ロシア国際フォーラム「ATOMEXPO−2012」参加訪ロ団派遣報告
当協会は、今年で第4回となる露国営原子力企業ロスアトム主催の国際フォーラムATOMEXPO-2012に参加団(団長:服部理事長)を派遣しました。6月4日〜6日、モスクワ市の中心部近くのゴスチニー・ドボルで開催された同フォーラムの主要テーマは「世界の原子力−福島から1年」で、53カ国、4000人以上の参加者、200名以上の発表から成る大きな国際会議・展示会でした。
会議構成は、初日のWANO特別イベント「福島後の原子力産業−運転事業者の展望」、2日目のプレナリーセッションのほか、人材育成、再生エネルギー、原子力産業発展のための統合アプローチ、バックエンド、放射線技術、投資・資金調達、原子力安全・損害賠償に関する法制、北極航路、福島事故後のPA、エネルギー蓄電池の利用等、多様なテーマで分科会が開催されました。
展示会場は昨年の2倍となり、ロシア国内外の有力な原子力機関・企業が出展していました。(ロスアトム、ロスエネルゴアトム、アトムエネルゴマシュ、カザトムプロム(カザフスタン)、CEA(仏)、EDF(仏)、シーメンス(独)、CNNC(中国)、ロールスロイス(英)等。=写真)
中国核工業集団公司(CNNC) |
カザフスタン カザトムプロム |
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仏 EDF |
露 ロスエネルゴアトム |
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露 ロスアトム |
露 アトムエネルゴアトム シビアアクシデント対策 受動的安全システム 模型 |
分科会や展示会では、ロスアトムおよびその傘下企業のポテンシャルの世界市場にむけたアピール力が強く感じられました。この開催の期間中、ロスアトムは海外の政府・原子力関係機関との間で複数の合意書を交わしています。(例:ナイジェリア、バングラデシュ、モンゴル、南アフリカ原子力公社(NECSA)等)
会期中、服部団長はロスアトムのキリエンコ総裁と懇談しました。服部団長は、日本では原子力への逆風が当面続くものの日露原子力協定の発効により日露の協力が新たな時代へ突入したと述べ、双方が原子力先進国として新規導入国に対して競争と協調のバランスをとりながら取り組んでいきたいと述べました。これに対し、キリエンコ総裁は、協定発効を契機として協力分野の具体化とその加速化をはかりたいと答えました。また、キリエンコ総裁は福島事故対応への協力支援として、福島第一原発における高線量下でも稼動可能なロシア製ロボット・カメラを紹介しました(=写真)。
さらに、日本の原子力政策の行方に着目しているとして、停止中の原子炉の運転再開の行方を問うとともに、困難な時期は支えあい、原子力が回復した後に競争していきたい、と述べました。
会議では、WANO主催の特別イベント「福島後の原子力産業−運転事業者の展望」がアスモロフWANO総裁兼ロスエネルゴアトム第一副社長の進行により開催されました。日本からは服部理事長、東電・川村福島第二原発ユニット所長が発表しました。服部理事長は福島第一原発事故の教訓と題し、続き川村ユニット所長は、福島第二原発の教訓と福島第一原発の現状と題して発表を行いました。事故から教訓を導き出す、両名の的確で深い洞察力に会場から大きな賞賛が送られました(=写真)。
それと並行して実施された人材育成に関するセッション(議長:アルティシュク中央先進訓練研究所副学長)では、東京工業大学の斎藤教授(原子力安全と核物質防護にむけたグローバルな人材開発プログラム)と、国際原子力開発の水野氏(ベトナム ニントゥアン第二原発にむけた人材育成プログラム、日本の電力業界の見方から)が発表をしました。
プレナリーセッションにおいても発表した服部団長は、日本の国民に原子力が再び受け入れられるまでには長く険しい道が続くが、それを克服しない限り原子力に将来はない、とする一方、世界有数の原子力技術先進国として日本に期待する声も依然として大きく、日本は福島の教訓を経て、世界の原子力安全に貢献する責任があると述べました。さらに、原子力への信頼を回復するために、国民に対して透明性と信頼性の高い情報の提供とコミュニケーションを実施することが何よりも重要であると述べました。同セッションでは、ロシア(ロクシン・ロスアトム第一副総裁)、フランス(AREVA)、カナダ(ウラニウム・ワン)、南アフリカ(エネルギー大臣)、英国(ロールスロイスニュークリア)といった原子力利用国のほか、福島事故後も原子力開発計画を継続する意向をもつ新規導入国として、トルコ(エネルギー天然資源省次官)、ベラルーシ(エネルギー大臣)らが出席しました。ロスアトムのロクシン第一副総裁は、ロシアでは、福島事故後に原子力賛成が50%近くまで落ち込んだものの、2012年には70%近くまで回復、原発輸出契約数も21基と昨年初めの12基から大きく増大していることを紹介しました。
参加団は、この訪ロの機会をとらえ、クルチャトフ研究所(モスクワ市)、中央先進訓練研究所(オブニンスク市)、フローピン研究所記念館(サンクトペテルブルグ市)、レニングラード原発と重金属除染・再生利用施設(ソスノボイ・ボール市)を訪問しました。
クルチャトフ研究所
ロシアにおける中小型炉開発(IAEAの革新的原子炉と燃料サイクルに関する国際プロジェクト−INPROの枠内で開発)に関するプレゼンを受け、意見交換を行いました。主にKLT-40C(70MWe、3年間燃料取替不要、定期検査は10-12年毎)、と新型RTM-200(150MWt、8年間燃料取替不要、定期検査は20年毎)を例に紹介がありました。
中小型炉は1)コスト、2)ポテンシャル・カスタマー、3)国際社会の理解、が課題であるが、福島事故後、中小型炉への開発の影響はないか、との日本側の問いに対し、事故はロシアの中小型炉の開発が正しかったことを裏付けることになったとし、中小型炉は大型炉と根本的に異なる安全性を達成できること、例えば、調査の結果、カムチャッカのビリュチンスク市に係留される浮揚型原発は、マグニチュート9、入江での津波が30mに達しても問題がなく、コストの問題は、量産化することで解決できる、と述べました。一連の議論を受け、日本側からは立地点の問題やコストの観点から日本では大型炉を推進してきたが、福島第一原発事故後は、安全性、PA等の点から中小型炉を志向する意見もある中で、両者が相互補完・共存しうるものとなろう、と述べました。
| 会議風景(於 クルチャトフ研究所 会議室) |
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ベリホフ・クルチャトフ研究所総裁 (向かって右から2番目)も出席。 |
クズネツォフ 同研究所内 物理技術研究所副所長 によるロシア側メンバー紹介(中央立) |
中央先進訓練研究所 (CICE&T)
同研究所は、ロシア原子力産業界に所属する管理者、従業員等の教育・訓練の場です。ロスアトム、アトムエネルゴプロム傘下にありますが、2011年、IAEAとの原子力新興国の人材育成協力覚書を締結するなど、海外原子力関係機関との交流も盛んで、海外から多数の研修生を受け入れています。同研究所で講義を受け、実地訓練はロシアの各原発のシミュレーターや、設備製造工場等で行うことになっています。受講対象者の所属機関、希望する講義内容別に多様なコースがアレンジされており、極めてシステム化された教育訓練を実施しています。実地訓練の例としてバラコボNPP(VVER-1000)における実績が紹介され、1999-2005年、クダンクラムNPP(印)、ブシェールNPP(イラン)、田湾NPP(中国)から900名の研修生を受け入れ、On-the-job training (OJT)で320時間のコース受講の事例が紹介されました。長期滞在を快適にする衣食住環境も完備されています。
向かって左:アルティシュク副学長 右:セレズネフ学長 |
ロシア側からのプレゼンを聴講 |
フローピン記念ラジウム研究所記念館
1922年に創立され、今年で90周年を迎えるロシア最古の原子力研究所。研究所の当初の目的はラジウム生成技術の開発。当時、ロシア製のラジウム生成技術は世界的に認められており、例えば、マリー・キュリーやガイガーも当研究所を高く評価し、マリー・キュリーは当館の生成ラジウムの質に関する認定証を送っています(=写真)。1945年にソ連が原発開発を決定した際、当研究所はプルトニウム生成に従事し、ロシアの使用済燃料の第一再処理工場(マヤク)プロジェクトにも参加しています。1986年のチェルノブイリ事故では、多くの研究者を派遣し、事故収束に貢献したとのこと。欧州初のサイクロトロンを開発したのもこの研究所です。現在は、核物理、放射化学の分野の研究、アイソトープ生成等の事業活動を行い、ソ連崩壊後、若い研究者の不足に悩んだが、昨今の原子力産業の復興により若い研究者数が増えているといいます。
認定証:キュリー夫人署名○部分 |
シャシュコフ記念館長による案内 |
レニングラード原発(LNPP)
厳重な入構管理を受けた後、所長代行兼主任技師から同原発の歴史と現状、特に安全性向上、改良策について説明を受けました。
第1サイトにはRBMK-1000(電気出力1000MWe)が4基あり、1号機は1973年に運転開始されています。(2、3、4号機は各1975、1979、1981年に運転開始)
設計年間電力量280億kWh、設計設備利用率79.9%、運転開始年からの累計発電電力量は8500億kWh。ロシア北西地域の送電系統ではコラ原発と連結し、同地域の全発電設備容量1970万kWの内、29%を両原発が占めています。
当初の設計寿命は30年ですが、安全性向上やコンポーネントのライフマネジメントにより寿命延長をはかり15年の運転延長ライセンスを取得しています。
TMI事故、チェルノブイリ事故の両事故を受けて安全文化が生まれ、深い安全性解析により、安全性向上の5つの主要分野(1)原子炉安全、2)エンジニアリング安全、3)放射線安全、4)火災安全、5)核物質防護)で対策を講じたとのことです。例えば、EPSS(非常用電源供給系)、ECCS(非常用炉心冷却系)、海抜6m以上の位置に新たな海水ポンプステーションの増設や、制御棒構造を改良(事故時の挿入速度5〜6倍、制御棒が2秒で炉心挿入)、換気設計を完全循環方式に変更し、除染係数を2桁以上向上させた事例等が紹介されました。また、自動放射線モニタリングシステムの導入により、オンラインでデータが原発、地元自治体、ペテルブルグ危機センター、ロスエネルゴアトムの危機管理センター、隣国のフィンランドに伝達される仕組みもあります。なお、現在、福島第一原発事故を受け、全電源喪失対策を1年半かけて実施している最中で現在その最終段階にあるそうです。毎週1回、ロスエネルゴアトム主催により各発電所の主任技師が情報交換をするTV会議が開催されているとのこと。
説明の後、1号機(運転中)の中央制御室、原子炉ホールを視察しました。
また、レニングラード原発第2(AES-2006)建設現場も視察しました。VVER-1200(AES-2006、電気出力1170MW)の4基を建設予定で、現在、1号機、2号機建屋が建設中(1号機の燃料装荷は2014年12月、初臨界は2015年2月を予定。2号機は2016年の運転開始予定)。原子炉建屋、新燃料保管設備、マグニチュード9の地震でも損傷を受けない耐震設計で、二重の格納容器構造。シビアアクシデント対策にコリウム・キャッチャーを採用しています。主要通路は地下に設置し、地震時も従業員の安全を確保するとのこと。建設に9ヶ月の遅延が生じているが、主な要因は設計プログラムの互換性の問題や福島事故を受けた設計変更等であり、冷却塔建設のための岩盤補強対策で7ヶ月の遅れが生じたとのことでした。
ECOMET-S(重金属除染・再生利用処理施設)
レニングラード原発の産業サイト内にある同施設は、原発や核燃料サイクル施設、他産業施設から出る、低レベル固体(金属等)放射性廃棄物(〜0.3mSv/h)処理設備(処理能力6000トン/年)です。2002年操業開始。2005年本格稼動。アルミニウム、チタニウム等の非鉄金属を含む各種の金属処理を実施しています。放射線環境はロシアの規定許容範囲内で、放射線安全確保は原発と同等。20箇所に線量計を配備。工場の目標は廃棄物の最大減容化であり、原発の廃棄物の減容率は25-30倍とのこと。肉厚の金属廃棄物(例:蒸気発生器や再循環ポンプの蓋)もここで処理処分をするが、まず線量測定の上、ブラスト処理で表面汚染を落としてから冶金ショップで溶融炉に入れます。ほとんどは再利用が可能で、処理後の金属スクラップやインゴットは北欧等に輸出しているそうです。
お問い合わせは、国際部(03−6812−7109)まで
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