[第34回原産年次大会] 概要報告 セッション6 |
【セッション6「高レベル放射性廃棄物処分へのステップとその推進方策」】
「高レベル放射性廃棄物処分」は、原子力開発利用を進める上で重要な問題の一つである。欧米では既に、1970年代、80年代からこの問題への取組が始まっており、着実に進展が見られているようだが、わが国では諸外国に遅れをとっている。しかし、昨年「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」が制定され、2040年頃に地層処分を開始予定の実施主体として「原子力発電環境整備機構」が設立され、そのための資金の積み立ても開始された。また地層処分を前提に、処分場選定プロセスも概要ではあるが決められたところである。この推進に当たっては国民と地域住民の、立地や安全性等についての理解・協力が不可欠であり、今後の開発の各段階に応じて、そのための誠意ある対応が求められる。本セッションの目的は、先行する欧米各国の「高レベル放射性廃棄物処分」の取組み状況を聞いた上で、これらを参考にして、わが国でのより良い処分のあり方へむけての検討をすることにある。 本セッションは、欧米各国の中から、1991年より放射性廃棄物管理庁(ANDRA)が主体となって進めているフランス、1972年より放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)で進めているスイス、および1982年よりエネルギー省(DOE)で取組んでいる米国の、3カ国からそれぞれの状況を聞いた後、わが国の処分方策や今後の進め方について、経済産業省資源エネルギー庁および実施主体となる原子力発電環境整備機構から話を聞き、続いて学識経験者からそれぞれの立場でのコメントをもらう形で進められた。また会場の参加者からの質問に答える形での意見交換も実施された。 <基調講演>
フランスでは「放射性廃棄物の管理の最適化」に向け、研究開発を含めて次の事項を重点に行っており、1991年以来多くの成果が得られてきている。
これらの結果を踏まえて、2006年に国会において「核燃料サイクルプログラム」とともに、処分場建設の適否について決定する予定である。 また、@放射性廃棄物の毒性の低減ならびに廃棄物量の減容実績、核種分離や核種変換の手法とこれまでの成果、Aガラス固化体や放射性物質の長期的な挙動や特性の研究、中間貯蔵施設(地上および地下)の設計コンセプトの作成(これには使用済み燃料、中高レベル放射性廃棄物の貯蔵を含む)などに関してこれまでに得られた知見とともに研究の進捗状況等について説明がなされた。 深地層処分場候補サイトとしての地質的調査と今後の計画については、ビュール地方の粘土層に昨年8月に深地層研究所の建設に着手しており、さらに今後は花崗岩層についても検討を行っていく。 ガラス固化体は核分裂生成物のみを含有し、数百年を経て放射能レベルは天然ウランと同等程度になる。以上述べた研究活動はすべて、2006年に国会・政府が決定できる資料を提供するためのものである。一方、プルトニウム利用については、原子炉での一回および多数回のリサイクルの研究も実施している。 <各パネリストの意見発表>H.イスラー スイス放射性廃棄物管理共同組合 (NAGRA) 理事長 スイスの原子力発電所は5基あり、全電力量の40%を賄っている。放射性廃棄物処分の問題については、人口が多いこと、地質が複雑であること、インフラ整備の困難さ等、日本と非常に似た状況である。英仏で使用済み燃料が再処理された後、廃棄物と共に返還されるが、中間貯蔵の段階(対象は使用済み燃料またはガラス固化体、TRU廃棄物、低・中レベル廃棄物)が重要であり、1993年に設置が決まった。高レベル放射性廃棄物の処分に関しては、昨年、政府が様々なオプションを示した報告書をまとめ、環境団体、反対派を交えて多くの公聴会を実施した結果、地層処分が最良との結論に至った。この過程で、社会がこのプロセスに関与することが重要であり、また次世代の人々に、回収可能なことも含めて自由な選択肢を残すことが重要であることが明らかになった。今年政府は新原子力法を提出し、議会での検討に付される。処分場の立地については「科学的・技術的に実証された安全性」と「一般市民の受け入れ」のバランスを取りながら進めなければならない。一般市民は、許認可について段階的なプロセスと透明性を求めており、早期段階から地域住民や自治体との対話を行うなど、特に市民が意志決定する場合にはプロセスに関わること、最終的に支持してもらうことが重要である。スイスでの処分に到るステップは、第1段階(1978〜1988年)では1988年に政府が安全性に関する公的なレビューを承認したこと、現在は第2段階(1988〜2002年)であり、適切なサイトを明確にすることであり、来年度から最適サイトのフィージビリティ・プロジェクトが、政府と専門家のレビューを受けて行われる。第三段階(2020頃まで)はサイトが選定されるとともに特性調査が深地層での粘土質・結晶質について岩盤研究所により行われ、結果が良ければ、第4段階(2040年以降)として処分場の建設、操業が開始される予定である。 廃棄物処分の問題はエネルギー・原子力とは別に、政治的に考える必要があること、廃棄物処分のコンセプトや戦略を考える場合、選択肢を準備すること、最終的な実施に際しては体制・組織の明確化とともに構造的には一般市民の参加が必要である。 D・ホートン 米国エネルギー省(DOE)ユッカマウンテン調査プロジェクト次長ユッカマウンテン調査プロジェクトの目的は、国がここに高レベル放射性廃棄物の処分場を設ける場合の、根拠となるデータを集めることである。このプロジェクトが発足した経緯は、1982年に放射性廃棄物政策法が可決され、1987年にはユッカマウンテンのみが候補地となって、処分場として適切であるかどうかのサイト特性調査が開始された。以降、1998年には実現可能性についての評価報告を、翌1999年には環境影響アセスメント案を出した。現在さらに科学的・工学的研究を継続しており、本年末にはエネルギー省長官に最終報告書を提出することになっている。これが承認されれば、大統領そして議会へ勧告され、これに対してネバダ州議会または知事からの不服の申し立てが無ければ、処分場建設の許認可へと手続きが進められることになる。 現在までの活動では、一般国民とのコミュニケーション活動に至る全てのプロセスが、法律に基づくものであり、公聴会の開催、市民からの質問への回答等がこの法律に従って行われている。渉外部門における啓蒙活動プログラムは次の8項目であり、これらの詳細が説明された。
地下処分場の開発は非常に長いプロセスであり、新しい情報に基づいて色々な意志決定がなされなければならない。また啓蒙活動を通じて開かれた対話を持ち、信頼を構築していくことが重要で、そのために今後とも、@タイムリーで正確な情報の発信、A双方向コミュニケーションの強化、B一貫したメッセージの発信、などを継続して行っていく。 安井 正也 経済産業省資源エネルギー庁電力・ガス事業部原子力政策課放射性廃棄物対策室長わが国の高レベル放射性廃棄物処分に関しては、原子力長期計画、処分懇談会、総合エネルギー調査会での検討を経て昨年法律が制定され、実施主体、資金拠出の算定及び資金管理・運用方法が決められた。平成12年末までの発電によって生じるガラス固化体は約14,400本、今後約20年間の発電によって生じるガラス固化体は約4万本で、深地層処分に要する費用は約3兆円と見積もられている。 処分地の選定に関しては、@概要調査地区の選定、A精密調査地区の選定、B最終処分施設建設地の選定、の3段階の手続きを取る予定で、それぞれの段階で、当該の都道府県知事および市町村長の意見を聞き、これを十分尊重しなければならないことが法律で規定された。拠出金については前年度発電分を支払う方式だが、平成11年度以前の分については分納の形で納付される。 一方、今後の技術開発は実施主体と国および関係機関が次の分担で実施する。
今後、北海道幌延町で堆積岩での、また岐阜県では花崗岩での地下研究施設で研究開発が進められる。これら研究所が自動的に最終処分場にはならないとの法律的枠組を明確にした中で、様々な研究開発が進められることになっている。一方安全規制の法整備は今後別途法律で定められることになっている。 外門 一直 原子力発電環境整備機構理事長2000年5月に成立した「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」に基づき、同年10月に「原子力発電環境整備機構」が設立された。資金管理については「原子力環境整備促進・資金管理センター」に預託管理される。本機構の当面の活動として、最終処分施設の立地点確保に向けた、調査地区の選定準備手順の説明、事業に取組む「機構」の基本姿勢として、広報活動、地質環境データの分類・整備、安全性に配慮した事業の合理化・円滑化、国際協力の推進、等が述べられ、この中で特に本機構の活動は、国民から理解と信頼を得るため、積極的な情報公開と事業活動の透明性を確保して実施する旨の決意が述べられた。 さらに機構の事業活動や調査報告に対し、公聴活動を積極的に進め、地域住民・国民との間に理解のパイプが繋がるように努力する旨の表明があった。 徳山 明 富士常葉大学学長海外3カ国の発表に共通することは、処分手順の明確化と情報公開と理解の取得の重要性である。わが国でもこの問題に関しては、原子力委員会における処分懇談会報告の説明会を6回、バックエンド対策専門部会メンバー参加の地域シンポジウムを23回、核燃料サイクル開発機構の調査報告のフォーラムを5回開催し活動を行ってきた。 これらの会合で一番問題となったのは、「地層処分の安全性」であったが、核燃料サイクル開発機構のレポートでは次のことを明らかにしている。
これらのことは、今後実施主体における「概要調査地区の選定」の過程でも明かにされていくことになるであろう。 石橋 忠雄 弁護士高レベル放射性廃棄物処分への取組みに関し海外3カ国から発表されたが、重要なことは、@最終処分地の受入に関し、科学的・技術的アプローチに加えて、許認可に係ることに市民の参加を求めること、A高レベル放射性廃棄物処分に関する多様な選択肢の検討が実施されていること、B公聴会、あるいは市民から多様な意見を聴取すること等が、全て制度化されていること、等である。 一方、わが国の取組みは、専門部会等の検討結果を踏まえて昨年一応法律化されたが、知事や市町村長の意見を尊重することにはなっているが、市民とのかかわりについては制度化されていない。また伝統的にわが国の原子力についての理解活動は、住民・市民の説得を主体になされてきた。今後は海外の例にもあるように、制度上、住民・市民をどの様に位置付けるかが最大のテーマになると思われる。原子力委員会の場で、これらの制度化に向けた検討を是非実施してもらいたい。また情報公開に関して、公聴会等の場で透明性を高めていきたいとの話であったが、この「高レベル放射性廃棄物処分」については、是非、従来の電源開発的アプローチではない、別な方法で実施していただきたいと考える。 会場からの質問:
原子力産業は国民・市民との対話を通して理解を得、サポートを得てこそ進められる。特に高レベル放射性廃棄物処分は、地元住民の理解が得られるかどうかにかかっているということに尽きる。これは今回の年次大会、全セッション共通のテーマでもあった。わが国の法律上の問題が指摘されたが、それはそれとして、制度上の問題にかかわらず、実施主体を中心に行政との連携を図りつつ、今後開かれた活動を進めていただきたいと思う。 |