[第34回原産年次大会] 概要報告 セッション5

【セッション5「電力自由化の中で再評価される原子力」】
4月27日(金)9:00〜11:00

議長:勝俣 恒久 東京電力 (株) 副社長
<講演者>
N.アスキュー 英国原子燃料会社 (BNFL) 社長
西村 陽 学習院大学経済学部 前特別客員教授
N.ニューマーク 米ニューマーク・アソシエイツ代表
A.トイボラ フィンランド・テオリスーデン・ボイマ社 (TVO) 特別顧問

最近の石油・ガス価格の高騰による欧米各国での混乱、そして米国の先頭を切って電力自由化に乗り出したカリフォルニア州での電力危機は、安定供給の重要性を改めて浮き彫りにした。こうした中で、価格や供給の安定性から、原子力発電を再評価する動きが各国で浮上してきた。電力自由化先進国のフィンランドでは、新規原子力発電所の建設申請が行われたほか、米国でも新規原子力発電所の発注に向けて具体的な動きが出てきている。本セッションでは、昨年3月に部分自由化がスタートした我が国の置かれた状況を踏まえて、電力自由化先進国との共通点、相違点について探った。

<講演者の発表>
「BNFLの再編と新たな事業展開」
N.アスキュー 英国原子燃料会社 (BNFL) 社長

世界的な流れとなっている電力市場の規制緩和(自由化)と公営電力会社の民営化は、今後とも原子力発電産業に大きな影響を及ぼしていくものとみられる。規制緩和と民営化の経験は国によって異なるが、電力会社に及ぼした影響は多くの点で似通っている。英国では、規制緩和によってコストや価格が大きく下がった。また、発電と送電、配電の分離が行われる一方、価格の下げ圧力が発電事業の垂直統合をもたらした。

米国では州単位で電力自由化が行われている。このうち、先頭を切って自由化に乗り出したカリフォルニア州は自由化の失敗から電力危機に陥った。なぜそうした事態に至ったかというと、完全自由化を1年で達成しようとするなど余りにも先を急ぎすぎたということがまずある。また、発電設備の不足に加え、送電設備が脆弱な状態で自由化に踏み切ったことも失敗を招いた大きな原因である。さらに、事業者が新規の発電所を建設しようという環境整備もなされていなかった。

これまでの規制緩和から得られた教訓をあげると、まず性急に自由化を進めてはならないということがある。また、かなりの余剰発電設備があることに加えて、回収不能コストの回収を認めること、長期的な視点から政府としてエネルギー政策を策定しなければならないことなどもあげられる。

自由化にともなう電力会社に対するコスト下げ圧力は、核燃料サイクル事業者や原子炉メーカーに影響を及ぼしてきている。米国にみられるような電力会社の統合は顧客の減少を意味する一方で、顧客の購買力と影響力は増している。電力会社に対するコスト削減の要求は、メーカーに対するコスト削減へと跳ね返っている。こうした市場変化に対応するため供給業者側での統合も起こっており、核燃料についてはウェスチングハウス、フラマトムANP、GNFの3社によって市場が押さえられている。供給業者と電力会社の関係も従来とは様相を異にしてきており、緊密度が増している。

BNFLとしても、そうした構造変化への対応を迫られている。BNFLの事業の柱は、燃料・原子炉サービス、発電、使用済み燃料、デコミッショニングだが、品質と安全を最優先に、顧客の信頼を獲得することを目的にマネージメントの改善に取り組んできている。

「電力ビジネスの世界潮流と原子力の競争力」
西村 陽 学習院大学経済学部前特別客員教授

電力自由化の本質は、必ずしも新規参入等による市場の争奪戦にあるのではない。電力自由化による変化の本質は、ビジネスの評価基準そのものが変わること、すなわち「市場」「競争」が電力ビジネスの基本的な評価基準になるということである。市場が電力ビジネスの中で支配力を持つということは、市場の力が強まり電力の需給が競争に委ねられた場合には、設備過剰による相場の下落や予期せざる大きな不安定性が生じる。

そうした場合、電力ビジネスは大きなリスクを抱え込むことになる。まず、持続的に価格が低下していくケースでは、新しく建設する電源投資を安定的に回収することができず、年齢の若い発電所の投資回収計画も目算がたたなくなってくる。また、不安定性が大きくなるケースでは、平均値として収入が安定していても、そのことを予見することは困難なため、短期的な市場価格によって経営を行う結果、自信をもって長期的投資を行うことは難しくなる。

市場・競争の下で、電力のスポット市場が成立した場合、1つ1つの発電所の利益貢献という考え方が明確にできてくることになる。そうしたことを合わせることによって、市場・競争の下での電力会社の電源構成、いわゆる電源ポートフォリオができあがる。市場が独占下にあり、卸電力市場価格が明確でない場合には、各発電所ごとに収支や利益貢献を出すことは困難である。このケースでは、1つ1つの発電所は、全体の安定供給という大きなシステムの一部として機能するため、それぞれの収支自体には大きな意味がない。

ただ、その時の状況によって大きく変動するため、スポット価格を予測することは困難であり、たとえば15年かけて投資を回収する発電所の利益貢献を計算することは至難となる。それだけ、発電ビジネス全般の不確実性が増してきている。比較的穏和な自由化を進めているように見える日本も例外ではない。日本の自由化に対しては、新規参入者が少ないなどのネガティブな見方がある一方で、電力会社はかなり早いスピードで投資の削減、資産の圧縮を進め、競争の準備をしているといったポジティブな見方がある。

市場・競争の枠組みの中で、原子力発電にはマイナスの評価とプラスの評価がある。マイナス評価としては、市場価格が不透明になる結果、投資額が大きく回収が長期に及ぶ原子力発電は経営面からみて敬遠されるという問題がある。さらに、既設のプラントについても、投資回収に必要なキャッシュフローが不安定化してしまう。一方で、プラスの評価もある。市場・競争システムへの移行によって、電力市場は高い確率で不安定化する傾向を持つ。そうした場合、長期的にコスト変動の小さい原子力発電は、顧客の購入する電力や市場全体の動きをより安定的な状態に導く拮抗力となる。

原子力の特性を活かしながら、地域の電力市場の安定化や顧客の利益に貢献している事例も出てきている。米国エクセロン社の原子力特化、ならびにそれに従った戦略は、ビジネスとして成功を収めただけでなく、ペンシルベニア・ニュージャージー・メリーランドエリアにおける電力市場の安定化や顧客の利益に貢献した。この地域と電力危機が発生したカリフォルニア州との大きな違いの1つは、エクセロン社を中心とする原子力の存在である。原子力発電のウェイトが高い地域では、原理的にカリフォルニアで起きているような価格付けのゲームは起きにくく、市場の不安定性によって電力系統運用さえ困難になってしまうという事態が起きる可能性は小さい。

市場メカニズムの中で原子力発電の価値が十分にあるとは言え、巨額な投資が必要な技術だけに、政策レベルでも、そうした安定化価値を制度の中に取り込む仕組み作りが必要になる。

「電力自由化における米国の原子力産業界の現状と見通し」
N.ニューマーク 米ニューマーク・アソシエイツ代表

米国では当初、原子力発電は規制緩和下で競争力を持たないとみられていた。しかし、予想に反して、規制緩和によって原子力発電の競争力が勢いを増してきている感さえある。さらに、規制緩和が電気事業の再編をもたらしており、これにともない原子力発電所の統合も進んでいる。また、原子力発電所の売却も活発化しており、原子力発電所の集中につながっている。

原子力発電所の競争力が向上してきた背景には、いくつかの理由がある。まず、設備利用率をはじめとした各種運転指標の改善による運転実績の着実な向上があるが、それ以外にも定格熱出力アップが原子力発電電力量の増加に貢献した。原子力規制委員会(NRC)によって10%超の出力アップが認められたのは4基、また5〜10%の出力アップが認められたのは42基、1〜5%の出力アップが認められたのは4基ある。燃料交換と保守のための停止期間の短縮も顕著になっており、90年に平均して100日を超えていたものが、昨年は40日となった。60日間の短縮によって、発電量が15%以上増えた計算になる。燃料交換停止期間は、今後20〜30日まで短縮されるとみられている。さらに、18〜24ヵ月という運転サイクルの長期化も、実績向上に寄与している。

もう1つの動きとして、ガス火力をはじめとした新規電源を建設するより、既存の原子力発電所の運転認可を60年まで延長するほうが経済的であるとの考えが主流になってきていることも注目される。すでに5基の運転認可延長がNRCによって承認されているほか、5基の申請について審査が行われている。さらに、今後3年内に28基が運転認可の延長を申請するとみられている。

米国では、以前は新規の原子力発電所の発注が行われるかどうかということに関心が持たれていたが、ここ1〜2年の間に、いつ、どのような型の炉が発注されるかという所まで大きく変わってきた。また、誰がという点に関しても明らかになってきており、その最有力候補としてエンタジー社とエクセロン社があげられている。エンタジー社は最近開かれた議会の聴聞会で、資本コストが1000ドル/kW以下になることがはっきりすれば、米国内に新しい原子力発電所が建設されることになろうと証言した。またエンタジー社は、いくつかの原子力発電事業者が新規原子力発電所の立地点を年内に公表する可能性もあると言明している。

エンタジー社とエクセロン社は炉型については異なったアプローチをとっている。エンタジー社が標準化された改良型軽水炉(ALWR)に的を絞っているのに対し、エクセロン社会長のマクニール氏は、大型のプラントは米国の競争市場では適切とは言えないとの主張を繰り返している。エクセロン社は、南アフリカで進められているPBMR(モジュール方式のペブルベッド型炉、出力12万kW)プロジェクトに参加している。

エクセロン社は、規制緩和された市場で競争力を確保していくためには、許可から運転までにかかる期間が長くても3年から4年内に収まるようでないと、コンバインド・ガス火力と競合できないと指摘している。また同社は、競争市場において今後5年内に要求を満たせるのはPBMR以外にないと確信しているとした上で、現在行われている実行可能性調査から肯定的な結論が得られれば、2002年にもサイトの事前(早期)認可を申請する意向を示している。さらに、南アフリカでの詳細設計の終了を待って、2003年にも建設・運転一括認可を申請する考えを表明している。エクセロン社は許認可手続きが26ヵ月で終了するとの期待をかけているが、NRCによる初号機の審査にどのくらいかかるかは現時点でははっきりしていない。

エクセロン社以外の電力会社は、規模の経済が活かせる大型の原子力発電所の方が有利としている。そうした大型炉の候補の1つにあがっているのが、NRCからすでに設計認証を取得しているAP−600型炉(出力60万kW)の後継炉とみられているウェスチングハウス社のAP−1000型炉(出力100万kW)。

こうしたことから、米国では大型炉とモジュールタイプの小型炉が将来の原子力発電所に採用される炉型として浮上してきている。2つのタイプの炉とも経済的に有利ということが実証されれば、市場の状況をにらみながら、両方の炉型が導入されることになるものと思われる。米国では、20年後以降の導入を視野に入れた第4世代原子炉プロジェクトも始まっている。

ブッシュ政権は、原子力研究イニシアチブ(NERI)の予算削減を提案する一方で、チェイニー副大統領が新規原子力発電所の建設に前向きな発言をするなど、前政権の方針を転換する政策を打ち出していることにも注目する必要がある。

「フィンランドの原子力発電戦略−新規原子力発電所の建設に向けて」
A.トイボラ フィンランド・テオリスーデン・ボイマ社 (TVO) 特別顧問

フィンランドでは、石油危機後の数年間と1990年代はじめの深刻な景気後退時期を除いて電力消費が上昇を続けた。全体のエネルギー消費の伸びは緩やかだが、電力消費は急激に伸びている。これは、産業界で他のエネルギーから電力へのシフトがみられるためで、より効率的なエネルギーへの指向が強まっている。フィンランドを含めた北欧の電力市場はすでに自由化されている。北欧では水力への依存が高いため、発電量と発電原価は降水量に依存しており、降雨量が多い年と少ない年では年間700億kWhも違ってしまうケースさえある。

フィンランドでは現在、水力発電によって全体の電力の18%が供給されているが、国内の水力資源がほとんど開発されてしまったことに加え、環境保護の観点から水力発電開発が制限されているため、水力のシェアは徐々に低下してきている。フィンランドの電力供給の特徴は電熱併給の割合が高いことで、製紙やパルプ産業はもちろん、都市の地域暖房にも広く利用されている。エネルギー源の中でバイオマスの占める割合が高くなっており、電力の約12%、エネルギー全体では20%超を占めている。電力輸入が全体の消費量の15%を占めているのも大きな特徴。

フィンランドでは、産業部門が電力消費全体の55%を占めているため、ベースロード電源に対する需要が大きい。産業部門では、今後15年間に年率1.5%で電力消費が伸びると予測されている。このため、老朽化した火力発電所の閉鎖も考慮すると、2015年までに新たに380万kWの発電設備が必要になるとみられている。

フィンランドならびにTVOとしても、新規発電所が必要になっているため、TVOは昨年11月、新規原子力発電所の建設を政府に申請した。この申請は、いわゆる“原則決定”を政府に求めるもので、フィンランドにおける原子力発電所建設手続きの最初のステップにあたる。具体的には、政府が原則決定を行ったあと、これに議会が承認を与えた段階では、じめてプロジェクトを進めることができるようになる。まず、原子炉の入札と新規原子力発電所の建設許可申請の作成が行われる。

申請の内容は、最大熱出力が430万kWの軽水炉で、立地地点はすでに原子力発電所が稼働中のロビーサかオルキルオトのどちらかになる。今回の政府への申請に先立ち、この2ヵ所のサイトで環境影響評価が実施された。

原子力発電所を申請した最大の理由は、原子力発電の方が長期的な供給安定性に優れていることに加えて、化石燃料価格や輸入電力価格が不安定であるのに対して原子力発電価格は安定しており予測が可能ということである。また、原子力発電所が温室効果ガスを排出しないということも、政府の気候変動対策と一致している。

事前に行われた実行可能性調査では、6種類のタイプが検討された。この時点では、炉型やメーカーについての判断は下されず、すべて同じ条件下で検討がスタートした。発電所のタイプとサイトをどちらにするかについては、入札案を技術的、経済的に評価して選定する。早ければ政府による新規原子力発電所の建設に関する原則決定は年内には行われ、来年はじめにも議会によって結論が下されるとみられる。手続きの遅れも予想されるが、順調にいけば建設作業は3年内に開始でき、早ければ2008年までには運転を開始できるとみている。

ロビーサ、オルキルオト両原子力発電所では、サイト内の中間貯蔵施設に使用済み燃料が保管されている。ロビーサ発電所の使用済み燃料は、原子炉メーカーとの契約に基づき、使用済み燃料の一部がロシアに輸送された。しかし、ロシアへの使用済み燃料輸送は90年代半ばに中止され、その後はサイト内に保管されている。オルキルオト発電所では、すべての使用済み燃料がサイト内に保管されている。

使用済み燃料の最終処分場の建設に向けて80年代はじめから基盤の調査が行われており、原子力発電事業者であるTVOとフォルトム・パワー&ヒート社が共同で設立したポシバ社が作業を続けている。ポシバ社は99年5月、オルキルオト発電所サイトに使用済み燃料の最終処分場を建設するため、政府に原則決定を求める申請を行った。地元の自治体は2000年1月、最終処分場建設を承認。また、政府も同12月に原則決定を行い、今年5月にも議会としての結論が下されるとみられている。ポシバ社としては、最終処分場の詳細設計をまとめたあと、2010年までには建設許可を申請するとみられている。順調に行けば、2020年には最初の使用済み燃料が搬入される見通しだ。