[第34回原産年次大会] 概要報告 市民の意見交換

【市民の意見交換「21世紀の原子力−地球、エネルギー、環境の保全のために」】
4月25日(水)18:00〜20:00

コーディネーター:米澤章子 青森放送(株)報道局放送部長
<コメンテーター>
J.ライクロフト 英国原子燃料会社 (BNFL) 使用済み燃料管理営業本部長
A.ハワード 米国原子力エネルギー協会 (NEI) 上級副理事長
R.ローズ ピューリッツァー賞受賞米国作家
石橋 忠雄 弁護士
中島篤之助 元中央大学教授
森 一久 (社)日本原子力産業会議副会長

本会は、主に一般市民の方々から率直な意見を聞き、今後の原子力研究開発利用の健全な推進に役立てることを目的に開かれた。今回で7回目を迎え、約500名の参加者で会場がいっぱいとなり、活発な意見交換がなされた。

はじめに、コーディネーターの米澤氏より本会の進め方について説明があり、コメンテーターの森氏から本会の趣旨について説明があった後、あらかじめ事務局に質問を寄せた参加者から口火をきってもらい、討論に入った。

<森氏挨拶>

広島で第1回を開催し、核兵器禁止と平和利用の推進が両立しうるか議論して以来、今回で7回目となる。今回は特定のテーマということをなくし、この会は本音の議論を、市民の方も原子力関係者も共に皆で考えつくことを全て出し合い議論する会合である。理想としては、この会が夜でなく、昼の本会議になるようになれば、日本の原子力も本当の民主的な開発が進められるようになるのではないかと思っている。

<意見交換>
【原子力施設の安全性と情報公開】
参加者A:
原子力施設は安全性が心配だ。人為ミスを100%防ぐことは無理と思うが、人為ミスへの対策は設計上も含めどのような観点から対策を講じているのか。また、素人は安全性と言われてもよく分からない。職員との本音トークとか、定期検査初日をオープンデーとして聖域なしに全てを公開してはどうか。こういった地道な努力が大事なのではないかと思う。
ライクロフト氏:
イギリスとフランスで再処理工場が作られてきて、50年の経験がある。設計面でもハイレベルなものが作られており、非常に自動化もしており、安全なプラントが作られると思う。人為ミスはほとんどない状態で運転できるようになった。
参加者B:
発電所の所長時代、ヒューマン・ファクターは一番気を使った。技術は人間がコントロールする。技術をコントロールするためには、計画、設計、製造、運転、保守など全段階で人間が絡んでいるので、そこで何か考え落ちがあると運転のトラブルとなる。そのようなことのないよう、それぞれの段階でそれぞれしっかりした人達がしっかりした技術をしっかりした考え方をもって、安全と品質をつくりこむ。原子力に携わる全ての人達がそういう気持ちでやっている。また人間のミスがあっても、大きな故障につながらないようフェール・プルーフ、フェール・セーフの設計をしている。原子力発電所の安全は深層防護で、何かあっても環境へ大量の放射性物質を放出することのないようにとの考え方でやっている。しかし、そういう考えでしっかりやっていても、TMIの事故では、技術が発している情報を人間が的確にキャッチできなかったため、事故後マン・マシーン・インターフェースの問題を一所懸命やった。チェルノブイリでは、どういう心をもって人間が技術に対処するか、文化のレベルまで立ち入って、技術をコントロールしていかなければならない「安全文化」の考え方がでてきた。一昨年のJCO事故では、現場で技術に携わる人の職業倫理の問題、企業の経営倫理が問われた。倫理規定ができ、倫理の問題まで踏込んで、人間のファクターが安全に影響を及ぼさないようにやってきた。
中島氏:
安全文化は相当注意していかないと、まさかということがある。昔の緊張感がなくなって事故が起こる。今後は起こらないと反省したはずだが、また起こりうる。市民から関心をもってもらうことが、事故の再発を防ぐ保証になると考えている。
参加者C:
現在PAに携わっている。情報公開は重要だが、核物質を扱っているので公開できない情報もある。それ以外は、県民の望む情報をわかりやすく、速やかに発表しなければならないと思っている。プレス発表は一番重要な部分で、早く情報を収集・評価し説明を行っている。この内容は、ほぼ同時にインターネットで情報公開している。その他、ホームページではなるべく新しい情報を出している。また、TVのCM、広報誌、情報公開コーナー等で情報発信・公開している他、施設を見ていただくのも重要な要素で、現在、定期的に公募による見学会を実施している。制約等あるができる範囲で今後も情報公開にできる限り努めていきたい。
ライクロフト氏:
良質な情報公開は、必ずしもスムーズにはいかないが、イギリスやフランスの燃料業者は再処理施設に注意を払っていて、セラフィールドは年間3万人の見学者がいて多くの人がサイト内も見学しているが、これは大変重要なことだ。その結果、地元の方々にセラフィールドでの事業の受け入れの度合いが高い。日本でも同じことが起こるのではないか。オープンに情報を共有するのでプラント施設は地元の人に人気がある。しかし遠くの人は今一つ分からない。見学できない、情報が手に入らないと疑念がわく。もう一つサイトで行っていることは、連絡委員会があり、地元の代表者が施設側の人間と定期的な会合をもち情報交換をしている。問題があってもその情報を公開する。このような地元リーダーとの情報交換が重要と考える。
ハワード氏:
一般の人はなかなか理解できないとのことだが、決してそんなことはない。技術は一般の人も理解できるよう話せるはず。一般市民は専門家と手を取り合って理解をする努力をしてもらいたいと思う。疑問があれば必ず答えが戻ってくるように自らが働きかける、わかるように相手に語りかける、是非これをお願いしたいと思う。地域社会との係りの問題は、米国でも地元の方々は好意をもって受け入れてくれている。原子力発電所の許認可が延長される場合、厳しい議論等あるが、地元からは賛成してもらっている。これはクラブ活動を一緒にしている等の地元住民と運転員との交流が背景にある。現場で働いている人々は近隣社会の人々であり地元からのサポートもある。企業と社会の相互信頼がある。お互いに尊敬し率直な質問をしている。
石橋氏:
先ほどの質問は本質的な問いかけをしている。技術はその時点で完成されたものでなく、トラブルや事故、ヒューマンエラーが重なり問題が出てきていると思う。本音トークしたいというのは、事故・トラブルを超えた問題をいっている。BNFLのデータ問題やJCO事故の問題があり、安全文化や職業倫理の問題ではないと思う。原子力関係者に高い倫理や文化性を求める気はない。私達が願いたいのは、その地域に住んで、あるいは国民の一人として、原子力の関係者が一所懸命やっているところを見せてほしい。人を欺くようなことだけは最低限やめてほしい。そうすれば本音トークをしてほしいといった意見は出ないと思う。
参加者D:
日本原燃の社長をしていた。今度原子力委員になり、私はいつでも、どこでも、誰とでも対話することにしている。私自身安全文化をどうやって築き上げようかと腐心してきた。報道の即時性だけでは皆の安心感になっていない。事故の際、情報の正確さと即時性はかなり相反している。原子炉の事故にはインターロックがあり、徹頭徹尾大事故が起こらないようにできているのが原子力で、事が起こった時、原因を知るのに時間がかかる。情報の即時性と全面開示は事業者の義務だが、トラブルがどの程度のものか一般の皆さんに解明するような情報がほとんどまだ入っていない。事業者側が主観を入れた恣意情報を与えるのは禁じられているので、どなたか原子力に明るい方が、たいしたことはないんじゃないかという情報を入れることのできる仕組みにならないかと希望している。また、日本原燃は、就職希望が多く、青森県の皆さんから誇りと思われ愛されている会社だと自負している。本当に危険な会社ならこんなに希望はないと思う。青森は工業では遅くスタートした県だが、今や原子力では急成長し最高の県になっている。極力青森県の子弟を採用したいと思い、特に地元の人を1,000人近く採用している。安全文化を植えつけるのに、地元の皆さんへの願いは、我々が安全を第一に仕事していることをぜひ理解していただきたい。
【高レベル放射性廃棄物処分】
参加者E:
原子力発電が継続されるためには高レベル放射性廃棄物(以後HLW)処分がポイント。諸外国でも実施例はないように聞いているが、その理由をどのように受け止めているか。
ハワード氏:
米国は広範囲な科学的研究がなされ、ユッカマウンテンで徹底的な科学的研究が行われている。あらゆる観点から調査を行い初めて永久処分のサイトとして許可されることになる。再処理の場合は、ウラン等使用可能なものは抽出され、使用できないものは固化される。一方、再処理されない場合、固形のものであればコンテナに封じこめ、その容器は環境に悪影響を及ぼすことのないよう適切に管理されている。より長期的に見ると、地質調査を全て終えそれが貯蔵庫になり、この物質を長時間にわたり管理し貯蔵することがある。少量なので適切に管理できると考えている。
ライクロフト氏:
スウェーデン、フィンランドでも同様の種類の永久処分サイトの研究が進んでいる。いろんな国である程度の進歩はあるがそのスピードは遅い。なぜ遅いかというと徹底して技術的な検証をしたいからであり、正しい技術的裏づけが必要だからだ。それだけでなく、地元の理解を得るためにも十分な時間をかけているからこそ、進歩がこのようなペースになっている。また放射能は熱と一緒で時間の経過と共に放射能は崩壊するので、今火急の問題ではない。20〜50年かけて適切なサイト、技術的にも適切で地元も受け入れられることを検討できるだけの余裕はまだある。廃棄物を30〜50年と保管することによって放射能はそれだけ減衰する。
参加者F:
HLW処分に携わってきた。日本でも、HLW処分の研究はかなり前から行われている。動燃の時代から20年にわたってHLW処分をどのように進めていったら良いのか、その安全性がどのように保たれるかの研究を行ってきた。平成11年の11月に「第2次とりまとめ」(HLW処分が日本でできるかへの技術的回答をまとめた報告書)を出した。専門的なものだが、できるだけ多くの方々に中身をわかっていただくために6回にわたって全国でフォーラムを開いたり、科学技術庁(当時)と協力して報告会を開いてきた。その内容は、日本の地質でも十分安定な地質を選ぶことができる、自然現象にどのような対応がとれるのか、研究成果をもとに技術的にはHLWをガラス固化体として処分する時の安全性は十分保てるとの結論をだした。これが一つの基本となり、日本における廃棄物処分を進めていくための法律が整備され「原子力発電環境整備機構」ができ、ここが実施主体として活動を始めている状況にある。この事業は必ずうまく進むと考えている。なぜかというと、一般の市民の方々、調査の対象となる地域の方々の理解がなければこういう事業はできない。理解を得るためにどのような手順で進めたらよいかを長く原子力委員会を中心に議論されてきた。先ほどの質問で、世界で地層処分をやっているところはないではないかとのことだったが、フィンランドは今年中に議会で最終処分地の決定が承認されるだろうと言われている。フィンランドのプロセスを見ると良かったと思える4点を紹介する。

  1. 実施主体と地方自治体の間の連絡グループを設定して、サイト特定調査の進捗状況を密接に連絡してきた。
  2. 全ての調査研究の成果を公表し、レビューや批判を受けたことについても公表し受け入れてきた。
  3. 国民や市民の質問、意見への実施主体による適切な対応をとってきた。質問へ真摯に答える。
  4. 科学的な結果を日常の言葉に焼きなおして公表していくことによって、理解の促進が図られたのではないか。

このような事業を進めていく上で大変参考になると思う。安全性への質問などがあれば、サイクル機構(JNC)のホームページでもお答えできると思う。
ローズ氏:
永久処分について実際の経験がある。10億年前ガボンで、ウラン235がたくさんあり、鉱床内を流れていた水により自然な中性子変換が起こった。カナダでも天然の原子炉があり、安全のためのバリアを作ってなかったが、そこの物質は水がなくなっても数mしか移動していない。これは非常に興味深い自然の実験といえる。核物質の処分を考える場合の参考になる。再処理された廃棄物は地層処分し500年経てば、その毒性は高品位のウラン鉱床位のレベルまで低下する。今日、カナダでは多くの町がこのような高品位のウラン鉱床の近くに作られている。
石橋氏:
先ほどの参加者Fへの質問。JNCは、日本各地の調査の中で、その調査地点について、その公表を差し控えるという報道があった。その点について経過を説明願いたい。
参加者F:
全国で25ヵ所、昭和60年代のはじめ頃どのような地層であるか調査した。この調査結果は、原子力委員会で「有効な地層」という表現でまとめられるもとになったデータである。このようなレポートがあることをJNCが情報公開の一環として一覧表を公表している。データ公表の要請があり、情報公開指針にしたがって審査を行い、地名を除いて公表している。地名を除いた理由は、HLW処分の問題そのものよりは、我々が貯蔵施設の問題やJNC自身が抱えている施設計画を進めて行く上で、地名を明確に示すことによって、その地域が誤解をうける可能性が強いから具体的な地名は差し控えたい、と情報公開の外部の委員会に諮った結果、公表しなくても仕方がないということになった。
石橋氏:
米国のハンフォードやネバダでは長年にわたり調査し、報告書を公表している。先ほど日本原燃から核物質防護については情報公開できないということだったが、それ以外も公表できないとなると非常に納得できない。これではHLWの最終処分の開発は停滞していくと思う。
参加者F:
情報公開指針、情報公開法の内容は、プライバシーに関すること、ノウハウに関すること、核物質管理に関すること、業務を推進する上で重大な支障がある中間情報については公開を避けることができる。非公開の指定をした情報で理由を予め述べ、公開にしない事ができるとなっている。我々の指針を作る時に、アメリカ、イギリス、ドイツ等いろいろな国の情報公開の状況を調べ、日本の各自治体の状況も調べた。そういったものを全てとりこんで考えている。こういったものを我々だけが運用するのはだめなので、外部の情報公開の専門の方々に判断していただき公開するか決めている。
【自然エネルギー他】
参加者G:
風力発電や太陽光発電など自然エネルギーは原子力にとって代わることができるだろうか。
参加者H:
太陽光発電は今まだ安くできないので、実用を全てやるのは無理。1uのところで1kW、確かに効果的だが値段が下がらない。風力発電は、米国西海岸では常時強い風が吹き風車等の設計で非常に使いやすいが、同じ条件を全てに求めるのは難しい。日本では青森県の竜飛崎辺りがその条件に近いが、風力発電だけで全てを賄うのは難しい。とれるところでそれを利用していくことになる。いくらで作れるか、どれだけとれるかを並べて考えないと、簡単には言えない。こういう問題をいろいろ考えながら、決めていくことを早くやるべきだと思う。
ライクロフト氏:
原子力は風力、太陽光、水力等と競合しているのではなく、共通点が多いのだと考えている。いずれも化石燃料を燃やすのが少ない点で優位性がある。アジアで工業化が進み全てを化石燃料で賄おうとすると、スモッグや酸性雨の状況がますます悪化する。燃やす石炭やガスの少ない原子力や風力や太陽光が解決になると思うが、コストが高い問題がある。イギリスの場合、代替エネルギーが進んでいるのは、政府による助成金をもらっているところで、純粋に商業ベースで助成金なしでやっているものはない。もう一つの問題は、中断的に起きることで、太陽が出たり隠れたり、風も常に吹いているわけではない。それに代わるバックアップが必要で、またコストがかさむので、水力の方が発展すると思う。波の力を使えれば良いがこれも保証つきではない。代替エネルギーと対抗するのではなく、エネルギーミックスを考えるべき。ある特定のエネルギーにある程度踏込んで、理にかなったバランスを見出すことが必要だ。
ハワード氏:
私も競合しているとは考えていない。全ての資源を開発しなくてはいけない。原子力のライセンス行使のプロセスにおいて、代替エネルギーと既存の設備を比較する環境影響評価を行わなければならない。アーカンソー州の場合、80万kWのプラントを風力で代替しようとすると3,500エーカーが必要になる。これは85%くらいの稼働率を仮定した場合で、これを風力でやると稼働率が実際には30〜35%なので、それだけを考えてもどれくらいの土地が必要になるか、風力が全てに取って代わることはできない。かなりの環境資源が必要になる。例えば、西海岸で風力発電を開発しているところは、土地がたっぷりある所だが、都市的なライフスタイルをサポートし、公共の交通手段をサポートすることはできない、ただピーク時の電力需要を満たすことはできるので、こういう形で再生可能エネルギーを使うべきだと思う。適材適所で国によって使えるエネルギーも違う。
ローズ氏:
再生可能なエネルギーはクリーンであると思われがちだが、広い地域からのエネルギーを集約しなければならないため、風力発電塔の場合、土台にコンクリートと鉄を使用し、太陽光パネルでは鉄筋コンクリートを使用して資源を集約しているので、再生可能エネルギーとしながらも、サイクル全体を見た場合CO2の排出も多く、原子力発電所以上に多いことになる。排出のないエネルギーはない。再生可能なエネルギーがあったとしても、原子力と比べた場合、原子力と相殺される排出があり、どのバランスがしかるべきものとして認めるかの選択の問題になる。特に石炭火力、化石燃料と比べたら、この再生可能エネルギーも全く排出がないわけではない。次の100年を見越した対応をとるべきだ。
中島氏:
国民の原子力への不安感が強いので、再生エネルギーを大いに増やそうというコンセンサスがあったと思う。ところが、日本はアメダスのデータをもとに予測をするだけで風況調査をやっていない。竜飛を見たが、原子力に置きかえることは量的に考えれば無理。政府がソーラーや風力もやれるだけやって、国民がこれはだめだと納得したら、原子力が支持されるだろう。むしろこうしたことが大事だと思う。またライクロフトさんがバックアップが大事と言ったが、デンマークでは天然ガスを使っている。このバックアップを何でやっているか全然入ってこないのは困ったことで、北海道の場合も、例えばサハリンから天然ガスをもってきてバックアップにすることを考えれば、有望な風力発電+天然ガスのいい電力供給システムは不可能ではないだろう。
参加者I:
ロシアから参加している。原子力に関するロシアの課題と展望を述べたい。原子力では2050年までの計画がある。それには、2000年6月にロシア政府によって採択されたプログラムのための調査等が反映されている。その内容は、科学技術の解決策等を経て、技術を展開するという内容である。高速炉の将来も含まれている。ナトリウム冷却、鉛冷却の安全性の確認等を含む。熱利用は原子炉で濃縮ウランを使うのも含む。人のミス、防備の不足等による事故を無くすることも含まれている。
ライクロフト氏:
原子炉の開発をみると、今欧米では、受動的に安全性を担保した設計に新たな関心が集まっている。自動停止をすることにより熱冷却後に非常に安全性の高い運転ができるもの−沸騰水型のABWRと加圧水型のAP600、AP1000−この開発は一般の安全性に対する懸念もあり、技術が優れていることと訓練も併せて考えると現実味を帯びてくる。また米国において最近新たに原子力への投資が行われる可能性がでてきたことは興味深い。米国でも受動的なシステムが安全性の面からも尊ばれている。
ハワード氏:
米国では3つの新たな設計が原子力規制委員会の認定を受け、今後建設することが可能。またエネルギー省はこの受動的な原子力システムの安全性を担保したものを取り込もうとしている。ロシア、日本の若い世代に呼びかけたい。若い人こそ将来を握っている。世界中で原子力は非常に重要で、発電所は世界でも現在運転しているものは今後も運転するだろうし、今ライセンスの更新を行っていることで運転が延長され、最長で60年まで運転が行われるので、将来若い人達に一丸となって将来に備えて、世界で広く原子力を広めるべくリーダーシップを発揮してほしいと思う。若い人の健闘を祈る。
参加者J:
本音の話をしたいといった割には本音の話になっていない。そもそも原子力関連設備を青森に置くこと自体どのように思っているのか。現状の青森県のピークが昨年末132万kWで、東通や大間ができても青森県で使う電気にはほとんどならないで、青森県以外、首都圏に流れている。電力消費地に大型電源というのが基本的な考えだと思うが、地方が我慢を強いられなければならないコンセンサスがとられていない気がする。都会で使っている電気がどこから来ているか知らない人が多い。なぜ我々が議論してつくらなければならないのかと思うと、国民的コンセンサスという基本的なところが欠けているのではないかと思う。
ローズ氏:
カリフォルニアの人達は、自分達の電力を違うところで発電してくれればと思っている。彼らは環境汚染にナイーブなので、新しい発電所を自分達の所につくりたくない、ただ他所でやるなら大いにやって、どんどんカリフォルニアへ送電してくれという。ただ周辺も人口が増えて、ここ2年間位地元で全部電力を使ってしまい、カリフォルニアには電力が来なかったという例がある。原子力発電所が建設されると雇用が生まれ税金が戻ってくるメリットがあるので、地方への見返りがないということはないと思う。ただ米国における問題は、人々はいかなる工業施設であっても自分達の周辺ではつくってほしくない、他所でやってくれという発想があり、常に我々にとって苦しみの材料である。
ハワード氏:
米国でも、発電所は地方の景観を損なう一方で見返りはある。税金が投入され学校ができる、雇用が生まれる等メリットがある。ある所で発電し、その電力が他に供給されることは、地元に対する見返りはあるが、その問題ではないと思う。規制緩和がさらに進むと長距離で送電されることになり事態が変わるかもしれない。しかし、民間投資なので土地を利用するために政府から助成がくる。資金的な見返りがあるので、企業が環境へ悪影響がないことさえ保証すれば良い面がある。既存の施設では、引き続きそこで存続する意思が強い。新しい施設はやむをえないという姿勢があると思う。
ライクロフト氏:
どこに原子力発電所を設けるかということに陰謀等はなく、あくまでも条件を考えてやっている。原子力は水がある所が条件となり、沿岸地域でつくられることになった。誰が一番良いメリットを得られるか、買う側なのか、それとも地元の雇用喪失を第一優先にするか等いろんな選択肢がある。良い面があれば悪い面もある。ほとんどの場合、イギリスにおいては企業の進出を歓迎するむきが強い。
森氏:
原子力施設がなぜ嫌われるか。潜在的な危険性の問題よりも地域の社会に大きな影響を与えるためである。ある地域では同じ親戚の中で原子力賛成、反対と分かれてしまい関係が崩れてくる等の問題がある。これは日本社会に密着した深刻な問題。もう一つは、大都市に電力を送るために離れたところに置く問題。昨年年次大会で日本の原子力発電所は安全性が高いので東京に近いところにつくることを、関係者は真剣に考えるべきではないかとの意見が出た。出来る努力はするべきという考えだと思う。原産では大都市における原子力発電利用可能性の委員会をつくり、可能性を検討している。地盤や地価の問題等簡単ではないが、違った原子炉を考えられないか可能性を探っている。どういう結果が出るか、まだ半年かかるが少なくとも可能性にはチャレンジしていきたい。また公開の問題も議論が今一つかみ合わなかったが、解決策はあると思う。
参加者K:
5年前にガボンの天然原子炉を見てきた。鉱山のその場所へ行ってみるとキャンプファイヤーをやったような焼け焦げた跡があり、坑内に入って天然原子炉の化石になっている鉱石をかきとって帰ってきた。青森で三内丸山遺跡を見て、人間の歴史を考えさせられた。地球が出来て46億年だが、その天然原子炉が動き始めたのは17億年前、動物も植物も人間もかけらもない時代に、水がでてきてウラン鉱石中のウラン235の濃縮度が3%の品位をもっていたので、天然の水が入って原子炉を形成したものだ。長い間動いていたが、核分裂生成物つまり廃棄物がその周辺を汚染することなく、環境に影響をあたえることなく今化石になっている。ここを見たとき、地球が出来て46億年たって人間は生きているが、太陽がふりそそいで人間が生きていく上で必要なものを作り上げてきている、その一つにウランがあるのではないか。そこに立った時、今原子力の利用開発に人類は苦労しているが、ここに教材をつくっておいてやった、ここを見て勉強しろといってくれている気がする。ウランを燃料棒に入れ、さらに圧力容器に入れ原子炉建屋の中に置くというように、3重4重5重にして人類はウランをどのように使っていくのかを考えていく。自然エネルギーの話もでたが、分散型の不安定な電源は難しいので、ウランの開発利用を大切にしていく必要がある。危険性を防御しながら使っていく事を考えていくべきではないかを、ガボンに行き考えた。ウランと共存しながらうまく使っていけと言われてきたように感じた。
米澤氏:
ウランの話が出たが、地球の大切な宝物で、それをどう使うかが、私達の智恵なのかと思った。
参加者H:
原子力は人間が火を使い出したときと似ている。危険な材料だが、難しいものでも何とか使いこなして人間生活を満足出来るように考えるようになった。一所懸命になって専門家が考えてやっていることを忘れないでほしい。使いこなしていくことが安定したエネルギーを供給する上で大事だという気持ちでやっている。ところが、調べて大丈夫だと思っていても、とんでもない事が起きる事がある。事故を起こし、なぜこういうことが起こったのか究明していく時に、予測できないことで起こったということになれば当事者は無罪放免になる。手落ちがあったということになれば、しかるべき処分になる。失敗があれば率直に認めて早くおわびすべきだが、自分の失敗を素直に認めない人がたくさんいる。人間が反省し非を認めて、どこがどう失敗したか、これからはこういう態度が本当の態度だと思う。今、幸いにしてこの分野ではこのような傾向が強くなってきているのは、いろいろな方の努力が実ってきているのではないかと思う。また、火というのはこういうものだと使う人が勉強していただきたい。難しいものではないからしっかり勉強して正しい使い方をして、周りにおかしなことをしようとする人がいれば止めて下さいという考え方で、皆さんにも積極的に勉強していただきたい。そのためにも、専門家の方になるべく解りやすい言葉で本を書いてほしい。こういう会があり、いろいろなお考えや疑問な点が明らかになってくる、いろいろな問題が出るので、隠してやろうと思った方がないわけではない。事故が起きたらレポートしろといわれるが、下手なことをすると過剰報道になるので、報道担当責任者はとかく引っ込み思案になる。周りの市民の方々もご自分で守る、あるいは周りの人々に言う人がいれば火事も焼け死ぬ人が少なくなる。そう言う意味で、皆さん方にも勉強していただきたいとお願いする。今回の試みが大きな効果があったことを、関係の方々に感謝するとともに、私もこういうことが再発しないよう、安定したエネルギーが皆様方に末永く供給できるように考えていろいろな努力も続けていきたいと思っている。