[JAIF] 提言 平成16年5月28日 |
高温ガス炉の実用化開発に関する国への提言 |
提 言
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産業界は、 提言 I ための検討会では、緊急に評価ができるようこれまでの検討結果を提供します。 提言 II おいては、具体的な実用化開発計画の作成に全面的に参加します。
以下に、「1.提言の背景」、「2.提言の具体的内容」を示します。
現在、アジアなどの開発途上国における人口の急増と生活レベルの向上から、エネルギーの大規模開発と地球環境の保全が急務となっている。
そこで、大規模、持続的、かつ環境負荷が極めて小さいクリーンなエネルギー供給源として「原子力」の開発の必要性が再認識され始めている。
中でも、多様なニーズへの適合性、需要への対応の柔軟性などの観点から、大型軽水炉に加えて「中小型炉」が着目され、現在、革新的な炉概念や燃料サイクルが多数提案されている。
これらの中で、「発電」に加え、自動車や家庭用定置型などの燃料電池向けに大量の消費が予想されている「水素」の大規模かつ高効率の生産性から、「高温ガス炉(HTGR)」(その発展型である「超高温ガス炉(VHTR)」を含む)への期待が特に高い。
この高温ガス炉については、1990年代後半以降、南ア、米国・露国、中国などが、小型モジュール高温ガス炉の実用化開発を推進している。米国は2002年に主要国参加型の「第4世代炉プログラム」を発足させ、革新炉の中で幾つかの有望な概念に絞り込み、それらを今後、並行的、国際的に開発推進しようとしている。その米国自身は昨年、国内のエネルギー展開戦略として、「発電と水素製造のできる次世代原子力プラント」(実質的に超高温ガス炉ベース)を最優先の開発対象に定め、2010年代前半にも実現すべくアイダホ実証炉建設計画をエネルギー法案の形で提案している。また仏国は既にガス炉開発路線を採っており、欧州連合(EU)も高温ガス炉の開発を進めている。
なお、これらの開発プロジェクトは、「国主導」で進められている。
このようにエネルギー開発競争において高い潜在的ポテンシャルを有する高温ガス炉と水素製造システムについて、我が国は、これまで、原研の高温工学試験研究炉(HTTR)の建設・運転を中心に同炉の基盤・システム研究を行い、炉技術、および枢要技術(被覆粒子燃料、高性能黒鉛材料、ヘリウムガスタービン、原子力水素製造など)について、産業の高度技術力を背景に、世界をリードしている。加えて、メーカーは独自に実用化に必要な技術開発を進め、その実用化への活用の道を求めて海外プロジェクトに部分的な技術提供の形で協力してきている。
しかしながら、この高温ガス炉の今後の本格的な「実用化」に向けて、我が国は、現状、「国」としてエネルギー基本計画や原子力長計で明確な位置付けや具体計画が示されておらず、産業界も開発の意志はあってもリスクが大きく取り組みには限界がある。このままでは、これまで築いてきた貴重な技術は、海外に流出し、日本の技術的優位性の維持は困難な状況になる。
この状況を打開するためには、高温ガス炉について、緊急に、エネルギーセキュリティ、地球環境、エネルギー産業戦略などの視点から、我が国における原子力政策への整合性を検討し、さらに他の炉システム・エネルギーとの比較優位性、我が国の技術優位性などの総合戦略的評価を実施する必要がある。その評価の結果、高温ガス炉の実用化開発を推進すべしとの結論が得られた場合には、国のエネルギー政策に明確に位置付け、実用化開発計画を進める必要がある。そして、経済性を含む技術実証がなされた後には、産業界が主体となって、エネルギーオプションの拡大、技術力拡充、事業拡大・発展などに向けて積極的に取り組むことにより、国際優位性を維持することができる。
来るべき水素エネルギー社会において、原子力による水素製造技術は、燃料電池などで化石燃料の代替機能を有するために、中近東から大半を輸入している石油を軽減させることができ、わが国のエネルギーセキュリティに果たす役割が極めて大きいこと、また、新型炉の実用化は市場性を含め開発リスクが大きいことから、経済性を含む技術実証までは国主導で進める必要がある。
「高温ガス炉」の評価、位置付けの明確化、実用化開発については、各ステップにおけるチェック・アンド・レビューを実施しつつ、以下に示す4つのステップにより推進する必要がある。ここでは、国の政策決定のために至急実施しなければならない ステップ1、2について提言している。
ステップ1、2において、高温ガス炉の実用化開発が国策として位置付けられた後には、ステップ3に示す国主導、産、学参加による実用化のための実証炉建設に進み、その結果、技術的、経済的に実用化が実証され、かつその時のエネルギーを取り巻く環境が、実用炉建設の状況にあると判断された場合には、ステップ4に示す産業界主体の実用炉建設に取りかかる。
ステップ1[提言T] (国は、原子力長計策定に当たり、原子力委員会研究開発専門部会に新たな検討会を設置して、高温ガス炉の実用化に対する総合戦略的評価を緊急に実施すべきである。) に示す内容について、次の評価の視点、項目に基づいて、国主導のもとで、産、学が参加して至急実施する必要がある。評価のやり方としては、他の原子力エネルギーを含む各種エネルギーとの総合比較評価が、相応しいと考えている。なお、技術成立性、経済性、安全性、運転性については、原研において、既に検討、試験などを始めている。
(評価の視点および項目)
(1) エネルギーセキュリティー上の意義 (評価項目)提言 II (国は、我が国のエネルギー開発計画における高温ガス炉の位置付けを明確化すると共に具体的な実用化開発計画を作成すべきである。) に示すようにステップ1の結果を受けて、エネルギー基本計画、原子力長計での高温ガス炉の位置付けを明確化し、国主導の基で、産・学が参加して、実用化の基本計画策定、手順、スケジュール、海外との協力分担ならびに官・学・産の役割分担を明示した開発ロードマップの作成を実施する必要がある。
ステップ3高温ガス炉の実用化開発計画を作成した後には、経済性を含む技術実証に移行し、以後、チェック&レビューにより適宜計画を見直しながら実証炉プラントの建設、運転に、国主導のもと、産、学が参加して実施する考えである。但し、海外との協力・分担を視野に入れて国内での実証を想定する。このステップ3では、次のデータを蓄積するとともに、次の実用化技術の開発・実証を行う。
(蓄積すべきデータ)
(実用化技術の開発・実証すべき項目)
実証炉プラントの建設・運転により技術的、経済的に実用化が実証され、かつその時のエネルギーを取り巻く環境が、実用炉建設の状況にあると判断された場合には、産業界は、実用炉プラントの建設・運転を国内外市場に向けて実現させるべく活動する。