[JAIF] 提言

日本原子力産業会議は「新原子力長期計画策定が開始されるにあたっての提言」をまとめ、6月15日に原子力委員会に対して提言を行いました。

新原子力長期計画策定が開始されるにあたっての提言


2004年6月15日

(社)日本原子力産業会議

 本年1月6日、原子力委員会は、新しい「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」(原子力長計)の策定作業への着手と、準備作業にあたり各界各層から提案・意見をきく「広聴」の方針を表明し、これまで十数回にわたり「ご意見を聴く会」を開催してきている。同方針の表明を受け、当会議は、原子力関係者として原子力長計策定に対して積極的に意見を提示していくことの重要性に鑑み、総合企画委員会委員を対象にアンケート調査を行い意見を募集した。その取りまとめ結果を基に、個別分野に関してではなく、原子力長計策定の前提となる基本的な考え方を以下のとおり提案する。


【基本認識】

 わが国の社会は現在、大きな転換点を迎えている。20世紀後半の「成長」の時代を経て、今世紀に入り、社会は「維持・安定」へと流れを変えてきている。今後、わが国は少子高齢社会化の中で、均衡の取れた生活の質の高い社会の持続を目指していくものと予想される。一方、アジア地域を中心とした経済成長に伴う国際的な資源制約の増大、環境影響の悪化などが懸念される中で、とりわけ、資源小国のわが国は環境保全とエネルギーセキュリティを国の政策の軸に据えることが重要である。この政策の実現は原子力を抜きにして考えることはできない。

 エネルギー供給は、安全保障や食糧と並んで国の根幹に関わる極めて重要な分野である。なかでも原子力は、安全対策を含め技術的な側面に加え、国際関係、経済・政治・行政など社会的な側面とも関連が深い。このため、政府機関が横断的・戦略的に取り組むべき政策分野であることは言うまでもない。

 原子力のエネルギー利用は、軽水炉発電に加え燃料サイクル事業も商業化が進んでいる。わが国の原子力の発展に対して民間事業者が果たす役割の重要性は今後さらに増大していくと考えられるが、国のエネルギーの基本方針に合致した形で民間の原子力事業の着実な遂行を可能とする環境整備が重要である。

 原子力委員会は、原子力基本法に基づいて、原子力の研究、開発及び利用に関する国の施策を「計画的に遂行する」ために、原子力長計を定期的に策定してきた。過去の原子力長計には、わが国で原子力研究開発が緒についた時期から本格的な原子力発電開発期へと移行する中で、国が基幹電源としての原子力開発利用を進めるための目標が明示されてきた。それは官民の共通の問題認識と相互協力により策定されてきたものであり、資金や人材等の重点的な配分分野ならびに研究開発スケジュールの方向性が示されるとともに、民間関係機関においても諸活動の根拠とされてきたものである。原子力基本法の目的を具現化する原子力長計の精神は今後も堅持されるべきである。

 2000年11月に現行原子力長計が決定されて以降の状況を見ると、度重なる事故・不祥事により、国民からの信頼が大きく損なわれ、燃料サイクル事業をはじめとする原子力計画が停滞してしまっている。この点に関しては、民間原子力関係者が重く受け止め、再発防止に向けた諸対策を継続していくことが必要である。

 一方、電力自由化拡大に伴う電気事業者の経営環境の変化、原子力研究開発の中核機関としての新法人発足など、研究開発利用の推進基盤が大きく変ろうとしている。このほかにも、規制の合理化・効率化の問題、人材の教育・育成および原子力技術の維持・継承の問題、高レベル廃棄物をはじめとする放射性廃棄物処分対策、国の政策と地方行政の整合など、原子力界が直面する重要課題は山積している。このように、かつて原子力界が経験したことのない新たな課題の克服が急務である状況下で策定される原子力長計は、従来にもまして、将来のわが国の原子力を方向付ける明確な指針としての役割を果たさなければならない。


【提言事項】

1.原子力長計の位置付け

原子力基本法の理念を明記するとともに、エネルギー政策基本法に基づくエネルギー基本計画との関係を明確化すべきである

 第一に、計画の策定にあたり原子力委員会として、原子力基本法に謳われている目的、および国の施策の計画的な遂行を担保する姿勢の表明が不可欠である。

 昨年10月に閣議決定されたエネルギー基本計画では、原子力発電は燃料サイクルを含め「基幹的なエネルギー源」として規定された。このことは、すでに制定後50年になる原子力基本法を根拠として、人類社会の福祉と国民生活の水準向上とに寄与することを目的として進められてきた原子力の研究開発利用の重要な意義を、包括的なエネルギー政策の観点から再確認したことを意味する。これを踏まえ、今回の策定にあたっては、国のエネルギー政策全体における原子力長計の位置付けを明確にしたうえで、エネルギー基本計画との整合を図ることが必要である。

 また、国が定めた政策としての性格を明確にするため、原子力長計に何らかの政治的な形での承認が重要である。

人文・社会系を含む総合科学技術としての原子力であることから、内閣府としてのリーダーシップのもと、政府一体となった計画策定を進めるべきである

 従来の原子力長計は科学技術庁が事務局となり策定作業を行ってきた。今回の計画策定にあたっては、内閣府設置法に規定される「政府全体の見地からの関係行政機関の連携の確保」を可能とするため、内閣府・原子力委員会は、リーダーシップや有する権能・機能を十分に発揮し、関係省庁、また傘下の機関の実質的な協力を引き出すことに全力を挙げる必要がある。

2.原子力長計の備えるべき性格

わが国社会における原子力の意義を明確にする総合的なビジョンの提示とあわせて、専門性に裏付けられた行動計画を示すべきである

 国は、社会が大きな転換期にある現在、将来にむけて社会の持続可能な発展の実現に対し、(原子力に限定せずに)わが国に何が真に求められるのかを巨視的に検討した明確なビジョンの提示が重要であろう。

 ビジョンに基づいて、新長計の策定の初期段階で「国民にとっての原子力という資源を最大限に活用するための基本的考え方」を、広く多数の国民が納得する大方針として最初に策定する必要がある。

 その上で、原子力の個別分野を対象として「ビジョン具体化のための基本的考え方に基づく行動計画」は何か、を専門的に議論していくことが必要である。その際の対象期間は、国際情勢や技術革新が予測可能な10年間程度とすることが望ましい。

国の施策として原子力長計の実行性を高めるために、明確な思想とともに具体性、客観性をもたせるべきである

 長計には、原子力に対する明確な思想のもと、国の意思が行動計画として表現されるべきであり、単なる見通しが羅列されるだけであってはならない。計画が確実に実行されるためには、実施主体を明確にした具体的な施策としての内容が不可欠である。その上で、政策の実現性や妥当性を説明する性格を有する必要がある。

 また、時間と数量の両面における定量的な目標が不明確な計画は実行性が乏しい。その点において、政策提案に対して定量的な方法で検討を行うことを表明している現原子力委員会の取組みは評価されるべきであり、その方針に則り、新長計では、時間および量の面での定量的目標の明確化と、実現のための具体的施策を盛り込むことが必要である。

 従来、原子力長計は専門的な知見をもとに審議され策定された権威あるものであったが、この性格は今後も不変であるべきである。権威ある計画として存在するためには、国民の納得を得られる客観性や公開性を備えた内容であることが必要である。

メリハリのある計画、施策の重点化を図ることに加え、柔軟性の担保方策も導入すべきである

 原子力という技術的また社会的に多様な要素を含む科学技術である以上、原子力長計には関連する分野があまねく盛り込まれることが重要である。その上で、多岐にわたる分野の中から、長期・中期・短期な観点で重点的施策を提示することが、研究開発・経営上の資源の有効利用を促進するために必要である。

 また、計画の基本的方針は堅持しつつも、柔軟性を担保するため、例えば部分的に見直し、修正を行えるなどのメカニズムを導入することが必要である。

一層の電力自由化拡大を前提としての民の事業者活動を中核としつつ、それが確実に達成されるための官民の役割を明確化すべきである

 国の電力政策として自由化の一層の拡大は、原子力発電およびバックエンド事業の運営面において事業者リスクを増大させる可能性をはらんでいる。原子力研究開発利用に関する官民の役割については、現行の原子力長計が基本になっていることは事実である。わが国の原子力開発利用の健全な推進を旨とする原子力長計は、その趣旨において、電力自由化拡大の中で政府と民間がいかに役割を分担し原子力発電と燃料サイクルの推進を遂行していくかを明確に打ち出すことが不可欠である。

 また、政治的、社会的要因に大きく左右される可能性をはらむ原子力開発プロジェクトが、計画的に遂行されない場合のリスクにいかに対応していくかの基本的認識を明示しておくことが重要である。

3.原子力長計の策定のあり方

計画策定のプロセスを社会に対して事前に明示すべきである

 原子力長計に対しては社会から納得を得られることが極めて重要である。策定の初期の段階から、計画案策定のプロセス(策定日程、審議方法など)について、国民各層を交えた意見交換の場を設けるなどして、社会からの理解を得る努力が重要である。さらに、策定途中の段階で可能な限り、社会の意見をフィードバックさせる(あるいは意見の採否について説明を尽くす)メカニズムを明示することが必要である。

前回の原子力長計の総括・評価を行うべきである

 原子力長計には確実に実行されたかを評価する仕組みが存在しない。長計の継続性を担保する意味からも、前回計画の実施状況を専門的に総括・評価することが重要である。その過程で、計画の実施が停滞していると判断される場合、その原因を検証したうえで、次期計画策定プロセスに反映する必要がある。

以 上

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