた活動は一定の成果を挙げていますが、今後はさらに原子力の役割が増大するとみられることから、WANOの実効性を高めるため、組織体制の見直しや機能強化が検討されました。



WANO隔年総会の会場



バーラト重電公社(BHEL)訪問

 2月3日には、デリーから北に車で約6時間行ったハリドワールにあるバーラト重電公社(BHEL)を訪ねました。ハリドワールは、ヒンズー教の聖地の一つで、ガンジス川の上流に位置します。



BHELタウンシップの入口


BHELタウンシップ内の学校

 BHELは、インド政府が約68%出資している国営企業で、インド最大の重電機メーカーです。売上高は年間2,800億ルピー(約5,500億円)、本社はニューデリーで、国内に15ヶ所工場があります。発電、送電、産業、輸送、石油・ガス、防衛等多岐にわたる分野を手がけています。

 発電分野においては、ボイラー、蒸気タービン、ガスタービン、発電機などの各種主要機器の供給から、ターンキー方式による発電所の建設までを手掛け、BHELの発電設備は国内の設備容量の65%のシェアを誇っています。原子力発電設備容量に占めるシェアは76%で、原子力発電設備容量の4,340MWeのうち、3,280MWeに寄与しています。主に蒸気発生器とタービン発電機等を供給しており、現在運転中の18基のうち12基のタービン発電機を供給しています。

 今回訪問したBHELハリドワールには、重電機器工場(HEEP)、中央鋳造鍛造工場(CFFP)、汚染制御研究所(PCRI)があります。従業員は、HEEPが5600人、CFFPが1146人、PCRIが31人、合計6777人が働いています。その一帯の広大な敷地は、従業員の住居が6186軒、学校が17校、180床の病院等があるBHELのタウンシップとなっています。

 今回はHEEPを訪問し、タービンと発電機の製造工場、タービン組立工場、発電機組立工場、タービンブレード製造工場を視察しました。100MW〜1,000MW級のタービン発電機製造能力があり、これまで原子力発電所には、最大540MWのタービン発電機を製造しています。

 BHELは、原子力発電機器の分野での実績と能力を持っており、将来の軽水炉の建設にも貢献していきたいと意欲を語りました。



服部理事長とBHELモディ常務


BHELのTG試験台



バネルジー原子力委員長と懇談

 2月5日には、ムンバイのインド原子力省(DAE)にて、2009年11月末に新たに就任したバネルジー原子力委員長と懇談を行いました。



インド原子力省

 バネルジー原子力委員長からは、海外の大型軽水炉導入にあたり、日本からの機器供給に対する強い期待が寄せられました。インドは2030年までに原子力を63GWに増やす計画ですが、その成否はサプライチェーンにかかっていること、特に米国およびフランスから大型軽水炉を導入することが決まっていますが、両国ともその機器については日本にかなり頼っており、日本次第で原子力拡大のスケジュールに影響が出ることになるとの懸念が述べられました。

 日本からの機器供給には政府間協定が必要となるものの、バネルジー委員長は日本の核兵器に対する敏感さへの理解を示し、政府間の交渉は時間がかかるため、それと同時に産業界が継続して関係を築き相互の理解を深めていくことが大切だとの意見で一致しました。



服部理事長とバネルジー原子力委員長



ワルチャンドナガール・インダストリーズ社(WIL)訪問

 その後、2月5日から6日にかけて、ムンバイから南東に車で約6時間行ったところにあるワルチャンドナガール・インダストリーズ(WIL)を訪れました。



WIL工場


WIL幹部と

 WILは民間の重電機メーカーですが、1908年に設立した当初は砂糖精製工場でした。砂糖精製機器の部品を輸入するのに時間がかかるため自分達で製造を始め、さらに製糖機器の製造販売と事業を拡大し、1960年代には重機械の製造を始めました。現在は、原子力、航空宇宙、防衛分野の主要機器や、セメント、選鉱機器、製糖、石油・ガス、ボイラー、鋳造等様々な分野を手がけています。本社はムンバイにあり、工場は、ワルチャンドナガール(重工業機械工場)、サタラ・ロード(鋳鉄工場)、ダルワール(精密機械工場)の3ヶ所にあります。2007-08年度の収益は約70億ルピー(約150億円)です。

 今回訪問したワルチャンドナガールの工場は、敷地が6万平方メートル、総従業員数は1900人(管理職550人、熟練工1350人)です。ほとんどが地元のマハラシュートラ州出身であることから、地元の雇用に貢献しています。原子力発電所の主要炉心機器の製造を行っており、インドの原子力発電所のほとんどのカランドリアはWILが製造しています。その他、熱交換器、ダンプタンク、エンドシールド、フューエリングマシーン等を製造、また、原子力潜水艦やロケットの機器も製造していました。

WILワルチャンドナガール工場の視察

 WILは、原子力ルネッサンスに備え、「ワルチャンド・テクノロジーセンター」を設立して設計・エンジニアリング能力の高度化を図るとともに、グジャラート州ダヘジの海岸沿いに、原子炉圧力容器や蒸気発生器、加圧器等大型機器の製造・運搬の工場設立のため、60エーカーの用地を取得しました。

 WILより、原子力ビジネスにおいて日本の企業と長期的パートナーシップを組みたいとの強い希望が寄せられ、PWR、BWR、PHWR等のエンジニアリング・製造・据付での提携、また、インドは鍛造能力が限られており、ぜひこれらの分野で互いの強みを活かしてwin-winの関係を築きたいと提案がありました。服部理事長から、原子力機器は二国間協定がないと難しいので、まず原子力以外の分野から始め、協定が締結されたら原子力分野に乗り出せる下地を作っておいた方が良いのではないかと勧めました。



プネのWIL事業本部


服部理事長とWILデシュムクCEO


以上