[JAIF] 提言

「プルトニウム利用はどうあるべきか」

産業界からの提言

2004年7月1日

(社)日本原子力産業会議
燃料・リサイクル委員会

 日本原子力産業会議では、我が国のエネルギー政策の基幹であるプルトニウム利用について、産業界の立場からその意義、位置づけについて再確認を行い、さらに、目前に迫っているこれらの事業を円滑に進め、長期的な政策課題である「原子燃料サイクル」を着実かつ効率的に推進していくには、どのような対応が必要なのかについて、「燃料・リサイクル委員会」(委員長・秋元勇巳三菱マテリアル名誉顧問)の場で約2年にわたって検討してきました。以下はプルトニウム利用に関する産業界からの提言の概要をまとめたものです。

      
はじめに

21世紀における世界の人口増加と発展途上国を中心とする経済発展等に伴ってエネルギー需給の逼迫が予想され、エネルギー需要の増大に応えながら地球規模の環境破壊問題に対応していくためには、社会の持続可能な発展を可能にするエネルギー供給システムが求められている。

我が国のエネルギーセキュリティを確保し、環境保全を図るには、人々のライフスタイルをリサイクル社会にふさわしいものに変革し、エネルギーと資源の利用効率の向上を進めることや、再生可能エネルギーをできるだけ活用していくとともに、基幹電源としての原子力利用を推進し、原子燃料サイクルを確立していく必要がある。

プルトニウム利用の意義

原子力発電を続ける限り必然的に蓄積してくるプルトニウムは、リサイクルしない限り増え続ける。したがって原子力が持続可能なエネルギー源としての役割を果たしていくためには、プルトニウムのリサイクル利用が必要不可欠である。

プルトニウムは高速炉で多重リサイクルすることによってその真価を発揮できるものではあるが、当面はプルトニウムを軽水炉で利用することによって、商業規模でのプルトニウムリサイクルの枠組みを確立し、高速炉時代につなげていくことが重要である。

軽水炉でのプルトニウム利用(プルサーマル)は、原子力反対運動の激しいドイツも含め、世界各国で日常的に実施されている。我が国でも早期に本格実施にこぎ着け、多くの原子炉サイトへと広めていくことが強く望まれる。プルサーマルは、当面、ウラン資源の節約効果、使用済燃料対策の緩和などに寄与するとともに、その実績を通して、リサイクル技術、プルトニウム利用技術など、将来の高速炉実用化時代に向けた社会的基盤の整備や技術の成熟化に貢献できる。

将来において高速炉が実用化されれば、プルトニウムを含む超ウラン元素(TRU)の効率的な利用が可能になり、我が国のエネルギーセキュリティの問題を大幅に緩和することができる。さらに高速炉リサイクルは、高レベル放射性廃棄物中に含まれる半減期の長い放射性元素を分離・変換して環境負荷を大幅に低減させる技術ポテンシャルを有し、処理処分問題を大幅に軽減できる。高速炉リサイクルは、まさに環境保全型リサイクル社会に適合した技術であるといえる。

原子力産業界からの提言

国が進める原子燃料サイクル政策の下で、産業界は、軽水炉燃料サイクルの事業化に取り組んできた。産業界が、今後とも主体的に事業を推進するためには、現在、電気事業分科会において検討中の経済的措置に対する適切な配慮や、国による強力な技術支援等が不可欠である。

産業界は、原子力に対する信頼を回復し、プルサーマルの早期開始と六ヶ所再処理工場の安全・安定運転を実現することを当面の目標として努力を傾注するが、高速炉リサイクルに向けたプルトニウム利用技術の高度化には、強い関心を持って国に協力していく。

プルトニウム利用政策の推進に関する制度や環境の整備および将来に向けた技術開発は、産業界の投資リスクとの整合性を図りつつ、国が自らの役割として強力に推進することが重要である。

以下、原子燃料サイクルに関し、産業界が取るべき行動と国への要望事項を整理した。


(1) 我が国の原子燃料サイクル事業のあり方

【産業界自らの行動】

  • 電力自由化を踏まえ、原子燃料サイクルを含めた原子力利用が、安定かつコスト競争力を有する基幹電源となるよう、原子力の開発利用を着実に進めていく。

【国への要望】

  • 国は、戦略的かつ総合的なエネルギー政策の中で原子力の位置づけを再確認し、国の政策として原子力を推進すべきである。とくに、原子燃料サイクルの確立は、我が国の今後のエネルギー安定供給の確保や地球環境問題への対応上の最重要課題であり、その実施を図るべく、将来に向けた技術開発を、国自らの役割として強力に先導することを要望する。

  • 軽水炉の原子燃料サイクル事業に伴う投資コストなど将来の不確実な要素に関しては、国は、自らが果たす役割を公益的視点から明確にし、必要な制度、措置等を構築するよう要望する。

(2) プルサーマルと軽水炉燃料サイクルの推進

【産業界自らの行動】

  • プルサーマルの実施にあたっては、国民の理解を得ながら当面2010年までに16〜18基の導入を目標に進めていく。

  • 軽水炉の燃料サイクル事業は、国の方針に則り、原子力産業界が今後とも主体性を持って取り組み、安全を最優先に、安定操業の確立に向けて、初期トラブルを克服して着実に推進する。

【国への要望】

  • プルサーマル計画と軽水炉燃料サイクル事業の実施にあたっては、開かれた議論を通じ、地元の協力や幅広い国民的合意を得るべきである。

  • 高レベル放射性廃棄物処分、リサイクル資源である使用済燃料の中間貯蔵については、ともに原子燃料サイクル事業の推進に欠かせない位置づけにあり、国は、それぞれの円滑な立地の推進に強い関与が必要である。
(3) 原子燃料サイクル施設の安全

【産業界自らの行動】

  • 自主保安・自己責任の原則に基づき、産業界が自らの責任として原子力施設の安全確保に努めることが必要であり、事業者自ら姿勢を正し、自らの規範を誠実に遵守して安全実績を積み重ねるとともに、その実態を透明性を持って発信し、信頼の向上に努める。

【国への要望】

  • 軽水炉燃料再処理施設など、原子燃料サイクル施設の運転にあたっては、それが化学プラントの特質を持っていることに配慮した運転基準を整備し、事業者が自己責任をもって、安全、安定操業を達成できるよう、規制、制度を整備すべきである。

  • 原子燃料サイクル事業の各施設で発生する廃棄物については、性状別に一括した処理・貯蔵を行うことが合理的であり、これらが可能となるよう規制を整備すべきである。また、国は、微量のウランやTRUが付着した廃棄物の処理および施設の廃止措置に係るクリアランスレベルや処分基準の設定など、国際的に整合のとれた安全基準と制度を早期に構築すべきである。

  • 国は、地方自治体との役割分担を明確化し、エネルギー政策基本法に則り、規制体系や税体系の適切化に力を入れるべきである。

(4) 社会からの信頼回復に向けて

【産業界自らの行動】

  • 損なわれた信頼を回復させるため、まず法令や保安規定などを誠実に遵守し、事業者が、自ら定めた諸方策を着実に実行することが基本である。原子燃料サイクル施設においては、原子力発電所とは異なる施設の特徴を、地元住民等に正確に説明し、その情報を適時、的確に伝えるとともに、住民との双方向コミュニケーションに努めることが重要である。

  • 透明性を確保し、事実をありのままに国民に知ってもらうことが大切であり、 分かりやすく、タイムリーな情報の提供に努める。

  • 事業者は、地域社会の一員として、地場産業として溶け込み、地域の発展に貢献するとの観点から、地域との共生に努める。

【国への要望】

  • 継続的な地域振興方策により、立地地域経済の一層の活性化と地域の主体的努力に対する側面支援を図り、原子力産業が、地域の発展に貢献できる環境を整備すべきである。

(5) 原子燃料サイクル技術の開発への取り組み

【国と民間の協力】

  • 軽水炉燃料サイクル技術の高度化や高速炉燃料サイクル技術の開発は、相当の長期に及ぶことから、その開発および技術力の保持は、国が中心となって民間との連携の下、着実に行うことが重要であり、その中心的な担い手としての役割を新法人に期待する。

  • プルトニウム利用の中核となる高速炉開発は、原型炉もんじゅの運転実績を得てプロジェクト研究として実用化を進めていく段階にある。そのため、もんじゅの早期運転再開を行い、運転信頼性データ等を取得し、経済性の高い実用高速炉概念の構築および要素技術の開発に還元していくとともに、核種変換などサイクル技術の高度化につなげていくことが重要である。また、もんじゅは、国際的に広く活用していくことも期待される。

  • 第W世代プロジェクト、ロシアなどの高速炉開発を踏まえ、高速炉サイクル技術の国際共同開発に積極的に取り組むことも重要である。

  • 事業化を目的として開発する技術については、国と民間は、開発当初から技術移転の方法や形態を考慮し、開発段階から協力して推進する必要がある。

  • 原子力事業では、社会情勢、国際的動向、国際機関の取り決めの変化など、民間で対応しきれないリスクを生ずる事態も予測される。国は、技術移転後も、技術開発、国際協力、法制などに継続的に関与し、支援していく必要がある。

(6) 国際協力と核不拡散対応

【国への要望】

  • 我が国は、唯一の被爆国であり、核兵器を持たない原子力先進国として、軍事利用でないプルトニウム利用方策の確立を通して、国際的な原子力の平和利用の推進に貢献していくべきである。国際貢献・協力にあたっては、国が前面に出てこれを推進し、産業界と協力しながら共同で推進することを要望する。これらの活動を通じてアジア地域の核不拡散に積極的に貢献していく必要がある。
以 上

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