[第34回原産年次大会] 概要報告 セッション2

【セッション2「原子燃料サイクル施設のある日英仏3地域から、世界へ」】
4月26日(木)9:00〜10:20

コーディネーター:佐々木 高雄 東奥日報社社長
<講演>
木村 守男 青森県知事
J.カニンガム 英国カンブリア県選出国会議員 (セラフィールド再処理工場)
P.グレゴワール 仏国ラ・マンシュ県知事 (ラ・アーグ再処理工場)

このセッションの目的は、21世紀のエネルギー政策、原子力政策に対するフランス(ラ・アーグ)、イギリス(セラフィールド)、日本(六ヶ所)の再処理工場を中心とした原子燃料サイクル施設の意義と役割、3ヶ国・3地域の協力などについて、積極的に意見交換をし、原子力利用、原子燃料リサイクルの意義と地域への貢献について議論を深めることである。

各代表からそれぞれ3地域を取り巻くエネルギー政策の現状やそれに対する考え方などが発表された。その後、佐々木コーディネーターより、各代表者の発表を基に、原子燃料サイクルの推進に関した3地域の共通認識(@各国のエネルギー政策への貢献、A地球環境への貢献、B地域発展)の確認が行われた。さらに各代表者より、今後の相互協力について抱負が述べられた。

最後に、原子燃料サイクルの推進に協力している3地域が、より綿密な協力を行うことで、3地域が世界的に重要な役割を果していくことを確認し、コーディネーターと3地域の代表者が、今後の協力を誓い合い、舞台中央で握手と挙手を行った。

J.カニンガム 英国カンブリア県選出国会議員

私の選出区である、西カンブリアのコープランドでは、BNFLが地域経済の首位を占めている。近年、この地域では、原子力産業以外にも観光、サービス、ニューエコノミー等にも力を入れているが、やはりこの地域の産業の核心は原子力産業であり、現在16,000名の雇用を支えている。これはこの地域の全雇用の約60%を占めている。また、この地域の原子力産業は、年間約2億ポンド(360億円)を地元の経済に収めており、BNFLだけでも年間1億ポンド(180億円)以上の製品とサービスをこの地域から調達している。BNFLは先端科学技術とエンジニア技術の面で、世界のリードカンパニーであり、このBNFLの高い技術がこの地域の経済水準を上げている。今後もこの地域での原子力産業の発展を願っている。

この重要な役割を担っている原子力産業の発展のためには、短期的にではなく、長期的に原子力や核燃料サイクルの必要性を唱えていくことが重要である。また、オープンで率直な討論や適切な情報開示も必要である。そして我々が直面している問題を偽りなく国民と話し合っていくこともまた大切である。

私は以前、ダラム大学で科学者として働いていたが、その当時から、世界のエネルギー供給について、特に人口増加や貧困の撲滅に対処するためには、化石エネルギーや新エネルギーだけでは十分でなく、原子力が必要であると考えていた。地球温暖化防止に関しても原子力が必要であると思っている。日本は高度成長を遂げたが、それには原子力発電が大きな役割を担ったと私は思っている。

1999年にBNFLで混合酸化物(MOX)燃料に係る事件が起こったが、それは私にとって大変残念な事件であった。現在BNFLは全力をあげ様々な改善を行い、信頼回復に努めている。ブレア首相もこの改善には支援を表明している。MOXは安全で大きなエネルギー源となるものである。英国政府も信頼回復に努力しており、BNFLが二度とこのような問題を起こさないと確信している。

ITの発達により世界の原子力情報がどこにいてもすぐわかるようになった。その恩恵により得られた情報によると、各国とも原子力に関して共通の課題を抱えている。我々はそれらに対し一緒に取組む必要がある。また、21世紀は原子力産業のルネッサンスが起こると信じている。それが起こるには国民との対話と長期にわたる様々な努力が必要である。

P.グレゴワール 仏国ラ・マンシュ県知事

私の地元であるラ・マンシュ県はフランスで最も原子力施設のある所である。そしてそれらの原子力施設は、県の経済発展の最も重要な切り札である。ここには、ラ・アーグの再処理施設と2基の原子力発電所と放射性廃棄物の貯蔵施設がある。ラ・マンシュ県は、交通の便や労働力の供給と言った面から、原子力施設の立地に大変適した場所である。

原子力産業の地元への影響については、先ず第1に財政的な貢献がある。これらの原子力施設からの納税額はラ・マンシュ県の全商業施設からの納税額の約60%を占めている。この財政によって、商業港、レジャー港、高品質な観光施設、学校、スポーツ施設、それに道路等の各種インフラの整備ができるようになった。

一般経済への貢献であるが、原子力発電所や再処理施設の建設により、各種調査業務やコンサルティング業務が活発になり、各種サービス部門の雇用も拡大した。また、各種有資格者の労働者も増え、この地域の平均収入額は県内で最も高いものとなった。

また、原子力産業は高等な知識、技能等を必要とするため、この地域の高等教育の発展も促した。現在、近隣の都市であるシェルブ−ルは科学技術の拠点となっている。この地域の科学技術の向上は、他の産業、例えば、食品加工や薬品、マイクロエレクトロニクス等の分野においても大いに役立っている。

最後に注目すべきことは、原子力という科学の先端的技術が、フランスで最も豊かで魅力的な自然環境や歴史的遺産と無理なく共生しているということである。原子力施設と自然環境の調和のために支払われた配慮が、今やこのコタン半島を世界で最も興味深い場所にした。

木村 守男 青森県知事

エネルギーは国民生活に重要なものであるが、我が国では、エネルギーについて国民の間で活発な議論がおこなわれているとは言い難い状況である。特に原子力発電については、価格の安定性、地球環境の保全等から開発が進められてきたにもかかわらず評価が分かれている。しかし、現実には、原子力発電は日本の総発電電力量の約35%を賄っており、今や国民生活にとって重要な役割を果している。また、地球温暖化防止には原子力発電が是非とも必要である。

この様な状況下では、新エネルギーや非化石燃料の技術開発を進めながら、国策として原子燃料サイクル事業を進めていく必要がある。度重なる石油の高騰にもかかわらず日本経済が発達してきたのは、安定した原子力発電の電力供給があったからである。

以上のような観点から、原子燃料サイクル事業は日本国にとって必要なものであり、青森県はいままでこの国策に協力してきた。しかし、度重なる原子力事故により原子力に対する国民の信頼は損ねられてきた。そのため、青森県は原子力施設の安全性には厳正な対応を図っている。国民の原子力への信頼回復のためには、国、地方自治体、事業者がそれぞれの役割を果し、安全の実績の積み重ねが必要である。

国は今後も責任を持って原子力政策を進めるべきであるが、並行して代替エネルギーの開発にも取組むべきである。環境に良く供給に安定性があり経済性もある代替エネルギーが開発された時点で、国民のコンセンサスを得てその利用を進めるべきである。原子力政策の推進と代替エネルギーの開発は矛盾するものではない。

【各地域代表の今後の協力に向けての抱負】

J.カニンガム 英国カンブリア県選出国会議員

我々3地域には、共通事項が多くあり、お互いに学ぶべきことがたくさんある。3地域の発展のためには我々の声が国際的に届けられる必要がある。それには3地域の団結が必要である。

今後、世界は様々な問題にチャレンジしていかなければならない。原子力はその問題解決に貢献していく必要がある。それには、我々が様々な教訓を学びそれを活かしていくことが必要であり、共通認識を持つ必要がある。

日本と英国とは、今までも地域間の交流が行われてきた。昨年もBNFLの地元と日本の東海村、敦賀市の学校との間で新たな交流が始まった。これからも交流を深めるために、多くの皆様に我々の地元へ来ていただきたいと思っている。木村知事、グレゴワール知事にも是非我々の地元に来ていただきたい。青森県の皆様が温かく私を受け入れてくださった。そのお礼もしたい。

P.グレゴワール 仏国ラ・マンシュ県知事

日仏両国ともすばらしい文化を有しており、フランスは日本の文化を尊敬している。これからも日仏は相互に理解していくことが必要である。木村知事は1997年にフランスを訪問してくださった。その他、青森地方の議員の方々、市民の方々、高校生の皆さんも定期的にラ・アーグのサイトを訪問してくれている。ここ数年両国の交流は深まっている。

我々は、20世紀にエネルギーと環境という問題に直面した。しかし、我々3ヶ国は、原子力という共通手段でその問題解決にあたって共に努力してきた。原子力には文化を超えて、技術と言う共通認識がある。この観点から、原子力こそ、平和的かつ協調的に各国が協力できる分野である。我々は原子力を中心に友情溢れた協力をする必要がある。

古い文明と技術力を有する我々両国にとって、クリーンなエネルギー生産と地球温暖化防止は、共に大望を抱くに相応しい大きな課題である。お互いに知識を交換し、協力し合うことが大切である。

木村 守男 青森県知事

国際化時代になり、国家だけでなく地域間でも、国際交流から国際協力へとステップアップすることが重要となってきた。ITの発達により、時間と空間の距離がますます短くなり、人、物、情報の交流が盛んに行われるようになった。このため地域間の相互依存関係が益々必要となってきた。

3ヶ国に共通していることは、農業を重視しているということであり、その観点から、3ヶ国にとって原子力行政と農業との調和は重要である。フランスの原子力施設には数回訪問したことがあり、原子力行政等いろいろなことを学ばせていただいた。しかしながら、残念なことに英国の原子力施設には訪問したことがない。是非訪問したいと思っている。今後、英国とも交流を深め、両国の良好な関係を益々発展させていきたいと考えている。

青森県は、21世紀を“人間性復活”の時代と位置付けている。これを国際化の視点から捉えると、青森県は、優れた素材を有し、世界に誇りうる文化観光立県、人間尊重社会になり得るといった可能性を秘めている。青森県は、その得意とする分野において世界に輝く存在となることを目指している。