■シリーズ「あなたに知ってもらいたい原賠制度」【34】
原子力損害賠償紛争解決センターの活動状況と総括基準
今回は、「原子力損害賠償紛争解決センター」の活動状況と、紛争解決センターが策定した総括基準についてについてQ&A方式でお話します。
Q1.(原子力損害賠償紛争解決センターの活動状況)
原子力損害賠償紛争解決センターにおける和解仲介はどのように進んでいますか?
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A1.
- 原子力損害賠償紛争審査会は、和解の仲介の手続きを円滑かつ効率的に行うために「原子力損害賠償紛争解決センター」(紛争解決センター)を設置しています。
- 2011年9月〜12月に紛争解決センターへの申立件数は521件あり、その後も数は増え続けています。他方で、原子力損害についてはもともと裁判例がなく、また被害者の主張もさまざまで、審理に慎重を期していることなどから和解成立は遅延しており、12月28日までの和解成立件数は2件となっています。
- 和解案策定の迅速化に向けて、大量の案件を処理するために、紛争解決センターでは、1)和解仲介手続を促進するための早期の期日設定、2)多数の取り扱い事案の共通点の整理、3)和解事例を積み重ねて総括基準を策定・公表すること、4)増員等による取り組み体制の強化、5)多くの案件につき弁護士等の代理申立による審理促進化、6)東京電力に対する協力の要請、などに取り組むとしています。
【A1.の解説】
原子力損害賠償紛争審査会は2011年8月に、和解仲介手続きを円滑かつ効率的に行うために「原子力損害賠償紛争解決センター」(紛争解決センター)を設置しました。紛争解決センターが行う和解仲介手続きは原則的に非公開ですが、福島原発事故の法的紛争の解決は国民的関心事であることなどから、センターの活動状況が「原子力損害賠償紛争解決センター活動状況報告書〜初期段階(9月〜12月)における状況について〜(概況報告と総括)」として明らかにされました。
被害者にとっては、センターの活動状況を知ることにより和解仲介手続きを利用する際の判断材料となり、また、東京電力や被害者弁護団等の関係者にとってはセンターの課題や取り組み方針を認識することにより、理解・協力、和解促進につながるものと期待されています。
センターの活動状況については今後も業務の進捗状況に応じて逐次報告書が公表される予定です。
「原子力損害賠償紛争解決センター活動状況報告書〜初期段階(9月〜12月)における状況について〜(概況報告と総括)」の概要は以下の通りです。
1. 申立ての動向
○ 初期段階(9月〜12月)における申立件数は総計521件(2/16現在では963件)。
○ 個人と法人の申立比率は約8:2。弁護士による代理申立は全体の約2割。
○ 損害項目の申立件数に対する割合・・・避難費用50%、精神的損害53%、営業損害36%、就労不能損害29%、財物価値喪失等29%
2. 申し立て事件の処理状況
○ 12月28日までの和解成立件数は2件。目標審理期間(3ヶ月)は実現できていない。
○ 2012年2月末までの和解案提示見込みは約50件。
3. 和解成立が遅延している要因
○ センター側の要因
- 一つの事案の処理が先例となり、他の多くの事案の処理に影響を及ぼすことから審理に慎重を期した。
- 本人申立ての件数が多く、請求内容や事実関係の確認・調査に時間を要した。等
○ 東京電力側の要因
- 答弁書における認否留保が多い。
- 中間指針に個別に明記されていない事項や財物価値の喪失・減少等について積極的な審理促進の態度が見られない。等
4. 課題解決に向けた取組み
○ 大量の案件を処理するための手続の工夫
- 仲介委員、調査官、当事者が協議する期日の早期設定
- パネル(仲介委員3名1組の合議体)間の協議による共通論点の整理
- 「総括基準」の策定・公表
- 「一部和解」、「仮払い」の促進
- 仲介委員3名合議から単独審理方式への切り替えによる多数事案の処理
- 集団申立てに対する対応(代表案件先行処理方式の採用)
集団申立の中でいくつかの代表案件を選定し、まず代表案件について解決案を示し、他の案件については、代表案件で適用された考え方を適用することを前提に当事者間の直接交渉に委ねる。
○ 東京電力、弁護団等に対する協力の要請
- 弁護士等法律専門家による申立ての代理がなされるよう弁護士会や原子力損害賠償支援機構、原子力損害賠償円滑化会議への協力要請
- 東京電力に対する迅速かつ公正な審理への協力要請
○ センターの体制の強化
- 2011年12月28日時点で、仲介委員128名、調査官(仲介委員を補佐する弁護士)28名、和解仲介室(事務局)の職員34名の体制。
- 仲介委員、調査官、事務スタッフの増員が喫緊の課題。
紛争解決センターは、以下を「基本的な方向性」として、多数の事案の和解仲介手続を促進していくこととしています。
- 和解事例を積み重ね、総括基準を策定・公表することにより、申立案件を適正かつ迅速に解決に導く。
- 総括基準や和解実例に準拠して被害者と東京電力が直接交渉により賠償問題を解決することが促進される環境を整えること、を基本的な方向性として取り組む。
「原子力損害賠償紛争解決センター活動状況報告書」〜初期段階(9〜12月)における状況についてはこちら
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Q2.(紛争解決センターが策定する総括基準)
原子力損害賠償紛争解決センターが策定する「総括基準」とはどのようなものですか?
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A2.
- 和解仲介の申立件数の増加に伴い、共通の考え方に基づく和解案の作成に向けて、多くの案件に共通する論点について、中間指針を個別の和解仲介事案に適用するための「総括基準」が公表されました。
- 総括基準の公表により、基準に基づく和解案提示の促進や、被害者と東京電力との円滑な相対交渉の促進に寄与することが期待されています。
- 2012年2月14日に公表された総括基準は、1)避難者の第2期(事故発生後7ヶ月目から6ヶ月間)の慰謝料、2)精神的損害の増額事由等、3)自主的避難を実行した者がいる場合の細目、4)避難等対象区域内の財物損害の賠償時期、について策定されました。
【A2.の解説】
和解仲介の申立件数の増加に伴い、紛争解決センターでは、共通の考え方に基づく和解案の作成に向け、多くの案件に共通する論点として、第2期(事故発生の6ヶ月経過後から6ヶ月間)の慰謝料、精神的損害に関する慰謝料(日常生活阻害慰謝料)の増額事由、財物価値喪失等の損害に関する評価方法、自主的避難等対象区域の住民の損害賠償などを取り上げ、同種案件を抱えるパネル間で意見交換を行いました。そうした中で、中間指針を個別の和解仲介事件に適用するための「総括基準」が4つの項目につき策定、公表されました。総括基準の公表により、基準に基づく和解案提示の促進や、被害者と東京電力との円滑な相対交渉の促進に寄与することが期待されています。
今回公表された総括基準の概要は以下の通りです。
総括基準
1.避難者の第2期の慰謝料について
(1)今後の生活の見通しへの不安に対する慰謝料
避難等対象者が受けた精神的苦痛のうち対象区域外滞在を長期間余儀なくされた者について、今後の生活の見通しに対する不安が増大したこと(避難生活が予想以上に長期化し、今後の生活に見通しが立たないという非常に不安な状態に置かれているため)により生じた精神的苦痛に対する慰謝料として次の額を賠償すべき損害とする。
- 対象期間・・・第2期(事故発生後7ヶ月目から6ヶ月間)
- 金 額・・・一人月額5万円を目安とする。
(2)避難による慰謝料
事故発生後6ヶ月経過後も避難所等における避難生活を余儀なくされている者について、自宅以外での避難生活を長期間余儀なくされ、正常な日常生活の維持継続が長期間にわたり著しく阻害されたことによる第2期(事故発生後7ヶ月目から6ヶ月間)の慰謝料は中間指針において目安とされる1人月額5万円から2万円程度増額(通常の避難よりも酷であるため)した額を賠償すべき損害とする。
2.精神的損害の増額事由等について
(1)中間指針第3の6(指針)I)に規定する精神的苦痛に対する慰謝料(日常生活阻害慰謝料)は下記事由があって通常の避難者よりは精神的苦痛が大きい場合には増額することができる。
要介護状態にある/身体又は精神の障害がある/重度又は中程度の持病がある/介護を恒常的に行った/懐妊中/乳幼児の世話を恒常的に行った/家族の離別・二重生活等が生じた/避難所の移動回数が多かった/避難生活に適応が困難な事情があった
(2)日常生活阻害慰謝料の増額の方法としては、増額事由がある月について
目安とされた金額よりも増額すること、目安とされた月額とは別に一時金として加算することなどが考えられる。
(3)日常生活阻害慰謝料以外に、事故と相当因果関係のある精神的苦痛が発生した場合には、中間指針第3の6の備考11)を適用して別途賠償の対象とすることができる。
3.自主的避難を実行した者がいる場合の細目について
(1)対象者が自主的避難の実行に伴い支出した実費等の損害の積算額が中間
指針追補記載の自主的避難対象者に対する損害額の目安となる金額(40万円又は8万円)を上回る場合において、当該実費等の損害が賠償すべき損害に当たるかどうかを判断するには、1)子供又は妊婦が含まれていたかどうか、2)自主的避難を開始及び継続した時期、3)放射線量に関する情報の有無及びその内容、4)損害の具体的内容・額・発生時期などの要素を総合的に考慮するものとする。
(2)対象となるべき実費等の損害としては、1)避難費用及び帰宅費用、2)一時帰宅費用、分離された家族内における相互の訪問費用、3)営業損害、就労不能損害、4)財物価値の喪失・減少、5)その他自主的避難の実行と相当因果関係のある支出等の損害
(3)実費等の損害を賠償する場合、実費等の損害のほかに精神的苦痛に対する慰謝料に相当する額を賠償するものとする。
- 賠償は本来個人単位で行われるものであるが、実際の和解案の作成に当たっては家族等のグループ単位で計算することを妨げない。
- 実費等の損害の合計額が中間指針追補記載の目安となる金額に満たなくても、当該実費等の損害の合計額と精神的苦痛に対する慰謝料に相当する学徒を合算した額が中間指針追補記載の目安となる金額を上回る場合には上記基準を準用する。
- 事故発生時に避難指示等対象区域及び自主的避難等対象区域のいずれにも属さない場所に住居があった者が自主的避難をした場合、当該住居の所在場所が自主的避難等対象区域と同等の状況にあると評価されるときには、中間指針追補及び上記基準を準用する。
4.避難等対象区域内の財物損害の賠償時期について
次に掲げる損害は、現地への立ち入りができない等の理由により被害物の現状等が確認できない場合であっても、速やかに賠償すべき損害と認められる。
(1)動産であって、避難等対象区域内に存在するものについての次の損害。
1) 避難等に伴い管理が不能等となったために価値が失われた場合の価値の喪失又は減少分及び追加費用。
2) 価値を喪失又は減少させる程度の量の放射性物質に曝露した場合における価値の喪失又は減少分及び追加費用。
3) 財物の種類・性質・取引態様等から、平均的・一般的な人の認識を基準として当該財物の価値が失われた場合の価値の喪失又は減少分及び追加費用。
(2)不動産であって避難等対象区域内に存在するものについての、上記1)〜3)に記載の損害。
総括基準の本文はこちら
http://www.mext.go.jp/a_menu/anzenkakuho/baisho/1310412.htm
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○ 原産協会メールマガジン2009年3月号〜2011年10月号に掲載されたQ&A方式による原子力損害賠償制度の解説、「シリーズ『あなたに知ってもらいたい原賠制度』」を小冊子にまとめました。
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シリーズ「あなたに知ってもらいたい原賠制度」のコンテンツは、あなたの声を生かして作ってまいります。原子力損害の賠償についてあなたの疑問や関心をEメールで genbai@jaif.or.jp へお寄せ下さい。
以上
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