Copyright (C) JAPAN ATOMIC INDUSTRIAL FORUM, INC. (JAIF)
ここに掲載されている記事や写真などの無断転載はご遠慮ください。
■シリーズ「あなたに知ってもらいたい原賠制度」【35】パリ条約の成り立ちと改正パリ条約
A1.
【A1.の解説】 原子力損害賠償に関する国際条約として名前が挙がる「パリ条約」とは、1960年7月29日に採択された「原子力の分野における第三者責任に関する条約」を指しています。この条約は、その後1964年1月28日及び1982年11月16日に改正されて現在に至っています。 欧州では各国が間近に接しているため、原子力事故の際に国境を越えて原子力損害が広がる現実的な危機感があります。そのため、原子力開発の初期の段階から越境損害に備えて国際間のルール作りが進められてきました。 パリ条約は、OECD/NEAの前身であるOEEC(欧州経済協力機構)のENEA(欧州原子力機関)のもとで1956年より検討され、各国の原子力損害賠償法制度の基本的原則に関わる事項を統一すること、及び、裁判管轄権、準拠法、判決の承認に関する国際的なルール作りを目的として作成された原子力損害賠償に関する最初の国際条約となっています。 パリ条約は1960年に署名されましたが、発効前の1964年にウィーン条約(1963年署名)との調和を図るための改正が行われ、1968年に発効しました。その後、1982年に賠償額の計算単位をSDRに変更するなどの改正が行われています。 一方、パリ条約を補完するものとして、パリ条約に定められた資金措置を補足し、賠償額を増額するものとして、ブラッセル補足条約があります。 ブラッセル補足条約は、1963年1月31日に署名・採択され、その後ウィーン条約(1963年採択)との調和を図るため1964年1月28日に改正が行われ、1974年に発効しました。さらに、1982年11月16日に賠償額の計算単位をSDRに変更するなどの改正が行われました。 パリ条約(1982年改正)には以下のような事項が規定されています。
-----------------------------------------------------------------
A2.
【A2.の解説】 1986年4月に発生したチェルノブイリ事故をきっかけに、ウィーン条約の改正の検討を皮切りに世界の原子力損害賠償制度のあり方が見直されることとなりました。パリ条約とウィーン条約を連結するジョイントプロトコール(共同議定書)が1992年に発効し、2003年にはウィーン条約に対して責任額引上げや損害概念の拡大、適用範囲の拡大が行われた改正ウィーン条約が発効する中で、パリ条約についても見直しが行われ、2004年2月12日に改正パリ条約が採択されました。 いわゆる「パリ条約」(1982年改正)に対する「改正パリ条約」(2004年改正)の主な改正点として以下の点が挙げられます。
現在の批准国はEU加盟国でないスイスとノルウェーのみで、フランスやドイツのように、改正パリ条約に対応可能な国内法を準備している国もあります。ただし、EU加盟国は問題点を解決して一斉に批准することとしています。 改正パリ条約には以下のような事項が規定されています。 ○ 用語の定義(第1条) 「原子力事故」「原子力施設」「核燃料」「放射性生成物又は放射性廃棄物」「核物質」「運営者」「原子力損害」「回復措置」「防止措置」「合理的措置」について用語が定義されています。 例えば「原子力損害」は以下のように定義されています。 ---------- 「原子力損害」とは、
2. 財産の滅失又は毀損 並びに管轄裁判所の法が決する限りにおいて次のものをいう。 3. 上記1及び2の損失又は損害から生じる経済的損失であって、当該条項に定める損失又は損害に関して請求権を有する者が受けた1及び2に含まれないもの 4. 環境のささいなものとはいえない汚染について実際に執られたか、又は執られる予定である回復措置の費用であって、上記2に含まれないもの 5. 環境の重大な汚染の結果として生じた、環境を利用し、又は享受する直接の経済的利益から得られる収入の喪失であって、上記2に含まれないもの 6. 防止措置の費用及びその措置により生じた更なる損失又は損害 上記1〜5の場合には、損失又は損害が、原子力施設のあらゆる放射線源によって放出される、原子力施設内の核燃料、放射性生成物、放射性廃棄物から放出される、原子力施設から輸送される若しくは原子力施設へ輸送される核物質の電離放射線から生じる、又はこれらに起因する原子力損害であり、それらの放射性特性から生じたのか、その放射性特性と有毒性、爆発性その他の危険な特性との結合から生じたのかは問わない。 ○ 適用範囲(第2条) 改正パリ条約は以下の国の領域内、あるいはその国が設定した海域内で被った原子力損害、又は(A)〜(C)に定められていない非締約国の領域内で被った場合を除き、以下の国に登録されている船舶上又は航空機内において被った原子力損害に適用されます。
(A)ウィーン条約の締約国かつジョイントプロトコール締約国 (B)原子力施設を持たない非締約国 (C) 改正パリ条約の原則に一致する原賠法を持つ非締約国 ○ 賠償請求権を与えられる損害(第3条) 原子力施設の運営者は、(@)原子力施設自体や他の原子力施設に対する損害、(A)原子力施設に関連して使用される財産に対する損害 以外の原子力損害に対して責任を負います。 原子力事故により生じた損害が原子力以外の事故により生じた損害と合理的に分離できない限りは原子力損害とみなされます。 ○ 核物質の輸送(第4条) 原子力施設の運営者は、原子力損害が当該施設外における原子力事故によって生じ、かつ、原子力損害がその施設からの輸送中の核物質またはその施設への輸送中の核物質に係るものであるとき、その原子力損害に対して責任を負います。 ○ 複数運営者の責任(第5条) 複数の運営者が原子力損害の責任を負う場合、それらの責任は連帯してかつ個別的に負い、責任を負うべき最高額は各自について定められた最高限度額とされます。 ○ 責任を負うべき者(第6条) 原子力損害に対する賠償請求権は運営者に対してのみ(国内法により認められている場合は保険者等の資金的保証人に対しても)行使することができます。他のいかなる者も原子力事故によって生じる原子力損害に対して責任を負いません。運営者の求償権が認められるのは故意による損害の場合と、契約により規定されている場合に限られます。 ○ 責任額(第7条) 原子力事故によって生じた原子力損害についての運営者の責任は、7億ユーロを下回ってはならないことが規定されています。原子力施設の性質や予想される原子力事故の結果により少ない額に設定することもできますが、7000万ユーロを下回ってはなりません。また、核物質の輸送に関する責任額は8000万ユーロを下回ってはなりません。 ○ 消滅時効/除斥期間(第8条) この条約に基づく賠償請求権は、死亡又は身体の傷害に関しては原子力事故の日から30年、その他の原子力損害に関しては原子力事故の日から10年以内に訴えが提起されない場合、消滅時効又は除斥期間の適用を受けることになります。締約国は国内立法によりこの期間よりも長い期間を設定することもできます。 ○ 免責事項(第9条) 運営者は、戦闘行為、敵対行為、内戦、反乱により生じた原子力損害の責任を負いません。 ○ 資金的保証(第10条) 運営者は、原子力損害の責任を填補するため、当局が定める金額の保険その他の資金的保証を保有・維持しなければなりません。資金的保証として準備される金額は原子力事故による損害の賠償のためだけに使用されます。 ○ 賠償の性質等(第11条) 賠償の性質、形式、範囲と、その公平な配分については国内法により定めることになっています。 ○ 通貨の地域間における交換(第12条) この条約により支払われる損害賠償金、保険料等は各締約国の通貨地域間において自由に交換できることとされています。 ○ 裁判管轄(第13条) 別段の定めがある場合を除き、領域内で原子力事故が発生した締約国の裁判所にだけ裁判管轄権があります。締約国の排他的経済水域内で原子力事故が発生した場合には、その原子力損害に関する訴訟の裁判管轄権は当該締約国の裁判所のみに属します。また、締約国の領域外で発生した場合や原子力事故の場所が明確に決定できない場合等は、責任を負うべき運営者の原子力施設が設置されている締約国の裁判所に裁判管轄権があります。 ○ 準拠法(第14条) この条約における「国内法」とは、原子力事故により生じる請求について、この条約に基づく裁判管轄権を有する裁判所の法律をいいます。この条約や国内法は、国籍、住所、居所による差別なしに適用されます。 ○ 条約の規定からの乖離(第15条) 締約国はこの条約に定める賠償額の増額する措置を講ずることができます。7億ユーロを超える範囲に限り、増額の措置はこの条約の規定とは異なる条件で適用することができます。 ○ 常任委員会の決定(第16条) 常任委員会の決定は、締約国を代表する委員の相互の合意によって採択されます。 ○ 紛争解決手続き(第17条) この条約の解釈又は適用に関して締約国間に紛争が生じた場合には、交渉等により紛争を解決するために協議することになっていますが、6ヶ月以内に解決されない場合には、締約国が当事国を支援する会合を開きます。会合から3ヶ月以内に解決に達しない場合、紛争は欧州原子力裁判所に付託されます。 ○ 留保(第18条) 署名国の承認を得られた場合に限り、この条約の一部の規定についての留保を行うことが認められます。 ○ 批准(第19条) この条約は批准書、受諾書、又は承認書をOECDの事務局長に寄託することにより批准、受諾、承認されます。また、5カ国以上の署名国の批准書、受諾書、又は承認書の寄託により効力を生じます。 ○ 改正(第20条) この条約の改正は、締約国の3分の2によって批准、受諾、又は承認された時に効力を生じます。 ○ 加入(第21条) OECDの加盟国又は準加盟国であってこの条約の署名国でない国の政府は、OECD事務局長に対する通告によりこの条約に加盟できます。この条約の署名国でないその他の国の政府は、OECD事務局長への通告及び締約国の一致した同意によりこの条約に加入できます。 ○ 締約国間の協議(第22条) この条約の効力は効力発生の日から10年間あり、適用を終了させなかった締約国については更に5年間、効力があります。締約国は効力発生の日から5年経過する毎に、責任額や資金的保証額等について考慮するための協議を行うことになっています。 ○ 領域の一部への適用(第23条) この条約は締約国の本土の領域に適用されるが、その他の地域であって締約国が指定する領域にもこの条約を適用することをOECD事務局長に通告することができます。この条約が適用されない締約国の領域は、非締約国の領域とみなされます。 ○ 事務局長の任務(第24条) OECD事務局長は、批准書の受領などを全ての署名国と加盟国に通知します。 原子力損害賠償に関する国際条約の比較表はこちら
○ 原産協会メールマガジン2009年3月号〜2011年10月号に掲載されたQ&A方式による原子力損害賠償制度の解説、「シリーズ『あなたに知ってもらいたい原賠制度』」を小冊子にまとめました。 以上
お問い合わせは、政策推進部(03-6812-7102)まで |