[JAIF] 原子力関連ニュース -2001年8月24日

日本原子力産業会議は8月10日、原子力委員会、内閣府、文部科学省、経済産業省、外務省に対して2002年度の原子力関係政府予算編成と施策に対する以下の要望書の提出を行いました。

平成14年度原子力関係政府予算編成・施策に対する要望

平成13年8月10日
(社)日本原子力産業会議
最近の原子力をめぐる情勢

昨今の原子力を取り巻く情勢をみると、一連の事故・不祥事による原子力界への社会の不信感も、当事者である民間事業者および行政・規制当局の対応と安全確保・安心感醸成への努力によって、未だ厳しいながらもようやく緩和の兆しが見えてきている。すなわち高速増殖原型炉「もんじゅ」改修の安全審査の開始、東海再処理施設の運転再開、さらには新規立地点として上関原子力発電所が政府の電源開発基本計画に組み入れられるなど、新たな原子力の進展と捉えることができよう。

また、世界的に電気事業の民営化・自由化が進み、貯蔵できない電気も他のエネルギーと同様に市場競争にさらされる商品となりつつある現在、既設原子力発電所が著しい性能向上とコスト削減努力によって事業者の重要な経営資源となり、かつ国の欠くべからざるベース電力供給力になってきていることは欧米に見るところである。わが国においても同様に自由化の進展に応じて、既設原子力発電所の安全・安定運転に加えて、技術的・制度的な新たな工夫や発想により、より高い性能とより低い発電コストが求められてくる。

米国の新たな国家エネルギー政策提言の背景や、人口13億人を超える中国の経済発展の行方などを考えると、わが国の中長期的なエネルギーの量的・経済的安定供給は、国の安全保障の重要な要素であることを改めて認識せざるを得ない。わが国が今日まで営々と築いてきた核燃料サイクルを含む原子力の持続的開発は、その中核をなすものであることは言うまでもないが、安全性や環境保全性への理解と合わせ、国民一人ひとりに原子力開発の意義と効果について、認識を深める努力・必要性を従来にも増して強く感じるところである。

原子力の役割と課題

わが国では、これから数年後にかけて六ヶ所再処理工場の試運転、MOX燃料加工工場計画の具体化、高レベル放射性廃棄物処分立地の前哨的諸活動など、核燃料サイクル関連の諸活動の初動の時期を迎えており、換言すれば、わが国が目指してきた総合的なウラン資源利用の完結に向けてのマイルストーンとなる重要な時期である。

これは、核不拡散・核物質防護と共に安全性・経済性等産業としての原子力利用について、国内はもちろん国際的にも十分な理解のもとに進められなければならない。また、国内については中央集権から地方分権化等の大きな潮流の変化のなかで、官民とくに原子力施設を立地している事業者による地域社会へのきめ細かい心配りと施策がなければ、既存の原子力関連施設の運営が極めて困難な状況に陥りかねないことは、プルサーマル実施をめぐる刈羽村住民投票に見られたとおりである。

21世紀の人類社会を展望すれば、エネルギー問題と環境問題は不可分の中長期的な重要な課題であることは論を待たない。この両者は、着手を遅らせれば機を逸する恐れのある喫緊の課題と認識すべきものであり、冷静に考えれば、この対策には原子力なしには答えはなく、京都議定書発効に伴う厳しい国際交渉など地球温暖化防止に係るさまざまな活動に見るように、わが国は率先して国際舞台での原子力認知に向けた理解促進活動を今後とも粘り強く展開すべきものである。

現在、堅調にベース電力供給力として稼働している原子力発電所も、数十年後には退役を余儀なくされる。その代替は、来るべきその時代のエネルギーと環境を予想すれば、やはり原子力で再び充当することが期待されるであろう。そのためには、その時代に受け入れられる新たな態様の原子炉技術が登場していることが必要であり、そのための研究・技術開発は今から行われるべきものである。しかし長期大型研究・技術開発投資が行われにくくなる市場経済のなかでは、わが国のオリジナリティーを基軸に国際協調を図りつつ進めることが必要であり、官民がそれぞれ適切な役割を果たすのは当然として、基本的には民間事業者の市場開拓意欲にかかっているものの、国による民間事業者の国内・国際的な企業活動を活発化し、それを支援する制度が重要である。

世界のなかでいささか遅れをとったかに見えるわが国の経済社会構造改革では、市場経済化のなかで民間に期待する方向が基本となるであろう。国・公的資金に依存した研究・技術開発資金や原子力施設立地支援資金などについても、総論としては、より一層の合理化・効率化が社会から求められており、特殊法人・公益法人の見直しの流れのなかで、我々も従来の官民の役割分担を再検討あるいは確認する必要がある。今日見るような約半世紀にわたる官民による原子力研究・技術開発の大きな成果を踏まえつつ、社会や経済の変化に対応した組織体制の変革にチャレンジする時期であると言える。

また、原子力利用の重要な一面である放射線利用について見れば、グローバル化する商品市場のなかで、食糧も例外でなく、さまざまなものがわが国に流入してくる。これら食品・食材の安全確保の面で近年、放射線利用に新たな進展が期待されてきつつある。経済発展に伴う国民の健康や福祉への関心の高まりから、途上国さらには先進諸国において放射線医学・医療、農・工業利用への関心が急速に増大している。従来のいきさつを踏まえつつ、これにとらわれないで技術や制度の進展を正当に客観的・理性的に評価して、放射線利用の分野の拡大に取り組むことが必要であり、このために従来にも増して、国民への理解活動を展開することが求められる。

基本的施策

以上のように、原子力の平和利用についてはエネルギー利用と放射線利用を車の両輪としてとらえ、原子力技術のさらなる展開に向けて、日本原子力産業会議は「国民のための原子力」(定款)を掲げる民間組織として、会員各位をはじめ幅広い分野の方々の力を結集して、重点を絞り効率的に事業を推進して行く。

原子力を進めるにあたっては、原子力技術と社会、原子力技術者・原子力事業経営者と一般の人々との間の不安感・不信感を可能な限り払拭して幅広い国民的支持を得ていくことが最も重要なことであるのは言うまでもなく、このために原子力関係者一人ひとりが高い倫理意識をもち、その基盤の上に原子力安全文化を築いて行かなければならない。

以上のような原子力をめぐる情勢、原子力の果たす役割、および民間原子力関係者が進める基本方向を踏まえ、原子力委員会および政府におかれては、平成14年度の予算編成において以下の点に十分留意の上、原子力分野において中長期的な展望のもとに、必要な予算措置および政策展開を講じていくよう、ここに要望するものである。






(行政改革に伴う原子力開発体制の充実)
  • 原子力委員会による原子力行政全般にわたる総点検と課題の摘出・改善
  • 原子力委員会、原子力安全委員会による積極的な国民との対話
  • 内閣府および関係省庁の施策の積極的推進と連携・協力の強化
  • 財政的基盤の確保と配分の最適化
  • 研究・技術開発予算の適正な執行と透明性向上
  • 研究・技術開発の適時・適正な評価体制の構築と評価結果の公開・反映
(長期的エネルギー安定供給に資する原子力開発と地球環境対策の推進)
  • 政策や方針に沿った原子力発電増設
  • 立地地域住民との心の通じた電源立地計画ならびに既設原子力施設地域対応の工夫
  • 軽水炉の長期利用に対応した安全性・経済性向上の技術開発の推進
  • 地球環境保全の観点からの海外諸国、国際機関とも連携した原子力開発の必要性についての理解活動の展開
  • 中小型および多目的利用を含む将来型炉のための研究・技術開発の推進
  • 「京都議定書」実施のための「クリーン開発メカニズム (CDM)」「共同実施 (JI)」への原子力取り入れに向けた粘り強い国際的な取り組み
(国民の信頼確保・知識普及に向けた取り組み)
  • 原子力界の一層の透明性向上のための原子力開発に関する情報公開、国民との対話、原子力広報・広聴対策の促進と、その際の効果的な情報提供システムの構築と分かりやすい情報提供媒体の形成
  • 総合学習時間の活用、展示体験型教育炉の設置構想など、教育におけるエネルギー、原子力に関する学習機会とそのための教材等の充実
(安全確保と防災対策の充実強化)
  • 自己責任に基づく民間事業者の自主的安全対策等を基本とした原子力施設等への効率的・効果的な安全規制
  • 核原料・核燃料等の盗取、各種原子力活動に対する破壊活動等に対する効果ある予防措置
  • 安全対策の高度化とリスクへの理解のため、安全目標設定を含めた各分野における安全研究の着実な推進
  • 緊急時支援・通報体制の充実・強化と訓練の効果ある実施と緊急時施設・資機材の共有等合理的な整備
(核燃料サイクルの確立に向けた取り組み)
  • 民間事業者に対する国民理解に向けた国の支援の充実
  • プルサーマル計画実施に対する国民の理解促進と MOX 燃料加工技術研究開発の促進
  • 使用済み燃料の中間貯蔵対策の推進
  • 東海再処理施設を効果的に活用した技術開発およびその民間への成果提供と円滑な技術移転
  • 「もんじゅ」運転再開に向けた地元の理解促進と国際的研究も含めた高速増殖炉燃料サイクル技術開発の促進
(バックエンド対策の積極的推進)
  • 高レベル放射性廃棄物処分のための安全規制・評価、信頼性向上に向けた研究開発の推進、ならびに立地選定に向けての国民の理解促進
  • 放射性廃棄物の分離・変換技術などの研究開発の推進
  • ラジオアイソトープ (RI) および研究等からの放射性廃棄物の処分地選定を含む適切な処分制度の確立
  • 再利用を重視した原子炉解体に伴う放射性廃棄物のクリアランス・レベルなど、合理的・効率的な再利用基準、技術、制度ならびに処分基準、処分技術の確立
(地域共生を見据えた立地促進策への取り組み)
  • 地域の自立発展を基本に、これに効果的に寄与する立地促進策の展開
  • 各種交付金制度の合理的見直しと重点的な拡充・弾力化
  • 第四紀層立地などに対する立地拡大技術の研究開発推進
(放射線利用の拡大などに向けた取り組み)
  • 食品の殺菌・品質保持、医療、素材開発、有害物質除去など、食品安全に対する社会のニーズに応えた放射線利用の拡大、知識普及への取り組み
  • 合理的な放射線基準の確立を目指した低線量放射線の人体影響に関する研究の推進
  • 産業、医療等における放射線利用の拡大に対応した放射線技術人材の育成
(原子力科学技術の多様な展開と適切な評価)
  • 国際熱核融合実験炉 (ITER) の工学設計活動以降の日欧ロ三極政府間協議の推進、国内施設の整備など核融合研究開発の充実
  • 水素製造等を目指した高温ガス炉など、革新的原子炉技術の研究推進
  • 加速器の建設促進、利用分野の拡大
  • 光量子科学、放射光科学など、先端的研究開発の推進
(長期的観点からの人材育成への取り組み)
  • 大学研究との有機的連携をも考慮した若手研究・技術者に魅力ある研究分野の創出・研究技術開発体制の構築
  • 研究用原子炉の利用環境整備
(国際協力の推進と核不拡散体制強化に向けた取り組み)
  • わが国の核燃料サイクル政策、核物質等の海上輸送に対する国際理解醸成に向けた取り組み
  • 「アジア原子力協力フォーラム」等を核としたネットワークの整備、将来構想の検討など、アジア地域協力の充実
  • 近隣アジア地域の原子力発電計画および放射線利用への支援促進
  • 核不拡散さらには核廃絶に向けた積極的貢献
  • 民間機関との協力による国内保障措置体制の整備・促進
  • 兵器級余剰プルトニウムの国際的な管理・処分への協力
  • 原子力関連機器の輸出、技術交流など、市場拡大に向けた積極的な政府支援と必要な政府間協議の推進、および輸出環境整備の一環としての国内基準・指針類の国際基準との整合性
以 上

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