「2050年の原子力:ビジョンとロードマップ」について
2004年11月5日 日本原子力産業会議
日本原子力産業会議は、「2050年の原子力:ビジョンとロードマップ」の報告書を取りまとめました。本報告書は、当会議の常設委員会である「原子炉開発利用委員会」(委員長:神田啓治・エネルギー政策研究所所長)の下にビジョンワーキンググループを設置し、検討してきた結果をまとめたものです。
(検討の背景)
当会議は、わが国のエネルギー安定供給や地球環境保全を考慮しますと、今世紀において原子力は、大きな役割を果たさなければならないと考えております。しかし、原子力産業界自らが招いた最近の原子力における事故、不祥事によって、その開発は、計画通りに進展していない状況にあります。この状況を打開するには、原子力産業界がこの危機感を共有し、事故、不祥事を二度と起さないようその再発防止に徹底して取り組み、それを基本として社会の信頼を得ていかなければなりません。
原子力エネルギーに対して今後とも社会が期待を寄せるとするならば、産業界はそれに応えるために、不確実性を承知しつつも今世紀半ば頃を断面に原子力が果たし得るであろうイメージを「2050年の原子力ビジョン」として描きました。
なお、このビジョンは、世界人口が90億人に達すると言われる今世紀半ばに原子力エネルギーがしかるべき役割を果たすために、至近に行うべきこととして、先の2月に公表しました「向こう10年間に何をすべきか」の提言の根拠と背景としたものであります。
民間原子力産業関係者は、「2050年の原子力ビジョン」と「向こう10年間に何をすべきか」を共有して、社会と対話し、社会の信頼を得つつ、一歩一歩着実に原子力を進めて参りたいと考えております。
(検討内容)
このビジョンでは、2050年の未来のライフスタイルとして、「充実した安心と豊かさのあるクオリティ・オブ・ライフ(QOL)」を求め、その中で人類社会が持続的に発展することを目指すことにしました。そのためには、エネルギーが必須であること、また地球環境の保全には、二酸化炭素(CO2)の排出量を大幅に削減すること(1990年の60%にすること)を目指しました。そこで、それらを念頭に、2050年の原子力エネルギー利用のあるべき姿として、次の11項目にまとめました。
[2050年の原子力ビジョン]
- 発電に寄与する原子力
- 原子力による水素製造
- 原子力開発利用に関する合意形成と制度整備
- 地域社会と共生する原子力施設
- 業界間規制の緩和で自由なエネルギー市場
- 多様化する原子力施設の立地
- 国際エネルギー情勢の改善
- 世界における原子力利用の進展
- 原子燃料サイクルシステムの整備
- 放射性廃棄物処分の進展
- 世界で活躍する日本の原子力産業
このビジョンでは、2050年には、地球環境保全のために、二酸化炭素(CO2)の排出量を1990年の60%にする大幅な削減目標を設定しました。その結果、原子力は、発電用として、現在の約2倍にあたる9000万kWe、水素製造用の熱源として、2000万kWt利用されています。発電電力量は、現在の3割強から6割を占めるようになっています。2020年頃より自動車用および定置型燃料電池が、環境負荷低減の観点から普及し、その燃料の水素は、2050年には、エネルギー消費の1割を占め、しかも水素の7割が原子力の熱を利用して製造されています。
なお、日本のエネルギー事情からは考えにくいのですが、原子力を段階的に廃止するとした場合の「原子力廃止ケース」も想定しましたので、これも参考例として示しております。その結果では、再生可能エネルギーを最大限 (一次エネルギー供給量の18%、発電電力量の34%) 利用しても、天然ガス等が大幅に使用されるために、CO2の削減には、回収、固定化を行わなければなりません。また、原子力を利用しないために自給率は現状から改善されず、原子力を利用するケースに比して半分以下になります。
本報告書には、これら11項目を実現するために解決すべき課題、実施すべき行動の道程[ロードマップ]についても提示しています。課題の中には、産業界自身の努力により達成可能なものが含まれていますが、幅広い社会からの支持、および政府との協働作業によらなければ解決が困難なものも多くあります。
当会議では、このビジョンを自らの行動理念・指針とするとともに、広く社会および政府に対して発信していくことにしております。
○本件問合せ先:(社)日本原子力産業会議 計画推進本部 西郷・小林(雅治) 〒105-8605 東京都港区芝大門1−2−13 第一丁子家ビル TEL:03(5777)0752 FAX:03(5777)0760
[2050年の原子力ビジョン] 概要
(1) 発電に寄与する原子力
- 最終エネルギー消費に占める石油の割合が半分以下と大幅に減っている。
- 消費エネルギーにおいて、電力の割合は、21世紀初頭に約1/4であったのが、2050年には3割強になっている。
- 電力において、原子力の割合は、21世紀初頭に3割強であったのが、2050年には6割になっている。
(2) 原子力による水素製造
- 2020年代から自動車用などの燃料電池が普及しており、2050年には水素が、最終エネルギー消費の1割になっており、原子力による水素製造が、そのうちの7割になっている。
(3) 原子力開発利用に関する合意形成と制度整備
- 原子力に対する信頼を回復するために、管理体制について抜本的な改革が実施された。(法制度、行政組織、研究開発組織など)
- その結果、規制行政、施設運転管理、研究開発活動などについての品質マネジメントと評価システムが整備される。
- 公正性、公平性、透明性を一層備えた運営が行われ、国民の合意が得られている。
(4) 地域社会と共生する原子力施設
- 原子力施設との共生を選択した地域においては、補助金などを活用した地域社会の福祉機能が充実発展し、雇用が拡大している。
- 原子力事業者は、地域社会との交流の機会を増やす努力を重ね、原子力施設は地域と共生する施設となっている。
(5) 業界間規制の緩和で自由なエネルギー市場
- エネルギー業界では、地域独占の緩和、各エネルギー種別の業界間規制が緩和され、競争市場が形成されている。
- 国は、民間企業の投資リスクを軽減する制度的な仕組みの整備を行い、民間主体の原子力事業が進められている。
- 公平な競争条件(外部コストの導入など)の下で、化石燃料、原子力および再生可能エネルギーが競合している。
- 燃料電池車の急速な普及による水素社会への移行は、エネルギー供給形態に大きな変革を与えている。
(6) 多様化する原子力施設の立地
- 原子力発電所が設置された地点(跡地を含む)での増設・更新、火力発電所や石油精製施設の跡地などに、原子炉施設が建設されている。(立地点の多様化)
- 選ばれた革新炉が稼働している。
(経済性向上、環境負荷低減、資源有効利用、電力/非電力利用等)
(7) 国際エネルギー情勢の改善
- 世界のエネルギー供給は、化石燃料が担っている。
- 温室効果ガスの排出規制は、ますます厳しくなり、原子力発電や再生可能エネルギーの割合が高まっており、中東諸国の石油資源の交渉力が弱まっている。
(8) 世界における原子力利用の進展
- 長期にわたって原子力施設の安全な運転管理が行われている。
- 原子力活動の透明性がますます高まっている。
- IAEAの国際保障措置の機能の充実(核拡散に対する懸念の低下)により、原子力の利用は進展している。
- アジア諸国や欧米諸国では、新規の原子力発電所の他、水素生産、海水脱塩、地域冷暖房などの熱供給にも原子力が使われている。
(9) 原子燃料サイクルシステムの整備
- 国際社会においては、軽水炉燃料は、高燃焼度化がはかられている。また使用済み燃料は、中間貯蔵施設あるいは地層処分施設において管理されている。
- わが国を含めた一部の国では、プルサーマルも選択されている。
- わが国では、ロシア、欧米諸国と協力して、経済性の高い高速増殖炉サイクルシステムを実現させている。
(10) 放射性廃棄物処分の進展
- わが国では、高レベル放射性廃棄物やTRU廃棄物の地層処分が開始されている。
また、廃炉等で発生する放射性廃棄物を処分する活動も継続的に実施されている。
- 国際社会においては、国際的枠組み作りができたことにより、放射性廃棄物管理が困難な国においても、原子力利用が可能になっている。
- 先進国においては、マイナーアクチニド(MA)の分離・変換の実用化が進められている。
(11) 世界で活躍する日本の原子力産業
- 世界での原子力発電所の建設業務は、グローバルアライアンスの下で日本企業も分担している。
- 日本企業は、プロジェクトの企画・推進、基盤となる技術の開発・改良、重要機器の製造など特化した活動を行っている。
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