[JAIF] 原子力関連ニュース -2001年5月21日

3月18日、第3原子力発電所1号機の内外交流電源喪失事故についての調査報告摘要 (仮訳)
2001年4月12日 原子能委員会

1.前言

3月18日0時46分、楓港、恒春地区における季節性の塩霧害の影響により、超高圧345kV送電線にトラブルが発生し、これにより台湾電力第3原子力発電所の外部電源が喪失、更に所内の安全交流電源系統が故障、予備のディーゼル発電機による給電も不能という状況のもとで、1号機の2系統の主電源母線が、同時に電源喪失となり、設備は台湾の原子力発電所緊急時計画における事故分類でレベル3A「緊急事故」の状態となった。現場の作業員が、すみやかに処理をおこなったため、放射能漏れ事故には至らず、02時54分に、第5ディーゼル発電機が、給電に成功後、事故は全て回復した。

今回の事故で、第3原子力発電所1号機の原子炉は、何ら影響を受けなかったが、2系統の安全系統が、同時に2時間8分にわたって機能を喪失したという状況は、20年以上におよぶ国内の原子力発電使用において、きわめて重視すべき非常事態である。原子能委員会は、事故発生後、ただちに各業務部門ごとに組織された共同調査チームにより、事故原因と影響についての調査を開始した。このほか、事故原因をさらに詳細に把握するため、原子能委員会の胡主任委員は、別途、清華大学の陳國誠教授に対し、10人のメンバーによる独立調査団を組織して、並行して事故原因を調査するよう依頼した。本報告摘要は、これら2件の調査結果による総合的な説明である。

2.事故の経過

3月18日に発生した、今回の第3原子力発電所1号機の安全交流電源喪失事故についての経過概要は以下のとおりである。

1.3月17日03時23分
第3原子力発電所1号機が、345kV外部電源の喪失により自動停止し、同機は停止のまま検査の状態にあった。その後345kV外部電源は回復したが、送電状態は、依然として不安定であった。

2.3月18日00時41分
第3原子力発電所で、再度345kV外部電線4本が喪失状態になり、母線Aが、自動的に17号ブレーカーをオープンにし、15号ブレーカーをクローズにして、161kV電源による受電に切り換えた。

3.3月18日00時43分
第3原子力発電所345kV送電系統の大鵬一路が回復して使用可能となった。この時、17号ブレーカーは、オープンの状態にあった。

4.3月18日00時45分
45分06秒、開閉室の作業員が3620ブレーカーの開閉作業をおこない、母線Aの電源を、161kVから手動で345kVに切り換える準備をおこなったが、この部分の手動切り換えは、まだ実行しなかった。

5.3月18日00時45分
45分07秒、1号機母線Aに接地トラブルが発生して、3510ブレーカーがあがり、09秒後には、さらに1670ブレーカーがあがったため、2系統の主電源は完全に外部電源を喪失した。更に1号機の2台の予備ディーゼル発電機も給電ができず、1号機の2系統の主電源母線が同時に電源を喪失した状態になり、設備は緊急警備状態になった。

6.3月18日00時49分
作業員が、制御室の二酸化炭素消防システムが作動していることを発見し、制御室の80フィートの場所 (主電源母線が設置されている階) から煙が上がっていることを報告した。

7.3月18日00時51分
1670ブレーカーから161kV電源の送電を試みたが、1670ブレーカーはクローズできなかった。

8.3月18日00時56分
所内消防班が、通報を受けて現場に向かい消火作業をおこなったが、換気装置と照明設備が不足。一方で3510ブレーカーから、345kV電源の送電を試みたが、失敗に終わった。

9.3月18日00時57分
運転員が手動で、予備ディーゼル発電機Aを主電源母線Aに接続し、蒸気駆動補助給水システムの自動起動に成功した。予備ディーゼル発電機Aによる給電の40秒後、主電源母線Aの故障による信号の発生は、ストップした。

10.3月18日00時58分
運転員は、緊急用操作マニュアル570.20に基づいて、発電所内外の交流電源喪失状態における操作手順の実行を開始した。

11.3月18日01時06分
発電所職員は、予備ディーゼル発電機Bの回復を検討したが、現場には濃い煙が充満し、照明も不足していたため、作業員が入って操作を実行することができなかった。

12.3月18日01時41分
恒春消防隊に連絡し、照明設備と排煙器材の支援を要請した。

13.3月18日02時15分
発電所は、第5予備ディーゼル発電機を主電源母線Bに設置することを決定し、02時50分に設置作業を完了した。これに伴って制御室において手動による起動を実行したが、潤滑油の圧力が低かったため起動に失敗。しかし作業員は、起動失敗の原因は恒温ポンプへの電源喪失であり、装置の故障ではないと判断し、直ちに再度手動による起動を実行したところ、起動に成功した。

14.3月18日02時54分
第5予備ディーゼル発電機が、主電源B母線への給電に成功し、1号機の安全交流電源喪失状態は解除された。

15.3月18日12時50分
予備ディーゼル発電機Bの自動起動失敗の原因を究明するため、現場作業員は、12時50分に再度当該ディーゼル発電機の起動を試みたところ、結果は正常に機能した。

16.3月20日22時12分
現場作業員は、2系統の主電源母線を完全に隔離し、1号機の主電源母線Bは、2号機の161kV変圧器に変更するとともに、第5ディーゼル発電機の使用を停止して、1号機は外部交流電源の使用を回復した。
3.主電源母線の調査

第3発電所交流電力系統の配置図は、(図1) のとおりである。1号機の事故発生の起点は、主電源母線である。基本的に、2系統の主電源母線の設計は、安全システムが具備すべき多重設置の要求条件を満たしており、いずれか一方が故障した場合には、他の一方が給電作業を実行することができ、安全が損なわれないようになっている。原子力の安全性という観点から、今回の事故について、最も検討を要する問題は、なぜ2系統の主電源母線が同時に外部の交流電源を喪失し、しかも当時161kVの外部電源には、異常な現象がなかったのかという点である。事故発生後の主電源母線Aの現場調査によれば、第17号と第15号のブレーカーには、大きな破損が生じている (写真)。また、事故発生前のブレーカーの受電状況から見ると (図2)、00:41〜00:45の間の161kV電源は正常な状態であることから、15号ブレーカーは、最初の故障箇所ではない。00:45:06秒の時点で、3620ブレーカーをクローズし、その直後00:45:07秒の時点で、3510ブレーカがあがっており、このことから、最初の故障箇所は、第17号のブレーカーであると考えられる。

また、主電源母線Aの現場から発見されたこととして、第17号ブレーカーの主電源母線口は、損害を受けておらず、電源側の接点の状況から見ると、第17号ブレーカー毀損の原因は、過電圧破壊であって過電流破壊ではなく、この結果により第17号ブレーカーは事故発生前、オープンの状態であったのであり、これは3620ブレーカークローズ後の事故発生タイミングからみても、合理的である。

以上の判断に基づいて、3月18日の事故発生過程として可能性があるのは、主電源母線A上であり、345kVを受電する17号ブレーカーに接地故障が発生し、アークが燃焼し、これが15号ブレーカーに波及したことから、第15号ブレーカーにも電源側の接地故障が発生したものである。ブレーカーの故障は、主電源母線Aの接地に至り、主電源母線Aは受電不能となった。このほかにも、ブレーカー3510と1670があがって、外部の161kVと345kVの交流電源が、共に主電源母線Bに送電できなくなった。

第17号ブレーカーが、オープンの状態で発生した事故であり、現場状況が、過電圧破壊に類似の状況にあることから、17号ブレーカーの絶縁の劣化が事故の原因である可能性がある。また、17号ブレーカーの毀損状態からみると、受電口B相の毀損が最も重大であり、このことから、17号ブレーカー故障の主たる原因として可能性があるのは、B相接点は、事故発生前から劣化しており、3月18日00:41における345kV中断の際には、当時の電圧超過が局部的なアーク現象を招き、この局部的なアークが接点付近の空気をイオン化し、開閉室内部が密閉空間であることから、空気イオン化の現象がすぐには消失しなかったという可能性がある。00:45に至って、3620ブレーカーをクローズして、345kVの送電停止をした際の電圧の過渡的状態が、当該ブレーカーを毀損したものである。このほか、現場は、アークにより大きく毀損されており、実証の収集が困難であることから、17号ブレーカーに機械的な故障があった可能性も、完全に排除することはできない。

発電所外部の345kV送電系統の不安定 (図3) の原因は、17号ブレーカーの絶縁劣化の可能性がある。分析によれば、345kVラインに過渡的状態が発生する都度、17号ブレーカーの受電口には、電圧超過の現象が生じ、電圧の範囲は、おおよそ7kV〜9kVの間である。こうした電圧超過時間の累積が、絶縁劣化の原因となった可能性がある。

17号ブレーカー絶縁劣化のもう一つの原因として可能性があるのは、ラインの共振 (別名:鉄共振、Ferro Resonance)である。原子能委員会の招請により調査に参加した専門家の発見では、3月17日20:38に発生した、345kV龍崎山ラインのダウン (図4) は、当時、第3原子力発電所における当該ラインに対応するブレーカー (3520と3530) はオープンしておらず、龍崎山ラインは、非常に長いため、このラインの等価キャパシタンス、等価インダクタンス、第3原子力発電所の変圧器起動リアクタンス等の相互作用により、ライン共振の現象が発生した。3月17日20:38における龍崎山ラインのダウン後、当時は、第3原子力発電所の2基の設備がともに停止状態にあったため、345kV系統は、電源を失った。しかしながら、第3原子力発電所開閉室の過渡的状態のレコーダーによれば、龍崎山ラインのダウン後、345kVラインには、約2秒間の電圧リーディング記録があり、当該電圧は記録器の範囲を超えるものであった。

ラインの共振を生じるもう一つの重要な要因は、第3原子力発電所原子炉の冷却水ポンプ (RCP) のフライホイール回転である。3月17日の20:38に345kV外部電線を喪失した際、第3原子力発電所1号機にある3台の原子炉冷却水ポンプが、フライホイールの慣性により回転し、この時に、電動機が発電機の機能に転じて、13.8kV系統に電力を逆送し、変圧器を起動させて345kVラインの電圧を上昇させる現象を引き起こし、これにより、17号ブレーカーの絶縁に対して、高電圧の衝撃を与え、17号ブレーカーの絶縁を損傷したものである。

今回の主電源母線Aの故障により、主電源母線Bは345kV外部電力と、161kV外部電力を受電できなくなった。このため、第3原子力発電所のこの部分の設計および各電気系統間の電気保護の調整、分析については、あらためて検証する必要がある。このほか、主電源母線Aに事故が発生した状況にあって、予備ディーゼル発電機または3510号ブレーカーを当該主電源母線に合併したことで、主電源母線の損害はさらに深刻なものとなり、また、予備ディーゼル発電機にも損傷が生じた可能性があることから、この部分の操作についても検討しなければならない。

4.ディーゼル発電機の故障についての調査

第3原子力発電所の予備ディーゼル発電機は、アメリカDELAVAL社の製品を採用しており、出力は約7000kWである。予備ディーゼル発電機の信頼度を確保するために、第3原子力発電所は、定期的に燃料を交換するオーバーホール期間に合わせて、ディーゼル発電機各部の部品について、メーカーの説明書、設備の実際の運転状況にしたがって、必要なメンテナンス作業を実施している。これらの作業は、全てマニュアルの規定にしたがって実行され、その記録は保存されており、テスト結果は発電所の品質管理担当者のチェックを受けている。今回の第3原子力発電所1号機事故の発生後、原子能委員会の調査員は、第3原子力発電所を訪れ、再度1号機のディーゼル発電機A,Bについて、最近の定期検査実施記録をチェックし、関連記録がすべて基準に合致しているかどうかを検査した。

ディーゼル発電機は重要な安全設備であり、原子力発電所の運転規範は、全て、ディーゼル発電機の各種テストについて明確に規定している。最近3年間における、第3原子力発電所1、2号機にある計4台の予備ディーゼル発電機についてのテスト記録の検査により、98年10月19日に、1号機予備ディーゼル発電機Bが第3蒸気シリンダ環油管のオイル漏れにより起動テストに失敗し、2000年4月22日に1号機A発電機が、燃料オイル管のオイル漏れにより起動テストに失敗したほかは、全てテストは成功している。

3月18日の事故発生時に、B系統の4.16kV主電源母線が外部電力による供給を喪失した際、B系統のディーゼル発電機は、本来、自動起動するよう設計されていたが、未励磁のため電圧を確認することができず (図5) 、これにより予備ディーゼル発電機が起動しても給電はできなかった。事故発生後、3月18日昼に発電所が、B系統予備ディーゼル発電機が原状を維持している状況のもとで改めて起動を行ない、結果的に起動は成功し、励磁も正常に作動した。

今回の事件後、発電所は、ディーゼル発電機の励磁制御回路にしたがって、R1、K1等の設備をブロック別に隔離し、複数回のテストを実施した。ディーゼル発電機の安全インタロゲーションコードのA系統、B系統をそれぞれ隔離して行なったテストの結果、A系統を単独で実行した場合、電磁弁141−2Aに軽微な空気漏れの現象があり、また、B系統を単独で実行した場合には電磁弁141−2Bは作動不能であった (図6)。しかし、本来同時に発生可能なA系統、B系統分岐インタロゲーションコードのディーゼル発電機安全インタロゲーションコードは、元の設計にしたがって正常にシミュレーションしており、同時にA系統、B系統分岐インタロゲーションコードが発生し、結果として励磁は正常に作動した (この部分については計2回のテストを実施した)。

現行規定に従って、電磁弁141−2Aと141−2Bの交換周期は、オーバーホール3回毎 (すなわち約5年) に交換する必要がある。調査の結果、当該2つの電磁弁は、2000年5月2日に定期交換済みであり、機能テストの結果も正常であった。今回の事故では、B系統の予備ディーゼル発電機の励磁不能現象は、励磁回路上の気動電磁弁141−2Aと141−2Bの作動が不順によるものであるが、R1の6つの接点の接触不良に起因する可能性も完全に排除することはできない。

5.原子炉の安全と人員の作業

原子炉の安全については、事故発生時、原子炉はすでに停止後21時間以上が経過しており、炉心の余熱もかなり低くなっていた。さらに蒸気駆動式補助給水ポンプが正常に機能して、蒸気発生器の逃し弁の操作に対応していたため、原子炉は事故発生過程において、すべてが適切にコントロールされた状況のもとで、徐々に温度と圧力が低下し (図7)、また、事故後、炉心冷却水の水位変化の観察から、炉心冷却ポンプからの漏水現象は生じていなかったことが認められた。

人員の作業については、第3原子力発電所の運転員は、複数の安全系統が停止するという状況のもとで、手際良く安全設備を起動させ、原子炉を安全な方向に導き、2時間8分後には、劣悪な操作環境のもとで、第5ディーゼル発電機の起動に成功し、非常事態を収拾しており、事故の解決、現場での操作は適切であったといえる。このほか、今回の事故発生過程では、発電所の消防補助設備、警報システム、蒸気駆動式補助給水ポンプの起動タイミング等について、改善を再検討する余地がある。

6.緊急時対策についての調査

台湾電力公司緊急時対策執行委員会緊急時計画課は、「台湾電力公司原子力発電所緊急時計画規定」にしたがって、規定2.2に基づく緊急時対応を執行した。規定では台湾の原子力発電所緊急時計画で規定されているレベル2の事故については、緊急時対策執行委員会が、ただちに発電所の現況を原子能委員会に通報し、関連事故の類別については、緊急時計画執行委員会事故評価チームが、発電所から送られてきた情報に基づいて、評価、確認後、緊急指揮センター設置後1時間以内に、電話で原子能委員会に通報するというものである。

原子能委員会緊急時対策室は、3月18日午前2時19分に、台湾電力公司緊急計画執行委員会から「外部電源および全ての内部交流電源の喪失」により第3原子力発電所1号機が、原子力発電所緊急時計画のレベル2A「緊急警備」事故状況にあるという連絡を受け、直ちにこれを連絡して人員を召集した。召集された人員は、新竹、埔心、中瀝、基隆等から原子能委員会に集まり、1時間以内に会議を開催して、事故の状況を検討し、通報をうけてから2時間以内には17名の人員が動員された。台湾電力緊急時対策執行委員会より事故解除の連絡を受けてからも、設備の安全が確認されるまで任務を解除せず、監視を続行するとともに、さらに監視員を増員して第3原子力発電所へ送り、設備の状況と事故の原因を把握し、また、関係者を召集して専門会議を開催して検討を行ない、事故情報を公開している。

緊急事故の通報手順については、原子能委員会は2000年7月6日に、台湾電力公司および各原子力発電所等の関係者を召集して会議を開催し、台湾電力緊急時対策執行委員会および各原子力発電所における緊急事故の通報と動員作業の手順について検討をおこなうとともに、緊急時対応要員の通報訓練を強化して、通報作業が順調かつ確実におこうよう徹底を図った。今回の事故についての通報作業では、以下の2点に不備があることが判明した。

  1. すみやかな通報がおこなわれなかった。
    現行規定に基づいて、事故発生後、第3原子力発電所は、ただちに台湾電力緊急時対策執行委員会にこれを連絡し、緊急時対策執行委員会は、すみやかに現況を原子能委員会に通報した。今回の事故は、0時46分に発生し、緊急時対策執行委員会は1時33分に第3原子力発電所からの連絡を受けた後、2時19分になって、やっと原子能委員会に通報していた。

  2. 事故の類別が正確に通報されなかった。
    台湾の原子力発電所緊急時計画の事故分類判定規定によれば、外部電源および全ての内部交流電源の喪失は、レベル2「緊急警戒事故」でるが、これが15分以上持続すれば、レベル3「緊急事故」となる。しかしながら、2時19分に、原子能委員会が、緊急時対策執行委員会から受けた通報の事故類別は、レベル2「緊急警戒事故」であった。
7.発電所区域外への放射線漏れについての安全調査

第3原子力発電所放射線試験室では、発電所の境界に計5台の放射線計測器を設置している。この計測器は、発電所の緊急対応設備であるため、事故時間のリーディングデータは正常に記録され、管制室に送られる。5台の計測器の記録によれば、すべてのデータは、0.05〜0.07マイクロシーベルト/hの間にあり、バックグラウンド変動の範囲内にあることから、この時間中に、発電所からは放射性物質は、放出されていないことの確証が得られている。

また、原子能委員会放射線モニタリングセンターは、第3原子力発電所周辺の、恒春、大光、墾丁および後璧湖等の地点に、放射線観測ステーションを設置しており、24時間連続して、環境中の放射線量率の変化を観測している。3月17日〜18日までの観測データによれば、第3原子力発電所周辺環境の放射線量率は、事故発生前とは変化がなく、またすべてが、環境バックグラウンド放射線の変動範囲内であった (図8)。

今回の事故における気体と液体の排出による環境影響の状況を確実に把握するために、放射線モニタリングセンターは、第3原子力発電所に人員を派遣して、環境のサンプリング作業を実施した。サンプリングの範囲は、第3原子力発電所の風下 (南西方向) の大光國小、後璧湖および恒春の代表的な地点のほか、異なる方角にある墾丁、南湾、職員宿舎および第3原子力発電所出水口等も含まれている。サンプルの分析結果は、すべて環境バックグラウンドの変動範囲内にあり、今回の事故は環境への放射の影響はないことが判明した。

8.調査総括

陳教授が率いる独立調査団と原子能委員会の各業務部門共同チームは、それぞれの調査作業を完了した。ここに、両調査報告の結論について、摘要を以下のとおり説明する。

1.調査の結論
  1. 事故の主要原因
    第3原子力発電所1号機主電源母線Aの第17号ブレーカーの故障が、今回の事故の主要な原因である。また、ブレーカー故障の原因は、B相接点の絶縁が事故発生前から劣化していたことにある。事故調査による証拠から、第3原子力発電所の外部送電系統は不安定で、ブレーカーの絶縁に悪影響を与えていたことが明かになっている。このなかで、3月17日2時38分に、外部345kV龍崎山ラインがダウンし、ライン共振により生じた高圧現象が、17号ブレーカー絶縁の劣化を引き起こした重要な原因である。

  2. 事故の影響
    第3原子力発電所1号機の原子炉のパラメータ検査により、今回の事故発生過程においては、原子炉は安全で、放射性物質も排出されていないことが確認できた。かつ、原子能委員会放射線モニタリングセンターの第3原子力発電所周辺観測資料からも、事故前と事故後には顕著な変化が見られず、全て環境バックグラウンド放射線の変動範囲にあることが判明した。

  3. 通報の不備
    今回の事故発生は、18日0時46分であり、台湾電力公司緊急計画執行委員会は、1時33分に第3原子力発電所からの連絡を受けた後、2時19分になって、やっと原子能委員会に2A事故としてこれを通報しており、通報作業上不備があった。

  4. 規定等級違反
    原子能委員会制定による「原子力発電所規定違反処理作業要点」によれば、今回の事故は、二級規定の違反にあたり、台湾電力公司は、職務を遂行しなかった人員の行政責任を追及すべきである。
2.改正すべき対策
  1. 塩霧害問題
    第3原子力発電所外部送電線の塩霧害問題について、台湾電力公司はすみやかに解決をはかるべきである。

  2. 主電源および電器設備の問題
    (1)第3原子力発電所内主電源の給電対策について、すみやかに改善を検討し、独立性と多重性を確保すべきである。
    (2)各原子力発電所にあるブレーカーの検測作業の改善を検討すべきである。
    (3)第3原子力発電所内における各電気系統の保護設計の妥当性について、改善を検討すべきである。


  3. 緊急救援設備および通報の問題
    (1)発電所内の消防補助設備 (例、排煙設備、照明等) の機能改善をすみやかに検討し、緊急時のニーズに対応するものとする。
    (2)事故状況における各原子力発電所による現状の通報、連絡を強化すべきである。
    (3)台湾電力公司は、事故状況における情報の掌握と通報の改善を検討すべきである。
以 上

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