今井敬 日本原子力産業協会会長 年頭挨拶

平成26年1月8日

 皆さま、明けましておめでとうございます。
 安倍内閣が発足し1年が経ちました。日本は明るさを取り戻してきたと感じております。異次元の金融政策により、円は30%安くなり、株価は昨年1年間で60%上がり時価総額で200兆円上がったことになり、消費に非常に良い影響が出ていると思っております。
 政治的にも、昨年7月の参議院選挙で「ねじれ」が解消し、これから2年半選挙もなく安定した「決められる」政治ができると思っています。また、安倍首相には、昨年13回も海外でトップセールスを行ってもらいました。もう一つ、昨年9月にオリンピックが56年ぶりに東京に戻ってくることが決まりました。後6年半ありますが、この間、国民は夢と希望をもって、期待しているところであります。従いまして、世の中が明るくなってきております。
 しかし、残念ながらエネルギーについては明るい話題は昨年から一つもございませんでした。昨年9月に大飯4号機が停止し、日本で稼働中の原子力発電がゼロとなりました。その結果、9電力が調達するエネルギーのコストが、3兆6千億円も上昇したと聞いております。このお金は全て国外へ流出し、コスト上昇分は、電力会社が値上げしなければならなくなり、産業も困り、海外移転が加速しております。
 昨年の貿易収支は恐らく10兆円の赤字となるということで、危機的な状態であります。今年は、政治的には消費税の引き上げが一番大きな問題だと思いますが、経済的にはエネルギーの再構築が最も大事なことであると考えます。

<エネルギー基本計画(総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会)>
 昨年の暮れに、エネルギーを審議している委員会(総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会)が、エネルギー基本計画に対する意見を出しました。原子力については、「エネルギー需給構造の安定性を支える基盤となる重要なベース電源」と位置付け、「新規制基準の下で安全性が確認された原子力発電所については、再稼動を進める。」としております。このように進めて行ければ、エネルギーの諸問題がかなり解決すると考えます。
 また、異常気象が続いておりますが、最近おろそかになっている地球環境問題に関して、昨年11月のCOP19で、日本はCO2を2020年までに2005年比3.8%削減すると発表して、世界の失望を買いました。しかし、原子力が再稼動すれば、10%は改善されると思っております。
 一方、厳しい意見もあります。将来の原子力の依存度は「可能な限り低減させる」とも述べております。また、これまでは原子力を絶対安全だと言ってきましたが、事故のリスクがあると述べており、事故のリスクをしっかりと認識し、事故に対して、備えを拡充していかないといけないと書かれています。最終処分の問題についても、「将来世代に負担を先送りしないよう、現世代の責任」で解決しなければならないとしております。
 これらは、委員会(総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会)の意見段階ではありますが、パブリックコメントが終わり、これから恐らく政府・与党や野党との調整が行われ、私はできるだけ早く閣議決定し、国の国策として位置づけることを強く念願しております。

<原子力の再稼動>
 原子力の再稼動がどういう手続きになっているかと申し上げますと、1年半前に原子力規制委員会が発足しました。この委員会が約1年かけて昨年7月に新規制基準を発表しました。そして、この基準をクリアできると考えた原子力発電所が、7月から年末までに適合性確認の申請を16基出しました。これを審査するのは、旧原子力安全保安院を主体とし増強した原子力規制庁であります。現在3班に分かれて9つの発電所の審査を行っておりますが、半年経過しても、どこの発電所が稼動できるかの目途が立っておりません。
 少なくとも年度内には、いくつかの発電所が安全確認を終えて欲しいと思います。しかし、安全確認ができても、そのまま再稼動とはなりません。ご存知のとおり地方自治体の了解を得ないといけませんし、国民の間には反対の方もおります。安全確認ができた後の地方自治体への説明は、一義的には電力会社の責任ではあります。しかし、政府が原子力を正式にベース電源として位置づけ、もちろん安全が大前提ではありますが、国策として原子力が必要だということを自治体へ大いに働きかけ、また国民に対しても説明をして頂きたいと、これを心から願っております。原産協としても、微力ながらお手伝いをしたいと思っております。

<福島第一原子力発電所の廃炉>
 廃炉については、私どもは海外と一緒にやった方が良いと常々言ってきました。昨年秋に国際廃炉研究開発機構(IRID)ができました。京都大学の山名先生が理事長であり、この組織が、廃炉等に関する国内外の意見を集め、780の提言が出てきました。また、外国の専門家を雇って、知識経験を生かすということもやっております。つまり、廃炉については、東京電力とこのような国際的な機構とが一体となって、一番良い廃炉の方法で研究開発・実施をする体制が出来つつあります。

<福島第一原子力発電所の汚染水問題>
 汚染水についても、昨年オリンピック誘致の場で安倍首相が「アンダーコントロール」とおっしゃいました。建屋内に入った地下水が、汚染水として増えないように、政府がお金をかけて対策を始めております。また、東京電力も汚染水の処理において設備を増強し、外に出ないようにすることになっております。国が前面に出て頂き、福島での問題、例えば避難している住民が一部でも早く帰還できるというようなこと、また住民の放射能に対する不安が少しでも和らぐことに繋がるのではないかと期待しております。

<原子力全般>
 原子力においては、まだ様々な問題があります。テロ対策、核不拡散、核燃料サイクルをどのようにまわしていくのか、中間貯蔵、最終処理、原子力賠償法のあり方などがございます。中でも一番大切なのは人材の問題です。これから再稼動も始まるでしょうが、廃炉にも必要であり、更に海外へ進出するとなると、ますます人材が必要となります。人材の養成も今後力を入れていかないといけません。
 原子力は、やはり放射能を持っているため、細心の注意が必要であります。万一福島のような事故が再び起これば、日本の原子力発電は終わりになるのではないかと思っております。原子力には事故のリスクがあるため、最善の努力をしなければならないし、万一事故が起きた場合でも、放射能を絶対に外へ漏らさないよう、普段から訓練を積み重ねていく必要があると考えます。
 私は、今年は原子力がゼロから再出発する非常に重要な年であると考えます。原子力関係者の皆さんが初心に返り、覚悟を新たにして頂きたいと心から願っております。

<原産協会の活動>
 私ども原子力産業協会としては、福島の復興が第一だということで、福島に出向き、放射能の正しい知識を広め、地方自治体と一緒に勉強会を開催するなど、少しでも不安を和らげる活動を行っておりまして、少しずつ効果が上がっていると考えております。また、海外を含む国内外の専門家を集めてシンポジウムを行い、原子力に対する世論形成の一翼を担っております。さらに、日本で起こっている状況について、海外へ情報発信をタイムリーに行うよう努めておりますし、人材育成の活動も実施しております。
 今後もこのような活動を続けていきたいと考えておりますので、皆様方のご支援とご理解を心からお願い申し上げます。

<むすび>
 以上、年頭にあたりまして、私の考えを申し上げました。
 今年こそ、原子力関係者にとって、原子力の再出発の良い年となることを祈願して、私からのあいさつとさせていただきます。ありがとうございました。

以上