第35回原産年次大会を終えて
平成14年5月14日 (社)日本原子力産業会議
1.好調な米国の原子力発電、将来も明るい見とおし (NEIコルビン)
- 2001年の原子力発電量は7,670億kWh。90年に比べて33%の生産性向上。これは24基の原子力発電所の新設に相当する。
- 全米平均設備利用率は、ここ2〜3年、記録をぬりかえ、2001年は91%と過去最高。
- ブッシュ大統領は、ユッカマウンテン最終処分場を承認し、ネバダ州知事は拒否を表明し、上下両院議会の投票による決定まち。コルビンは楽観的。
- 「原子力2010年イニシアチブ」で、ドミニオンとエンタジーの2社がサイト開発の検討開始。エクセロン社がこれに続く見とおし。
- NRCはプラントのパフォーマンスを評価し、これを緑、白、黄、赤のランクで四半期ごとに公表。
- 許認可更新手続きを効率化して、審査をスピードアップ。これにより全ての原子力発電所は更新の見込み。
- 昨年公表したNEIの「ヴィジョン2020」(2020年までに既存炉の出力増強によって1,000万kW増大、5,000万kW相当の新規建設) を実現していくためには、今後、毎年100万kW級3基相当の建設が必要。
- 原子力プラントの好調は、官民協力の成果。(DOEのマーカスもNRCのメリフィールドも強調)
- 高齢化と停年退職に伴う原子力人材の不足見通しに、今後対応が必要。
2.ヨーロッパにも新しい動き
- ヨーロッパでは緑の党の勢力が台頭してきた時、各国とも社民政権との連携やチェルノブイル事故の影響で原子力発電からの早期撤退の圧力をうけていた。しかし、温暖化問題解決に向けて、それが決して現実的でないことが認識され、現在ではどの国もより中長期的な視野へと転換しつつある。
- ドイツでは、脱原発に向けて長期的プロセスを選んだが、政権の交代によってフェーズアウト計画は変わっていく可能性がある。
- スウェーデンでは漸く1基目の閉鎖は実施したが、2基目は当面棚上げされている。電力不足を補うため、デンマークの石炭火力から輸入する計画があるが、これは偽善だと批判されている。
- 7基の原子炉で電力の約60%をまかなっているベルギーでも、運転年数を40年に制限して段階的廃止を実施しようと政治的合意があったが、代替案がなければ、政府が年限を解除できる条項がついている。
- BNFLは、原子力発電の新規立地再開を政府に呼びかけ、スペインでも新規立地の動きがある。
- 緑の党は原子力に批判的だが代替策が無い。2030年ごろを考えると、核融合は未完で天然ガスは高騰するかもしれず、風力は景観を損なうといった現実にも直面している。イデオロギー的な根拠だけで原子力を排除している場合ではない。(フォーラトム ハウク)
- 原子力は多くの利点を持っているが、持続可能な開発に貢献できるためには、廃棄物問題への解決策を示すことが大切。このためには限られた量の核燃料から最大のエネルギーを取り出し、放射性廃棄物を最小化するプロセス、つまり、再処理と短・中期には軽水炉によるリサイクルの継続が不可欠。また、将来の有効なオプションとしてガス炉を研究。(仏CEAブシャール)
- 英国では2020年までの間、規制緩和をによる効果をみこんで、kWhあたり15ペンス (約2.8円) の発電単価を想定しているが、新設の天然ガス、石炭、原子力のいずれも、これを達成できる見込みが無い。したがって、どの電源も新規建設はやりにくい。そうなると供給予備力が無くなってから、競争状態が生じ新規建設の可能性が出てくる。それでは遅すぎる。原子力発電の建設には政治的や法的な枠組みによるサポートが必要。原子力推進のシンボルとして (環境保護主義者のグリーンに対抗して) 地球の "青" を掲げたらどうか。(BNFLアスキュー)
- ロシアは原子力発電電力量を2010年までに現在の1.6倍、2020年までに2.6倍にすることを目標としている。既存の第1世代原子炉の運転寿命を30年から40年に、第2世代原子炉を50年にする。産出される天然ガスは輸出にまわしその資金で環境保全に貢献する原子力発電を進める。(ボルショフ)
3.京都議定書の目標期限が目前に迫ってきて、エネルギー選択の議論はより現実的になる傾向
- 米国では電力需要の伸びが、今後20年間年率1.8%という低めの見積もりでも、全米の電力設備は現在の1.5倍になる。いかなる地球温暖化防止目標を掲げようとも、原子力発電を除いてそれを達成することは出来ない。(コルビン)
- ヨーロッパ議会では原子力の役割を重要視する決議をした。(ハウク)
- 人類は、エネルギー消費の約85%を化石燃料に依存している。21世紀において、持続的発展を可能にしつつ地球温暖化の防止をはかるためには、原子力は不可欠。環境主義者は原子力のリスクを過大に喧伝している、科学的根拠と事実に基づいた議論をすべき。(コンビ)
4.PBMR開発の進展
- 南アフリカの電力コストは、現在の大型原子力プラント(クバーグ)の運転によって非常に安いが、さらに競争力のある電源として、小型で建設期間が短く、需要に対応した発電が可能、低環境影響という特徴のあるPBMRを選択した。同炉の建設単価はkW当たり1,000米ドル、建設期間は24ヶ月と見込み、緊急退避ゾーンは400mと見込んでいる。現在環境影響評価作業と詳細フィージビリティ調査をすすめており、2002年中には承認される見込み。タービン、燃料加工など日本との協力を進める意向。(ニコルズ)
- Excelon 社はPBMR開発から撤退。これは新首脳陣の方針で、同社の役割は電気を作りこれを供給することであって、原子炉の開発ではないとされたことによる。しかし、PBMRの利点については従来どおり理解しており、技術検討は引続き進めていき、将来同炉を利用するオプションはある。(クリッチ) (ニコルズは Excelon 社撤退の影響に言及せず)
5.大都市圏と原子力施設立地地域の課題、より鮮明に
- 日本で初期に建設された原子力発電所のいくつかは完成後20年が経ち、地域社会は高齢化している。建設中の地域への経済効果は大きいが、地域からみるとそれは一過性のものになりがち。建設当時最先端技術として誘致された施設も次第に廃炉へと向っている。地域の現状をふまえて、増設、立地、運転、廃炉の全般をとらえた地域とのトータルな共存策が必要。(下平尾氏)
- 電力供給の問題を生産者、消費者の問題と矮小化して考えるべきではない。原子力発電所が自衛隊と同じように日陰者になっている。安全やエネルギーは何もしなくても誰かが何とかしてくれると思っている日本人の甘えが問題。(西川氏)
- 消費地の行政としては、節電など省エネルギーの働きかけをしている。米と同様に原子力発電の場合も生産の苦労などが伝えられれば、もっと身近に感じられ、大切に使う心が育つ。(岩木氏)
- 以前自治体のゴミ問題は出口がなかった。しかし、消費者が知らないでは済まされないと考え始めたときから、自分の問題としてとらえはじめ解決へと向った。原子力問題、特に、廃棄物問題はこのゴミ問題の応用編と考えるべきだ。(松田氏)
6.同時多発テロと原子力施設
- 昨年9月11日の同時多発テロ以降、NRCは原子力施設へのテロ対策について議会等へアドバイスするとともに、一部是正措置の命令も出している。民間航空機がミサイル化することは誰も予想しなかったことであり、実際そのような攻撃を防護することは極めて困難。原子力側のみでの対策でなく、ミサイル化を事前に防ぐなど民間における可能な措置も含め、総合的なセキュリティ対策を行うことが大切。(メリフィールド)
- 小さな飛行機で原子力施設を攻撃してもテロの効果はあがらない。大型の民間航空機を貿易センタービルの100分の1の原子炉建屋に突入させることはほとんど不可能。(コンビ)
7.市民の意見交換の集い、「どうコミュニケートしたら良いのか」をめぐって活発に
- MOX問題などの経緯をみていると、原子力関係者は優等生過ぎてドロドロしたところに立ち入ろうとしない。そのようなところにもきちんと目をむけて踏み込んだ議論をすべきだ。(参加者)
- 風評被害に関してはマスコミにも大きな責任がある。しかし、原子力の専門家は、専門家として自ら発言するなど、もっと専門家としての社会への義務を全うしなければいけない。(中村氏)
- エネルギーが枯渇したらどうなるかということを、真剣に考える機会をあたえるために「停電訓練」ぐらいやったらどうか。(参加者)
- 米国原子力学会では、教師に原子力の基礎知識等を教えるという活動を広く行っている。教師がそれを生徒に教えれば、その数は何十倍にもなるし、感受性の鋭い若いうちに、環境やエネルギー問題を考えるのは良いことだ。(マーカス氏)
- 一般市民の関心事はもっぱら「温暖化」だ。もっと感性に訴えるような熱意をもって、シンプルに直接的にコミュニケートすべきだ。(参加者,BNFL)
- 温暖化防止というとすぐ原子力が出てくる。しかし一般市民は原子力が本当に環境に優しいのか疑問に思っている。消費者に対して「コミュニケーション」といいつつ、「情報を伝える」という一方通行のことしか考えていない気がする。「消費者の声を聞く」ということにもっと重点を置いて欲しい。(参加者)
- マスコミはそれなりに力があるから、あるとき「悪者」になってしまう。原子力関係者はもっとマスコミを上手に利用すれば良いのではないか。(参加者)
- 原子力産業界の人も、内々の世界にとじこもらず、勇気をもって外に向って、マスコミやエネルギーや環境の関係者や一般市民の中に飛び込んでいって話すべきである。(参加者)
以 上
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