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美浜3号機事故に関する会長談話

2004年8月11日
(社)日本原子力産業会議
会長 西澤 潤一


 8月9日、関西電力(株)美浜発電所3号機で事故が発生した。タービン系の復水配管の破断により噴出した蒸気で、4名の作業員が死亡し、7名の作業員が負傷した。運転中の原子力発電所で死亡事故が起きたのは初めてであり、極めて遺憾である。亡くなられた方には心からの哀悼の意を表するとともに、負傷された方の早期の回復をお祈り致します。

 原子力発電プラントは、原子力エネルギーを熱水や水蒸気に変える1次系と、これを使ってタービン発電する2次系(火力発電も同様)からなるが、今回の事故は2次系で起きたため、放射能の外部への放出はなかった。事故が放射能や放射線に直接係るものでなかったために、国際原子力事象評価尺度(INES)の暫定評価では0+という軽微な事象に分類されているが、死傷者が出たということで、発電所としては重大な事故である。原子力関係者はこれまでの事故や故障の経験を厳粛に受け止め、安全確保に充分に気を引き締めてこなかったと言わざるを得ない。2次系の事故が1次系の事故を誘発する危険性がないとは言えないことを考えれば、これを重大に受け止めなければならない。電力会社および規制当局は、今回の事故原因を徹底的に究明し、見落としが他にもないかも含め厳重に注意して再発防止に努めなければならない。

 今回の美浜3号機事故と同じような事故が1986年に米国のサリー原子力発電所で起き、2次系配管破断による蒸気噴出で4名が死亡している。経年変化等による配管の著しい減肉が原因とされている。この事故の教訓は原子力界では共有されており、関西電力の原子力発電所でも、2次系配管の検査を順次行うことにしていたという。美浜3号機については、運転開始以来当該箇所の検査が行われず、今度の定期検査時に行われることになっていたと報じられており、事故原因の究明に当たっては、単に技術的な側面だけでなく、制度的・管理的な側面も含めて徹底した調査が望まれる。

 原子力の資産価値の向上と競争力確保ということで、既存原子力発電所を長期的に活用する方向にある。米国の多くの原子力発電所では、40年の運転認可期間を、厳格な安全審査の結果、60年に延長しつつある。わが国でも原子力資産の有効活用のため、運転開始後30年目には長期保全計画を策定し、その後10年間隔の定期安全レビューで保全計画の必要な見直しを行うことにしている。美浜3号機は、1976年の運転開始以来28年になり、経年変化問題について慎重な対応が求められていた。

 わが国では、原子力発電所の今後の規制及び検査の方向として、自主保安の徹底とリスク情報の活用をめざしている。自主保安とは、言うまでもなく、原子力事業者の自己責任に基づく自律的な自主保安活動のことで、規制当局等から言われたから検査するという受身の姿勢ではない。これには、原子力事業者だけでなく、従業員やその施設で働く人々のマイプラント意識が極めて重要である。自分の設備は自分で守るという意識を持ってこそ、プラントの調子や不具合も敏感に感じとる感受性が養われるのである。今、重ねて、原子力関係者の大いなる意識改革を求めたい。

 原子力平和利用が開始されてから半世紀になる今、事業者は今回の事故に真摯に対応するとともに、官民挙げて国民の理解を得つつプルサーマル計画と核燃料サイクルの確立を着実に推進すべきである。

 当会議は、安全確保を大前提として、プラントライフマネージメント(プラント寿命中の管理)を推進し、軽水炉を国民の資産として最大限に活用していくべきであると主張してきた。今回の事故は誠に遺憾ではあるが、一刻も早く原因を究明して対応策を講じることが、国民の負託にこたえる唯一の道である。

以上


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