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核燃料サイクルをめぐる政策論議に関する見解

平成16年7月16日

日本原子力産業会議


 電力自由化を展望した新たな原子力長期計画の策定作業が開始された直後、経済産業省等がかつて試算したとされる使用済燃料を「直接」処分する場合と「再処理―リサイクル」処分する場合のコスト試算情報の取り扱いをめぐって、マスコミを中心に報道され、核燃料サイクル政策の是非までが議論されている。この試算資料が公表された経緯を考えると、資料が単なる内部検討用の試算であり、正式な公表資料としてのものではない等の理由があるにしても、国民に対して誤解を招かないような誠実な対応や説明責任を果たす必要がある。

 とくに、この事態をきっかけに、経済性の観点からだけで核燃料サイクルの是非を問いかける論調が目につくようになっており、「核燃料サイクル」は我が国のエネルギー政策を大きく左右する極めて重要な課題であることに鑑み、我々はこの問題の議論にあたっては以下の点を考慮してして論じるべきと考える。

  1. エネルギー・原子力政策は経済性を含めセキュリティ、環境負荷など総合的な観点から議論すべきである。

    我が国のエネルギー政策は「エネルギー政策基本法」に記されているように、「安定供給の確保」と「環境への適合」という2つの「政策目的」に加え、これらを十分考慮しつつ「市場原理の活用」を図っていくことを原則としている。原子力政策においても、これらの政策目的に適うよう様々な観点から十分議論して決められていくべきものと考える。また経済性の議論にあたっては、エネルギー政策がエネルギーの安定供給、環境等に及ぼす外部性を内部化し、公平なコスト評価が行われる必要がある。

  2. 次期原子力長期計画策定は、エネルギー政策基本法に基づくエネルギー基本計画の実現に向けた施策を構築すべきである。

    上述のエネルギー政策基本法に基づいて昨年閣議決定されたエネルギー基本計画では、原子力発電を基幹電源として位置付けている。また核燃料サイクルは、供給安定性等に優れているという原子力発電の特性を一層改善するものであり、我が国では、着実に取り組んでいくことが基本的考え方であるとし、プルサーマルについても、サイクルの当面の中軸として着実に推進していくとしている。次期原子力長期計画策定においては、エネルギー基本計画の方針に則り、これらの政策を具体的に推進するための対応策等について検討するべきと考える。


  3. また原子力長期計画では、我が国のエネルギー政策としての核燃料サイクルの必要性について改めて確認し、長期的視点から国と事業者の役割分担を明確にするよう要望する。

    核燃料サイクルは、エネルギーの安定供給および環境適合性の観点から、かねてより国の政策として選択されてきた。以来、我が国のエネルギー状況に大きな変化はなく、今回の原子力長期計画策定においても、改めて使用済燃料をリサイクルするという国の方針について、今一度、長期的な視点に立ち、官民の適正な役割分担などを確認すべきである。


  4. 国策のもとに実施されている六ヶ所再処理事業やバックエンドの制度措置等の議論は、遅滞なく着実に進められるべきである。

    現在、日本原燃が進めている六ヶ所再処理施設の操業について、電気事業連合会は5月に、業界が一体となって不退転の決意で取り組んでいくことを改めて再確認した。もとより再処理事業は原子力開発の黎明期より、国策として推進され、それを電気事業者が一体となって、数十年にわたってその実現に努力してきた。様々な困難な状況を乗り越え、地元の理解を得て、現在、ウラン試験の実施直前までに到達した。六ヶ所での再処理事業は国策にそって民間の事業として進めようというものであり、プルサーマルとともに着実に進められるべきものと考える。また正当性の伴わない事由によって操業が凍結されることになれば、事業経営基盤や再処理技術基盤の脆弱化が避けられず、今後の事業展開に大きな影響が及ぶことにもなりかねない。一方、現実的に進められている核燃料サイクル事業の費用負担や回収の法制度の整備についても、早急な措置が講じられる必要がある。


  5. 直接処分とリサイクルの評価にあたっては、多面的、総合的に評価すべきである。またコストの試算にあたっては、制約条件を明記して、数値が一人歩きしないようにすべきである。

    判断の基準が「数値化」されて示されることにより、判断の妥当性が比較的理解されやすいため、基準を数値化する努力が払われることは重要である。しかし、原子力発電と他電源とのコスト比較でも同様であるが、多くの前提条件に基づく試算にもかかわらず、いったん数値が公表されると、数値だけが一人歩きし、判断の基準として議論されることが多い。

    現在、軽水炉使用済燃料の直接処分のコスト試算が原子力長計策定作業の過程で行われるとされている。直接処分コストの試算にあたっては、国内で直接処分が可能なのかという基本的な疑問もある。単なる経済性の試算だけでなく、技術的可能性や社会的な受容性、将来のエネルギーセキュリティ確保など多くの課題についての検討が必要と考える。

    また直接処分については、ガラス固化体処分と異なり、我が国における技術的成立性が確認されておらず、使用済燃料の発熱量増大に伴う影響あるいは長期発熱核種増大に伴う処分場面積増大の影響、さらに放射能量の増大に伴う影響、臨界防止対策、核不拡散対応などの技術検討とあわせ、社会環境への影響などの検討が必要となる。こうしたことから、コスト試算は不確実な仮定の下に行わざるを得ず、自ずと試算結果は大きな不確実性を持つものとならざるを得ないと思われる。高レベル放射性廃棄物の処分についてのコスト評価を行うにあたっては、およそ25年間の研究開発期間を要した。こうした事情を国民に十分説明する必要があると考える。

以上


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