■シリーズ「あなたに知ってもらいたい原賠制度」【6】
原子力損害の補完的補償に関する条約
今回は、原子力損害の補完的補償に関する条約(CSC)についてQ&A方式でお話します。
Q1.(CSCの特徴)
米国が加盟したCSCとは、どのような条約ですか?
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A1.
・ CSCとは、原子力損害の補完的補償に関する条約(Convention on Supplementary Compensation for Nuclear Damage)のことです。
・ パリ条約(改正パリ条約を含む、以下同じ)、ウィーン条約(改正ウィーン条約を含む、以下同じ)と同様に、原子力損害の責任に関する事項を定めた条約ですが、大規模な原子力損害により責任限度額を超えた場合、全締約国が拠出する補完基金により、実際の補償額が底上げされるのが特徴です。
・ CSCに加盟するための条件は、パリ条約、又は、ウィーン条約に加盟しているか、もしくは、補完基金条約付属書における一定の内容を有する国内法の規定が必要です。
・ 原子力の新興国にとっては、新たにパリ条約、ウィーン条約に加盟するよりも、比較的に加盟しやすい仕組みになっています。そのため、法制度の整備を目指すアジア諸国等にとっては都合の良い条約と言えます。
・ また、原子力に関し独自の法制度を既に持っている米国のような国や、原子力賠償法が既に整備されている国にとっても加盟しやすい条約と言えます。
【A1.の解説】
1.CSCの仕組み
CSCは1997年にIAEAで採択された条約で現在未発効ですが、各国の国内法による原子力損害賠償措置を補完しています。その仕組みは、原子力事故の発生時に、事故発生国の責任限度額(原則3億SDR=約500億円に相当します)を超えた場合、すべての加盟国により拠出された補完基金を用い、より多くの補償額を被害者に対して提供するというもので、世界規模での原子力損害賠償の枠組み構築を目指すものです。
この補完基金の資金は、加盟各国の原子力設備容量および国連分担金割合に応じて算出されます。したがって、加盟国が増加するほど、その資金は増加し、大規模な原子力事故への備えとなります。
2.CSCの特徴
パリ条約やウィーン条約の加盟国ではない国がCSCに加盟するための条件に「付属書」の規定に適合する国内法を要求することはCSCの特徴の一つです。この付属書では、パリ条約、ウィーン条約と同様に、原子力損害の範囲、原子力事業者の無過失責任及び責任集中、賠償責任限度額の設定、損害賠償措置の強制、専属裁判管轄の設定と判決の承認・執行の義務、といった原子力損害の責任に関する最低基準・基本原則を定めています。
責任額については原則3億SDR(約500億円)を下回らない額とされ、これに不足する額は公的資金により補償されることとなりますが、この責任額はウィーン条約と同様で、パリ条約の7億ユーロ(約1000億円)よりも大幅に少なく設定されています。
また、異常な性質の巨大な天災地変による原子力損害の責任は免責とされており、これが有責とされているパリ条約、ウィーン条約と大きく違っています。
これらを総合すると、CSCは、アジアにおける原子力発電所等の既設の韓国、中国(法律未整備)、台湾、日本にとっては勿論、および、新規の原子力導入予定の諸国にも加盟しやすい条約であるといえます。
さらに、付属書に米国の法制を考慮した事項を設け、同国が加盟できるよう配慮されています。原子力損害賠償条約では原子力事業者の無過失責任と責任集中が原則事項とされていますが、米国の原子力賠償法であるプライス・アンダーソン法では、こうした原則はとられていません。そこでこうした配慮がなされているものです。但し米国の法制においては、事業者への責任の集中は、経済的な責任の集中となる仕組みになっており、被害者が迅速・公平な救済を得られるようになっています。
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Q2.(CSC加盟を目指す理由)
いま、日本がCSCに注目しているのは何故ですか?
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A2.
・ CSCは、パリ条約、ウィーン条約に比べて、いくつかの事項(免責事由、除斥期間など)において、日本の原賠法と親和性があります。
・ アジア周辺諸国が比較的加盟しやすい内容であり、アジア周辺地域において国際的な原子力損害賠償体制を構築できる可能性があります。
・ 日本と原子力ビジネスでつながりの深い米国がCSCに加盟したことは、日本が加盟する場合の方向性と一致しており、また、日本が原子力プラント等の輸出する原子力新興国において、当該国が国内の原子力賠償制度の構築および賠償条約への加盟を並行して行なえることの条件に最適と判断されます。加えて、当然のことながら、日本も同じ枠組みに加わることが米国から期待されています。
・ ただし、我が国がCSCに加盟するためには、いくつかの解決しなければならない課題があります。
【A2.の解説】
我が国が原子力損害賠償に関する国際条約の加盟を想定したとき、A1で述べたとおり、制度上の整合や国際的な状況から判断して、CSCを念頭に置くのが現実的とされています。
まず、我が国の制度との間に大きな相違がないことが重要であることから、次の2点が挙げられます。
@ 我が国では、CSCと同様に、異常に巨大な天災地変や社会的動乱の際には事業者が賠償責任を負わないことになっていますが、パリ条約、ウィーン条約では、いかなる天災地変も免責になりません。
A 除斥期間については、我が国の法制度上では「不法行為の時から20年」と定められていますが、パリ条約、ウィーン条約では「死亡または身体の障害は原子力事故の日から30年、その他の損害は原子力事故の日から10年」であり、CSCでは「原子力事故の日から10年(賠償措置・国の補償が10年より長い期間整備されている場合は、その期間でも可)」となっており、CSCとの問題は生じません。
国際的な枠組みの視点からも、パリ条約はEU諸国、ウィーン条約は中東欧・中南米など、いずれも我が国との地理的関係が薄い国々が主な加盟国であるのに対して、CSCでは、越境損害の可能性のある韓国、中国、台湾の既設国・地域、や新規導入の予定される東南アジア諸国および既批准国の米国を対象とした環太平洋諸国にまで、日本と同じ枠組みに入ることが期待されます。
以上のことから、CSCへの加盟が、パリ条約・ウィーン条約への加盟より、条件的に有利と判断される状況にあるものと思われます。
しかしながら、我が国がCSCに加盟するためには、原子力損害の定義、拠出金の負担・支払・受取のための体制や、裁判管轄権の問題など、いくつかの解決しなければならない課題があり、先ずは、これらの解決に向けての論議を進めるとともに、東アジアの既存施設の国・地域での実現に向けた国際的な話合いが大切でしょう。
より詳細な解説はこちら →
http://www.jaif.or.jp/ja/seisaku/genbai/mag/shosai06.pdf
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