[第34回原産年次大会] 概要報告 開会セッション

【開会セッション(後半)】
4月25日(水)10:15〜12:10

議長:西岡 喬 三菱重工業(株)社長
<特別講演>

「原子力開発と地域発展」
木村 守男 青森県知事

「原子力発電:展開するシナリオ」
M.エルバラダイ 国際原子力機関 (IAEA) 事務局長

「フランスの原子力開発と国際戦略」
A.ローベルジョン 仏核燃料公社 (COGEMA) 会長兼社長

「文明と原子力開発の意義」
R.ローズ ピューリッツァー賞受賞米国作家

開会セッション後半では、日本、フランス、米国および国際原子力機関(IAEA)の代表から、概ね以下の通り特別講演が行われた。

<特別講演>
「原子力開発と地域発展」
木村守男 青森県知事

今日の我々の生活を振り返ると、エネルギー供給不安定、環境破壊等の問題に直面し、持続的に成長できるかどうか不安は大きい。その中で青森県はどう世界へ貢献できるかを考えつつ、他地域の人々との交流の中で発展に尽力する。

これまで我々は文明を享受してきたが、エネルギー供給構造が脆弱な日本が持続的に経済発展するためのエネルギー安定供給もCOP3での温室効果ガス排出削減目標値6%の目標値も、原子力発電抜きで達成するのは困難だ。原子燃料サイクル事業と原子力発電は国策の重要な点を占め、県は国民として国策を支持してきた。県内では六ヶ所村で高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターの一部やウラン濃縮工場等が操業を開始、再処理施設も建設中で原燃サイクル事業の本格化は近い。他には東通原子力発電所が建設中で、全炉心混合酸化物(MOX)燃料装荷の大間原子力発電所が計画中である。しかし残念ながら県外での度重なる事故で、県民は不信感を抱いている。国は責任をもって安全対策に当たり、人々の不安や行政不信を解消するために教育や情報公開を充実、管理体制を強化し、原子力を考える素地を整える必要がある。また規制緩和で地域行政を自治体に委ね、国は外交・国土保全など本来の役割に専念し、原子力政策などは特殊性を考え一貫した方針で推進する一方で、代替エネルギー開発に積極的に取り組むべきだ。そして、環境に優しく、経済性のあるエネルギーが開発されたら、その段階であらためて、政府が国民の同意を得て進めるべきだ。原子力政策の推進と代替エネルギーの開発を同時に行うことは、矛盾しているものと考える。エネルギー問題の総合的・長期的展望を早期に策定すべきだ。

先進国と途上国とでは生活水準の格差が大きい。豊かな生活はエネルギーの大量消費を必要とするが、急激な開発で自然からの収奪が増えると逆に貧困からの脱却が困難になるため、持続可能な開発が求められる。そこで近代科学と精神性の調和が課題となる。自分のふるさとを愛し、大事にする心は異文化を理解する心に、ひいては物事の本質への関心につながるため、21世紀の子供達を取り巻く環境作りを県行政の軸として、社会や科学に関心を持つ人間を育んでいきたい。

21世紀、青森が世界の持続的発展に貢献するための、3つのアジアリンク構想を紹介する:@物流:太平洋側と日本海側の東北自動車道が青森で合流し、これに津軽海峡軸構想が加わって北海道と東北が一つになり、一大経済圏を築く。本州を越えた南ルートや北ルートとつながれば国際環状ルートも完成する。A食料・エネルギー:高い自給率を誇る農産品の供給基地としての貢献と、むつ小川原での石油備蓄ノウハウの蓄積を生かした石油備蓄センター構想等のエネルギー安全保障への貢献が可能。また一次産業と科学産業の共生を目指す。B情報・文化:物流リンクの始動に伴い人が国境を越えて往来し、情報や文化を共有し始める。県はそのための情報基盤の整理を強力に推進中。やがて人々はアイデンティティを求めて歴史や伝統に回帰するとも予想され、その時、文化と自然の共存都市・青森はこの新しい動きの発信地となる。

ITERに関しては前述の代替エネルギーの積極的な開発の提案とは矛盾せず、ITER計画懇談会報告案も取りまとめられ、夏ごろには国内候補地の選定も予定される。むつ小川原地域は近隣の発電所からの電力供給、三沢空港からの交通の便など条件がよく立地に適しているので、誘致を希望する。

最後に、青森県としては科学発展の重要性と、素晴らしい暮らしを維持するための責任を子供達に伝えていくと共に、行政の人間には常に彼らへの思いを忘れず良心的であってほしいと願う。

「原子力発電:展開するシナリオ」
M.エルバラダイ 国際原子力機関 (IAEA) 事務局長

原子力発電は世界の電力の16%を供給し、そのうち設備容量の83%が先進国に集中している。米国と西欧では減少傾向にあるが、東欧やアジアでは増加傾向にあり、特に東アジアでの増加が顕著である。発展途上国では今後数十年で、先進国に比べて約3倍もの大幅な電力需要増が見込まれる。原子力発電は将来的に重要だと理解されるものの経済的優位性がまだ十分でないために世界全体の電力供給量に占める割合は当面の間はむしろ微減すると予測されるが、欧州内では環境・経済面から原子力を見直す声も上がってきている。

個人的には、以下四つの基本的な課題への対処で将来が決まると考える:@高レベル放射性廃棄物処分技術の戦略の明確化とその促進、A関連施設での安全運転に向けた努力、B広報活動と公の意思決定を促すための客観的で正当な原子力の評価、C専門知識を伴う革新的原子炉の開発と燃料サイクル技術の確立、である。

第一の課題について、高レベル放射性廃棄物処分施設に関してはまだ議論の最中にあり、地層処分は技術的には問題がなくても、一般の人々の間で原子力に対する不信感がかなり強く、その不信感を払拭するために国際的戦略を策定する必要があると考え、IAEAは高レベル放射性廃棄物の深地層処分に関する国際共同研究やデモプロジェクトを推進している。

2番目については安全確保体制への取り組みの積み重ねが大事である。IAEAではこの数年で安全指標を全面改定した。また、計測可能な指標の制定について、9月の国際会議で議論する予定である。日本もIAEAを通じて、アジア各国で発電所や研究炉の安全運転を高めるための技術協力や資金援助をしている。

3番目に、世論の理解を得ることについては客観的な評価が必要だ。それを基に原子力に関わる問題、他事象とのリスク対比、自然放射線の存在、商業利用等について理解を得る必要がある。現在は持続可能な開発が重視されていることを念頭に、市民への対応を考える。原子力の平和利用の事実を信用してもらうよう、信頼のおける確証を提供し積極的に働きかけるべきである。

4番目については信頼性への影響を考え、技術を絶えず刷新するとともに経済性も配慮して安全性と経済性の両立を可能にすべきだが、それには炉の大小を問わず受動的システムを多く使うように設計すると、低コストと安全性が同時に達成できてよい。4万kWの中小型炉は実際の需要に即している。コストが低く、送電網で繋げば途上国でも使い易く、海水脱塩など幅広い用途に利用できる。IAEAはこの革新型炉の設計に関する意見交換、国際的安全基準作りを促し、米国主導の革新型炉と燃料サイクルに関するプロジェクトの次世代炉フォーラムを後援した。これらの国際協力・共同研究の成功は、ユーザーのニーズをどれ位つかめるかが鍵である。

他に、社会の原子力への誤解や原子力産業の停滞により若者の原子力離れが進み、長期的戦略のために必要な科学者・技術者が集まりにくいという問題がある。IAEAはこれを重視し、関係機関や職業訓練センターとの連携を進めて若い人が働きやすい環境を整えている。

世界では変化の波が押し寄せ、様々な問題が生まれているが、今後も続いて原子力技術の恩恵をあずかれるよう、直面する課題を理解し取り組むことが重要である。

「フランスの原子力開発と国際戦略」
A.ローベルジョン 仏核燃料公社 (COGEMA) 会長兼社長

現在世界ではエネルギー需給バランスが大きく崩れ、この傾向は拡大が予測される。実際、どのエネルギー源も環境へは多少を問わず影響し、それぞれ一長一短のため特定のものを選ぶのは不可能だが、その中で原子力の価値は高い。原子力発電の割合の高いフランスでは1kWh当たりのCO2排出量がドイツの1/10以下である。ゆえに我々は環境論者の反原発論に安易に屈せず、客観的な分析に必要なデータベースを確立し、発言する必要がある。

EU副委員長は化石燃料への依存の低下を訴え、原子力発電が我々の経済活動の安定化に寄与するとしたが、電力問題に関しては欧州内では矛盾が多い。原子力発電拡大を決めたフランスでは原油価格が3倍になった時も国内の電力価格への影響はほとんどなかった。原子力発電完全廃止を決定したスウェーデンが原子力発電所を1基閉鎖しただけで石炭火力電力の輸入に頼る一方、フィンランドではエネルギー供給安全保障等の観点から原子力への関心が復活、新規発電所建設も計画中である。電力供給に不安のある米国を発信地に、他の途上国でも同様の傾向が見られるが、原子力には廃棄物処分、透明性、産業構造の3つの難題がある。私見では使用済み燃料再処理が持つ環境への意味合いは大きいと確信する。廃棄物の体積や毒性を極力減らし、使用済み燃料の96%から貴重なエネルギー材料をリサイクルできる。燃料サイクルは他の産業を奨励する人々からも非難の対象となっている。このため市民が自らの判断で選択できるような努力が必要である。透明性は原子力への理解を助けるとして、コジェマではインターネットを用いて積極的に情報公開を行っている。

原子力業界は関係者の尽力の下、慎重に構築されてきた。しかし国際的展望は変わり、エネルギー市場の規制緩和と国際競争は激化し、合理化や吸収合併の戦略も変化、もはや古いやり方では立ち行かないと判断し、当社では合併統合を実行した。企業再編は終了し、コジェマとCEAとフラマトムの株主が一緒になって新会社TOPCOを設立した。TOPCOは原子力と新技術の2事業を軸とする。原子力分野はフラマトムとシーメンスの技術の蓄積と多くの製造拠点を武器に柔軟な生産・コスト管理体制を敷き、個別ニーズ対応から包括的事業の展開までを可能にし、時流に適応する。年商100億ユーロのうち65%が原子力で、将来はこの2分野のトップ企業となると期待する。産業構造の変化が徐々に世界へ開かれて行く際、いままで協力を続けてきた日本は勿論、全ての相手をパートナーとして歓迎したい。

日仏は国内資源不足の脆弱性からエネルギーに対する見解が似ており、共に長期的に計画を固めてきた。両国間で自信と信頼の基礎を創るための関係が続いてきたことは誇りである。また、この協力は商業ベースを越えて原子力産業発展にも寄与し、東海村とは人的交流や技術競争を行い、六ヶ所村の使用済み燃料再処理工場の成功では相互利益の共有を具体的に証明した。産業交流以外に日本との文化・スポーツ活動交流の支援も行っている。

我々は過去の実績をもとに、原子力が直面する課題に対処し続けられると確信する。化石燃料価格や規制緩和の問題が現れる時、原子力の利点が強調される。原子力の選択は合理的なエネルギーミックスの中で考える。原子力は唯一の答えではないが、原子力なくして答えは出ない。

「文明と原子力開発の意義」
R.ローズ 米ピューリッツァー賞受賞作家

「進歩」という言葉は過去半世紀、疑問を持たれるようになった。まず栄養と公衆衛生の発達で世界人口が急増し、次に技術開発の急進が地球規模で影響を与え始め、死亡率と技術開発により人類全体の生存年数と質を向上させたが副作用も出た。そうした場合技術や制度の改善を図るのが理に適うはずだが、実際はまさにその技術の恩恵に与った人々が痛烈に産業技術を批難する。

人類の発展と電力利用の間にも直接関係があり、先進国と途上国との間では1人当たりの電力消費量の差が大きい。全人類が物質的・経済的に平等になるには実用化の可能性が高い低公害エネルギー源の開発が不可欠だ。原子力は太陽光や風力に比べて同規模のエネルギー発生時の温室効果ガス排出量が少なく、広大な土地も不要だ。最も現実的かつ低公害のエネルギー源でベースロード電源に相応しい。石炭は燃焼時に大気汚染の原因となる大量の有毒ガスや微粒子を発生、極めて環境に悪い。ハーバード大学の最近の研究は、米国だけで石炭燃焼に起因する早死が年間1万5千人と指摘している。天然ガスは石炭より長所が多いが、供給量の限界や埋蔵地域の偏在、引火爆発の危険性等の短所も多い。原子力発電はわずかな燃料から膨大なエネルギーを生み、廃棄物の量も他と比較してごく少量だ。発電所自体から出る放射線もテレビ1台以下と微量で、有害物質排出に言及するなら産業廃棄物の全体量の方がよほど多い。使用済み燃料が正しい貯蔵管理下にある限りは放射性物質も大気中に放出されず、技術的に安全な処分管理が十分可能だ。化石燃料発電よりも健康を損ねない。また、原子力事故はガスプラント火災など他の事故に比べて規模や直接的な犠牲者数が圧倒的に少ない。原子力史上最悪とされるチェルノブイリの事故後、多くの子供が甲状腺ガンにかかったのも、本来医学的には助かるところを、政府が事故の影響の可能性を否定して適切な治療を行わなかったという政治的な問題が原因である。

原子力発電に対しては潜在的な核兵器材料拡散の問題があり、発電所から出るプルトニウムの核兵器への転用の危険性等も取り沙汰される。しかし核不拡散を考えるなら、原子力発電の全廃よりも核兵器級ウランを発電用に転換していく方が効果がある。他には例えば燃料の国際的な管理・リサイクルシステムを作ることを提案したい。設備監視から廃棄物処分まで一貫して扱えば効率がよく、またそのような動きは核軍縮に必要な信用と透明性も創出する。

かつて米初代原子力委員長は「エネルギーは歴史の過程の一部分で、人類の労働の替わりとなる。人間の望むものが増せばその需要も増す。」と述べた。快適な暮らしを享受している人々の一部は簡素で小さな世界を夢見るだろうが、その考えはエリートのエゴに過ぎない。毎年、何百万人もの子供が飲み水や食糧、医療不足で死んでいくが、ある程度のエネルギーがあれば解決される。人類が平等によい暮らしを手に入れるにはより「多くの」エネルギーが必要で、「節約」ではない。

電気によって供給される最終エネルギーの割合が多くの国で急速に増加しているが、化石燃料と違い原子力はエネルギー発生時に炭素分子を発生しない点で非常に優位だ。このような物理的事実と常識は、人類の将来に重要な決定を下す助けになる。原子力は環境に優しく、実際的で、今後100年のエネルギー経済を適切に維持するものと期待される。原子力が近い将来、中核エネルギー源となれば、エネルギー供給の諸問題に対する最良の解決策の一つになる。