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原産協会メールマガジン8月号 2012年8月27日発行 |
Index
□パブリックコメント「エネルギー・環境に関する選択肢」に関する意見提出
□原子力を取り巻く課題について理事長コメントを発表
□高レベル放射性廃棄物の地層処分について -大学における対話集会の開催-
本文
□パブリックコメント「エネルギー・環境に関する選択肢」に関する意見提出
当協会は10日、本年6月29日にエネルギー・環境会議から示された、国民的議論のための3つの選択肢に関する意見を提出しました。
その中で、(1)電力の安定供給確保を考えた上で、再生可能エネルギーの導入の不確実性等を考慮すると、安全確保を大前提に、今後も原子力を選択肢として残し、比率については時間をかけた冷静な議論を行うこと(2)選択の結果について、エネルギー政策基本法に準じ、約3年と時期を明示して、検証の実施を義務づけること--の2点を要望しました。
全文はこちらからご覧頂けます。
http://www.jaif.or.jp/ja/news/2012/energy&environ%27t_presss-release.pdf
□原子力を取り巻く課題について理事長コメントを発表
○『原子力人材育成の課題と対応』
東京電力福島第一原子力発電所事故後、ドイツなどの一部の国を除き、多くの国が安全性を再確認した上で、引き続き原子力の開発を継続していく方針を表明しています。とくに中国、インドをはじめとする新興国を中心に積極的な開発計画が発表され、わが国の技術力による支援に大きな期待が寄せられています。一方、わが国の原子力の将来を担う人材の確保と育成に関しては、事故前からさまざまな課題が指摘されておりましたが、事故後のこのような内外の動きを反映して、人材育成に関する課題が顕在化してきております。
この原子力人材育成に関する課題について、7月27日、当協会の服部拓也理事長がコメントを発表しました。
全文はこちらをご覧ください。
http://www.jaif.or.jp/ja/news/2012/President_colum_04%2820120727%29.pdf
□高レベル放射性廃棄物の地層処分について -大学における対話集会の開催-
当協会は、東京電力福島第一原子力発電所の事故により大きく損なわれた原子力に対する社会からの信頼回復の一助とするため、将来を担う若い世代である大学生を中心に、事故後のエネルギー政策および高レベル放射性廃棄物の処分問題について意見交換する活動を行っています。
本年4月~7月にかけ、東大阪市、柏市、東京・江東区、函館市、札幌市の1都1道1府2県にある6つの大学において、『一緒に考えませんか。原子力のこと!廃棄物のこと!』と題した対話集会(勉強会)を8回実施しました。
対話集会では、①「福島事故後のエネルギー政策」、②「これまで国が積極的に原子力を進めてきた理由」、③「今後、原子力発電をどのように進めるかに関係なく解決しなければならない課題、高レベル放射性廃棄物の地層処分」、についての情報を提供し、その後、学生さんと質疑応答・意見交換を行う活動を展開しています。開催にあたっては、当協会の高レベル放射性廃棄物処分問題に関するシンポジウムや理解活動など、これまで当協会と交流のあった先生方のご協力をいただきながら、大学の授業枠において実施しています。
6月以降に実施した大学5校での対話集会(勉強会)の概要はご覧のとおりです。
◎6月20日、近畿大学(大阪府)での対話集会
近畿大学 理工学部 電気電子工学科のエネルギー・環境コースの学部学生および院生の約100名の学生さんと対話集会を開催しました。
近畿大学での対話集会 |
◎6月25・26日、麗澤大学(千葉県)での対話集会
麗澤大学において“環境科学”を履修している約20名の学生と“社会工学”を履修している約30名の学生と対話集会を2回開催しました。
麗澤大学での対話集会 |
◎7月7日、芝浦工業大学(東京都)での対話集会
芝浦工業大学・工学部・機械工学科の約70名の学生と対話集会を開催しました。
芝浦工業大学での対話集会 |
◎7月19日、北海道教育大学(函館市)での勉強会
北海道教育大学・函館校で、環境科学を専攻している約30名の学生・先生との勉強会を開催しました。
北海道教育大学での勉強会 |
◎7月24日、北海道大学(札幌市)での対話集会
北海道大学・大学院工学研究院・環境循環システム部門・地圏物質移動学研究室に在籍する約30名の大学院生と対話集会を開催しました。
北海道大学での対話集会 |
なお、対話集会(勉強会)で出された主な質問・意見について以下に紹介いたします。
<福島第一原子力発電所の事故について>
・ 原子力発電について、国外ではチェルノブイリなど大きな事故が起きているが、その他に大きな事故は起きているのか
・ 福島事故が起こった際には、海外から日本政府へ、事故収束のための援助・協力などの申し入れはあったのか
・ 新聞に掲載されていたと記憶しているが、これまで原子力に関する情報公開が、あまり前向きに行われなかったことが問題となっているとあったが、事故以降は、情報公開が進んだのか
・ いろいろな情報がある中で、何の情報が一番信頼できるのか教えてほしい
・ 同じ津波でも、東北電力の女川発電所は大丈夫、福島第二の発電所も大丈夫であったが、なぜ、福島第一だけが事故になってしまったのか
・ 福島第一原発では原子炉建屋が水素爆発する事故が起きたが、ニュースでも伝えられているが本当のところは、地震の影響で事故が起きたのか、津波の影響で事故が起きたのか、今、議論が集中しているところはどうなのか教えてほしい
・ 政府の事故調査委員会と国会の事故調査委員会は、同じデータを見て報告書をまとめたのか
・ 福島第一原発の事故処理に関しては、30~40年かかるという概念は出されているが、除染後の低レベル放射性廃棄物の中間貯蔵や最終処分に関しては、その概念がすぐに出てきてもよいと思うが、絵が出てきていないように思うが実際はどうなのか
・ 福島第一原発の作業員が、線量計に鉛で遮へいして作業していた問題について、その実態はどうなのか、また、誰が指示して作業させていたのか。このような原子力ムラの体制をどう打開していくのか知りたい
<国のエネルギー政策について>
・ 国が行う今後のエネルギー政策に関して、国民的な議論を経てとの説明であったが、国民的議論はどのような方法で行うのか
・ 専門家から見て、これからの社会は原子力に依存していくのか、それとも再生可能エネルギーに依存していくのか、どちらが良いと考えるのか
・ 海外では原子力の依存度を下げた社会を目指している国もあるが、日本では脱原子力を目指すことは無理なのか
・ 国民的な議論を経て、国の方向を検討していくとのことであるが、原子力に反対な人は声を挙げて主張するが、いわゆるサイレント・マジョリティと言われる意志を表明しない人は、止めるべきとは思っていない人が多いと思う。原子力を推進していくためには、如何にこの層の人たちを取り込むことが重要と考えるが、国民的議論の方法について、教えてほしい
・ ニュースなどでも大飯原子力発電所の再稼働の話が出ているが、今の時期に原子力発電所の再稼動は、本当に適切な判断なのか。大阪でのデモの様子などを見たが、ただ単に夏の電力事情に合わせた措置なのか、東電はやるべきことをやっているのか、半分半分だと思っているが、原産協会の意見はどうなのか、聞かせてほしい
・ 国で出している資料は、どのくらいの年齢層を対象としているのか、教えてほしい
・ 火力はCO2を発生するというデメリットは確かにあるが、原子力が重大な事故を起こしたことを考えると、CO2のデメリットなどは小さなものではないか
<高レベル放射性廃棄物の処分問題について>
・ 高レベル放射性廃棄物処分の説明を聞いて、安全性は大丈夫と思ったが、受け入れる地方自治体にとってのメリットは何があるのか。また、どのような説明をすれば受け入れてもらえるのか
・ 安全は、技術的に工学系の事象を1つ1つ積み上げていく過程を経ていくが、これだけでは一般の方々の安心まで届かないのが現状だと思う。安全から安心の方策を高めていくことは行われているのか
・ 高レベル放射性廃棄物の地層処分について、実施に向けた技術的な問題はすべてクリアーされているのか
・ 地層処分の安全管理について、これらは福島原子力事故以前のものだが、これまでと同じ安全に対する考え方を適用することはできないのではないのか。何か、処分方法で3.11以降、変わったことがあれば教えてほしい
・ 高レベル放射性廃棄物処分場は、地下300メートルよりも深い場所に埋めると記載されているが、別の産業でこれよりも深い場所への処分場などは存在するのか
・ 使用済燃料について、国家間でのやりとりは行われているのか
・ 核種変換の技術は、研究開発の段階との説明であったが、未来は期待できるのか
・ 使用済燃料と処理された作られたガラス固化体の危険性は比較するとどうなのか、教えてほしい
・ 説明の中で、フィンランド、フランス、スウェーデンが廃棄物処分のトップランナーということであったが、まだ処分が行われておらず、実績も無いのに何故、トップランナーと言えるのか教えてほしい
・ もし仮に、高レベル放射性廃棄物の処分場が決まらない場合、国としてはどうするのか
・ 倫理的な問題について、1万年後、100万年後、あるいはもっと先の安全性確保についての意見は、どのように落ち着いているのか。例えば、100年先の安全がOKならばよいという考えもあるが、どうなのか知りたい
・ 地層処分については、これから先も長期間、関係してくる話なので、小さい頃からの教育に取り込むべきではないのかと思うが、小学校や中学校の授業も必要なのではないのか。世代に係らず情報を共有し、認識すべき問題であると考えるがどうか
・ 六ケ所村にある高レベル放射性廃棄物貯蔵の説明の中で、遠隔操作が行われ設計どおりの運用ができているとのことであったが、われわれが想定し得ない事態となった場合はどうするのか教えてほしい。例えば、地震が起きて、操作できなくなったらどうするのか
当協会は7月24日~26日、台湾・台北(会場:ハワードプラザホテル台北)で台湾の関係機関との共催により、「第27回日台原子力安全セミナー」を開催しました。日本側は服部拓也・原産協会理事長を団長に30名規模の大訪問団で参加。ホストである台湾側からも120名が参加し、会場を埋め尽くしました。台湾側主催者は、台湾電力公司、原子能委員会、核能研究所、放射性物質管理局、中華核能学会。
当協会では台湾との間で原子力安全に係わる情報共有・意見交換ならびに原子力関係者の交流を図るため、1986年以来「日台原子力安全セミナー」を毎年、日本と台湾で交互に開催しています。
3月の福島事故およびそれに伴う日本の原子力政策の転換は、国際社会にも大きな影響を与えており、台湾では昨年11月に既存の6基の原子炉について2018年以降、段階的に閉鎖することを発表しています。
このような状況を踏まえ、「福島事故以降の原子力」を主要テーマに、エネルギー政策、安全対策、廃炉・除染事業等について相互に情報を共有するため、第27回日台原子力安全セミナーを開催しました。
同セミナーの主な概要を下記にご紹介します。
①開会セッション
潘理事長は、世界中で劇的な気候変動が現れていることに触れ、CO2排出量削減のため、原子力と再生可能エネルギーのような代替エネルギーの利用拡大は不可欠とした上で、日台共に脱原子力発電所へ向かう現状を指摘。そして「不幸な福島事故の教訓と経験を共有することで全世界の原子力発電所はより高い安全基準を達成したと信じている。機会を見て、原子力の利用拡大を受け入れるよう国民に説得するつもりだ」と強調しました。
服部理事長は、昨年7月に東京で開催した前回セミナー以降、福島では事故が収束し、現在廃炉へ向けた取り組みの真っ最中であることを紹介。エネルギー・セキュリティ、国民経済・産業の活性化、地球温暖化防止などの観点から、今後とも原子力が重要な役割を果たすべきであり、「より安全で信頼性の高い原子力発電システムに改良していくと同時に、原子力事業者自身の透明性を高めるなど、社会からの信頼感を取り戻す必要がある」との強い決意が表明されました。
②講演セッション
1日半に渡る講演セッションでは、台湾側は蔡・專業總工程師が「福島事故後の新しいエネルギー政策への台湾電力の対応」について、日本側は小山・常務理事が「国際エネルギー情勢と日本のエネルギー政策」と題し基調講演。蔡氏より各原子力発電所の2018年以降の閉鎖スケジュールやそれに伴う電力供給面での課題等が示されました。一方小山氏はグローバルな視点でのエネルギー情勢を説明。中東カタールへのLNG依存が急増していることや、LNGを産出しないアジア諸国のLNG輸入価格は、欧米諸国よりはるかに高水準で推移しており、アジアプレミアムと呼ばれる状況にあること。アジア全体では低い試算でも原子力発電容量の大幅な増大が予想されていることが紹介されました。
そのほか福島事故以降の日台における原子力動向を主要テーマに、日台双方から、電気事業者の取り組み、プラントメーカーの取り組み、使用済み燃料貯蔵、人材育成、運転期間40年問題、原子力を巡る社会動向などが発表され、活発な議論が交わされました。
福島サイト内外の状況については、東京電力より福島第一の廃炉計画、鹿島建設より警戒区域での除染モデル事業について紹介され、台湾側から高い関心を集めました。
③テクニカルツアー
セミナー翌日の7月26日にはテクニカルツアーとして、台北近郊の国聖原子力発電所(BWR6×2基)を訪問しました。同発電所の概要について説明を受けた後、管理区域以外にも、緊急時の注水措置等の装置や、訓練シミュレーター等を見学しました。
訓練シミュレーターでは外部電源喪失のケースを 実際に体験 |
国聖原子力発電所の高台に 設置されていた貯水池 |
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○参加者:
日本側 服部拓也理事長、小山堅・日本エネルギー経済研究所常務理事 他、計31名
台湾側 潘欽・中華核能學會理事長、蔡春鴻・原子能委員会主任委員、陳布燦・台湾電力總經理、蔡富豐・台湾電力專業總工程師、陳宜彬・原子能委員会核能管制處處長 他、約120名
震災後1年5ヶ月を迎える8月11日、広野町では同震災で被災された方々の冥福を祈るとともに、多数の住民の帰還を祈念した復興祈念花火大会を開催。当協会も花火の打ち上げで協賛しました。(花火の写真は、広野町HPより)
当日は、あいにくの雨のなか、広野町の町民を始め、避難所を受け入れた小野町、平田村、石川町からも首長さんを始め多数の関係者が参加し、勿来工業高等学校の女子生徒によるフラガール、沖縄民謡の石嶺ファミリーなどのイベントや町内外からの出店による物品販売や模擬店での飲食の提供で賑わいました。高校生のフラガールは翌週8月19日に開催予定の「フラガール甲子園」の直前ということもあり、力の入った踊りに盛んに喝采があがっていました。
女子生徒によるフラガール |
挨拶する山田町長 |
模擬店の様子 |
なお、この花火大会は、東日本大震災で被災した岩手、宮城、福島の13自治体が参加する「Light Up Nippon」の一環ともなっており、U-Stream中継も行なわれました。
花火の打ち上げに際しては、協賛した原産協会の名前も読み上げられました。
山田町長からは、雨の中、住民帰還に対する熱い思いを込めた挨拶がありました。
□原産協会HP(一般向け)の更新情報 ( http://www.jaif.or.jp/ )
*国内、海外ニュースは毎週および随時更新しております。
・米国の戦略国際問題研究所(CSIS)報告書「米日同盟:アジアの安定を支
える」から、「エネルギー安全保障」の項より「原子力エネルギー」に関する部
分和訳(8/23)
・【受付を終了しました】第1回 テーマ別原産会員フォーラム開催のご案内(8/20)
・プレスリリース『「エネルギー・環境に関する選択肢」について』を掲載(8/10)
・第1回 テーマ別原産会員フォーラム開催のご案内(8/9)
・福島第一原子力発電所1~4号機の廃止措置等の状況 (随時)
・福島原子力発電所に関する環境影響・放射線被ばく情報 (随時)
・福島地域・支援情報ページ (随時)
地元自治体の動きやニュース、地元物産・製品等の情報を掲載中
・「日本の原子力発電所(福島事故前後の運転状況)」を掲載 (随時)
□会員向けHPの更新情報( https://www.jaif.or.jp/member/ )
・【日本の原子力発電所の運転実績】7月分データを掲載(8/6)
・【海外原子力情報】2012年7月分と6月分を追加、掲載(8/6)
・『ロシア国際フォーラム ATOMEXPO-2012原産協会参加団報告書』を掲載(8/3)
[今井会長]
・9/14(金) 平成24年度第351回理事会
[服部理事長]
・9/27 プレスブリーフィング
「最近の原子力を巡る国際動向について」および
「革新的エネルギー・環境戦略についての意見」
・9/16~9/22 IAEA総会出席、サイドイベント登壇に伴うウィーン出張
・9/14 平成24年度第351回理事会
・9/12 第2回テーマ別原産会員フォーラム
[佐藤常務理事]
・9/14 平成24年度第351回理事会
・9/12 第2回テーマ別原産会員フォーラム
米国の原賠制度の成り立ち
今回は、米国の原賠制度の変遷と国際条約の批准についてQ&A方式でお話します。
Q1.(米国の原賠制度の変遷) 世界で初めて原子力の産業化を実現した米国において、原賠制度はどのように作られ、どのような変遷をたどってきたのですか? |
A1.
・ 米国は原子力の平和利用を進めるにあたり、巨額な賠償リスクを懸念する民間企業の参入を促進するために原賠制度を導入しました。
・ 初期の原賠制度は原子力事業者の責任を5億6000万ドルで制限したうえで、そのうちの6000万ドルを民間保険会社の賠償責任保険により措置し、責任保険を超える損害(5億ドル)は国家が補償するというものでした。
・ その後、原賠制度は原子力産業の保護に偏りがちであるとの批判から、異常原子力事故の際に原子力事業者の抗弁権を放棄させて被害者保護を図る仕組みの導入や、事業者間相互扶助制度による賠償措置の導入に伴う責任制限額の引き上げと国家の補償額の減額が実施されました。
・ TMI原発事故とチェルノブイリ原発事故の後には事業者間相互扶助による拠出金が大幅に引き上げられ、事業者の責任制限額は72億ドルに達しました。現在はさらに引き上げられて125億9448万ドルになっています。
【A1.の解説】
第二次世界大戦後直後の1946年、米国は原子力法を整備して原子力利用を軍事のみならず民生部門に拡大しようとしましたが、当初、民生利用は進みませんでした。アイゼンハワー大統領による「アトムス・フォア・ピース」演説の翌年にあたる1954年には、新たな原子力法による許認可制度が整備され、民間による原子力平和利用がさらに奨励されました。
しかし、民間企業は巨額の賠償リスクを恐れて原子力事業に参入しなかったため、米国政府は民間側の要請も踏まえて、原子力法の一部を改正するプライス・アンダーソン法(PA法)を1957年に制定しました。これは、原子力事業の被許可者に対する損害賠償措置の強制や、賠償義務者の責任額の制限などを備えた、世界で最初の原子力損害賠償制度です。
1957年に制定された初期のPA法は、原子力事業者の責任を5億6000万ドルで制限し、民間保険業界から得られる原子力損害賠償責任保険の最大額(当時6000万ドル)の付保を義務付けたうえで、責任保険を超える損害(5億ドル)は国家が補償する補償契約を義務付けるというものでした。一方、PA法には責任集中や無過失責任は規定されていませんでしたが、政府との補償契約や民間の責任保険契約により損害賠償に関わる責任は原子力事業者に集中され、賠償措置が為されており(経済的責任集中)、不法行為責任を規定する各州の法律においては、原子力事業は危険な事業として厳格責任が適用されるため、実質的には無過失責任に近い制度になっていました。
その後1966年の改正の際には、PA法は原子力開発に参入する民間企業の保護に偏りがちであるとの批判を受けて、さらなる公衆保護にむけた内容に拡充されることとなりました。具体的には、「異常原子力事故」(Extraordinary Nuclear Occurrence:ENO)の概念が導入され、異常原子力事故の場合は損害賠償請求訴訟の際に被告に認められている一定の抗弁権を放棄させることにより被害者救済を円滑に進めるというものです。この抗弁権の放棄が補償契約の条件とされました。
また、1975年の改正の際には原子力産業過保護論に配慮して事業者間相互扶助制度(the industry retrospective rating plan)が導入されました。これは保険による第一次賠償措置の上乗せとして、第二次賠償措置として事業者同士の相互扶助制度により原子炉1基あたり500万ドルを事後的に拠出することにより資金を措置するという制度です。この制度が導入され、その後に米国内の原子炉が80基を超えたことにより、第一次賠償措置と第二次賠償措置の合計額が事業者の責任限度額5億6000万ドルを超過して政府の負担分が無くなり、それと同時に基数の増加につれて事業者の責任制限額が増大する仕組みとなりました。
このような制度が出来上がった後の1979年に米国のスリーマイルアイランド原発で炉心溶融事故が発生し(この原子力事故では当時の賠償責任保険による保険金支払限度額1億4000万ドルの範囲内に賠償支払いが納まったことで、事業者間相互扶助制度による賠償金の発動には至らなかった)、1986年には旧ソ連でチェルノブイリ原発事故も発生したため、米国ではこれらの事故を受けて無限責任制への転換や賠償措置額の大幅な引き上げ等の議論が紛糾しました。
その結果、1988年の改正では第一次賠償措置の責任保険は1億6000万ドルから2億ドルへ、第二次賠償措置の事業者間相互扶助制度は原子炉1基あたり500万ドルから6300万ドルへ引き上げられ、原子力事業者の責任額は10倍以上の約72億ドルまで引き上げられることになりました。
現在は第一次賠償措置の責任保険は3億7500万ドル、第二次損害賠償措置の事業者間相互扶助制度は原子炉1基あたり1億1190万ドル、原子力事業者の責任額は125億9448万ドルとなっています。
Q2. (米国がCSCに加盟できる仕組み) 原賠制度の根幹である原子力事業者への責任集中を原子力損害賠償法に規定していない米国は、どのようにして国際条約である補完基金条約(CSC)に加盟できたのでしょうか? |
昨年の3.11以降、原子力に携わる人は肩身が狭い感じがしていますが、「そんなことはない、大事な使命を背負っている」ということをまとめてみたいと思います。反省していない証拠だと一部の方から苦情が出そうですが、「空気」に支配され、歴史から学べない民族の行く末が心配なので、敢えて「落ち着いて考えてみよう」と筆をとりました。
【戦争の反省】
「二度と戦争は起こしません」と誓い、専守防衛に徹している我が国ですが、戦争になった背景がエネルギー(石油)だったとは広く認識されているでしょうか。日本の軍事力強化に対する制裁として、石油禁輸で米国などから包囲されて太平洋戦争になりました。当時はまだ市民生活では石油の需要は高くありませんでしたが、今は高いウエートを石油は占めています。
【資源の分かち合い】
日本の国を支える工業力に電力はかかせません。「電力も国家なり」です。その電力の元を石油やLNGに依存しすぎると、平時でさえその購入に多額の国費が必要になり、ロシアやイランの政情しだいで日本の電力は瞬時に呻くことになりかねません。オイルピークは過ぎたといわれており、限られた石油を途上国も含めて、どのように分かち合っていくかが全地球的課題でもあり、先進国だけの独り占めは許されません。
産油国のサウジアラビアでさえ、石油の消費を低減するために原子力発電を導入しようとしています。石炭も含め化石燃料もできるだけ途上国に渡せるようにするのが、本当の意味で「二度と戦争は起こしません」を実現させることであり、そのためには化石燃料の代案を用意しなければなりません。また、石油は「化学」の材料としても貴重な資源であり、単に燃やすのは「勿体ない」面もあります。
【互恵的発展】
大飯3・4号機の再稼動をめぐる議論を見ていると、本当にこの国はエネルギー(今回は電力ですが)確保を真剣に考えているのか疑問に思えます。当面とはいえ、原子力発電に頼るしかないことが証明されたことは、それを支えている原子力に携わるものとして大いに自信を持っていいのです。資源に乏しい先進国はイニシャルコストの高い発電方法を選択し、同じく資源に乏しい途上国がイニシャルコストの安い発電方法(火力発電)で電気を作れるようにすることが、公平に電気を確保でき、よりバランスの取れた世界規模の発展に繋がると信じてよいと思います。
「安定した電力」は豊かさのバロメータなのです。図はアメリカがNASA「今日の天体」に掲載した夜の地球です。先進国だけに灯りが集中していますが、この灯りのエリアを広げることが地球の未来像です。
【公平な議論?】
ところで、現在の原発をめぐる議論を俯瞰して、ランチェスター思考 競争戦略の基礎(福田秀人著 東洋経済新報社刊)の「アマチュアの論理」が挙げる、①現在の制度のデメリットのみをあげつらう、②新たな制度のメリットのみをアピールして提唱する、③新たな制度のデメリット/副作用を考えない(気付かない)という特徴に妙に合点してしまうのは「親の贔屓目」でしょうか、なんてことを思いつつ・・・・・。(未来櫓埜源)
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◎「原産協会メールマガジン」2012年8月号(2012.8.27発行) 発行:一般社団法人 日本原子力産業協会 情報・コミュニケーション部(担当:木下、八十島) 〒105-8605 東京都港区虎ノ門 1-2-8 虎ノ門琴平タワー9階 TEL: 03-6812-7103 FAX: 03-6812-7110 e-mail:information@jaif.or.jp |
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