[原子力産業新聞] 2001年10月18日 第2108号 <1面>

[原子力発電] 熱出力一定運転へ第一歩

年間利用率2%向上に寄与

総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会の原子炉安全小委員会 (委員長・斑目春樹東大院教授) は16日、第2回会合を開き、同小委原子炉出力一定運転ワーキンググループ (WG) が検討を重ねてきた「定格熱出力一定運転」について審議を実施。「わが国の原子力発電所については、現在設置されている設備や機器を変更することなく定格熱出力一定運転を安全に実施することが可能」とする、同 WG 報告書を了承した。報告書は今後、パブリックコメントを経て、そこで出された意見を反映した上で最終決定される。

冷却水に海水を用いるわが国原子力発電所では、冬期には海水温度が低くなるために、蒸気タービン入口と出口の圧力差が夏期に比べ大きくなり、同じ熱出力から大きな電気出力を得ることが可能となる。このため1年を通じて海水温度が最も低くなる冬期では、熱出力を一定に保っていても電気出力が自然に上昇し、電気出力が自然に定格値を超えてしまうことから、現在わが国の原子力発電所では、電気出力が上昇する冬期には、熱出力を落として定格電気出力に保つ運転 (定格電気出力一定運転) が行われている。

「定格熱出力一定運転」とは、原子炉熱出力を原子炉設置許可で認められた最大値である「定格熱出力」に保ったままで運転することで、定格電気出力一定運転と比較して、原子力発電所の年間設備利用率が全国平均で約2%程度向上するメリットがある。

報告書はモデルプラントとして、BWR には柏崎刈羽6、7号機を、また PWR には大飯3、4号機を設定し、これらユニットで定格熱出力一定運転が行われたという前提で、安全評価を実施。定格熱出力一定運転を行った際に、定格電気出力一定運転を実施している場合の最高値を超えるのは電気出力のみであることから、検討対象を蒸気タービンの出力および回転力に絞り、(1) 蒸気タービンの回転力の上昇にともない、「タービンミサイル現象 (蒸気タービンの車軸や円板が破損し、車室を破って飛び出す現象)」の影響を考慮する必要がないとする、これまでの評価結果を変更する必要がないか (2) 蒸気タービンの出力が上昇することで、設備の健全性に問題が生じないか (3) 電気出力が上昇することで、電気設備 (発電機、主変圧器) の健全性に問題が生じないか (4) 電気出力の上昇状態は、十分監視かつ制御可能か − について安全評価を実施した結果、「安全上の問題がない」ほか、代表炉以外のプラントの蒸気タービンおよび発電機も同じ思想に基づいて設計されているので、「わが国原子力発電所においては現在の設備を変更することなく、定格熱出力一定運転を安全に実施できる」と結論付けている。

報告書はまた、海外においては、原子炉熱出力はわが国と同様、原子炉安全規制上の運転制限値であるが、電気出力は運転制限値とはなっていないことに言及。実際海外の原子力発電所においては、定格熱出力一定運転が一般的に行われていることも明らかにしている。

小委の了承を受けた同報告書は今後、若干の修正の後にパブリックコメントが募集され、寄せられた意見をもとに再び修正が行われて最終決定される。なお、実際に原子力発電所で定格熱出力運転が行われるのは、原子力安全・保安院が省令の改正を実施した後に可能となる。


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