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日本原子力産業会議新年名刺交換会 (平成17年1月5日)
西澤潤一会長 挨拶(要旨)

 あけましておめでとうございます。今日皆様と共に新しい年の始まりを寿ぎ、今年も一層の連携を深めながら原子力産業の発展を目指して参りたいと存じます。

 暮れには六ヶ所再処理施設の稼働がうまくいったようでございまして、皆様の大変なご努力に心から感謝を差し上げたいと思っております。しかし、昨年は天災や人災の多い年で、年末にはインドネシアを中心に大きな地震、津波があり、歴史に残る大変な被害となりました。また、新潟中越地震では、米づくり、酒づくりなどにも被害が出ました。原子力発電のためにご協力あるいはご尽力いただいております新潟県をはじめ、被災地の皆様方には謹んでお見舞いを申し上げる次第でございます。ただ、その中で原子力発電所は地震に立派に耐え得ることが証明され、タービン軸のブレを感知して止める装置など安全装置の健全性も、一応実証されたようでございます。

 しかし、これで自信を持つわけにはいきません。関西電力の美浜発電所での事故はわれわれも共に悲しむべきことでございますが、配管破断による蒸気噴出により、5人の方が亡くなるなど大きな人身事故となってしまいました。誠に残念でございます。亡くなられました方々のご冥福をお祈り申し上げ、また、ご遺族の皆様方には深く哀悼の意を表する次第でございます。

 機器の健全性や信頼性に加えて、設備全体を安全にしていく「マイプラント」意識による改善の取組みや、ヒューマンエラー防止のための責任感の確立など、新たな取組みを皆様方と共にお誓いするとともに、またわれわれとしても大いにそういう啓蒙活動をやらなければならないと痛感しております。十分に安全性が確保されたということにはこと足らないようでございますので、今年もぜひ皆様方のより一層のご努力をお願いいたしまして、われわれも共に事故皆無を目指して努力を続けていくべきであると考えております。

 さて、日本では現在二つの力が弱くなっているといわれております。一つは現場における力でございます。どんなに高度な技術でも、また発想が優れていても、実現性の無い、実体の無いものでは意味がございません。構想したことを現実のものとすること、そこに現場の力が必要でございます。例えば、いわゆる「縁の下の力持ち」といった存在があって、交通機関が時刻通りに運行される、納期がきちんと守られるということがひとつの力でございます。現代においては、物づくりや物事の基本・基盤となる、地味ではございますが、誠実にこなされることが必要な「力」でございます。

 こういう現場の「力」は、かつては日本の誇りであったわけですが、極端に低下していると聞き及んでおります。やはり一人一人の技術者が自分の力にプライドを持ち、技術者魂を失うことなく、それが機械的な力とうまくマッチした時に、本当に工業力が強くなり、事故を防ぐ力になるのだと確信しております。

 もう一つは、経営する力でございます。国立大学でも運営には経営的センスが必要な時代になっておりますが、この経営する力が、ともすれば「収益をあげる力」だと矮小化されているきらいがあったようでございます。

 昔の電気通信事業、電電公社などは、いわゆる設備産業といわれておりました。設備産業を蔑視するわけではございませんが、やはり、そこから脱皮して、今の情報通信産業として発展してきたわけであり、十分な設備とともに経営する力がなければ、健全な発達はできないと考えております。

 半導体分野でも、単に電子的な処理能力が高いだけの部品からは脱皮して、より機能的な面を重視した製品開発や研究開発が求められ、進められてきております。このような創造を伴った改革こそ、今求められている経営の力といえると思います。

安全性だけに過剰な設備投資をするような風潮も今たくさん見られるわけでございますが、このようなことでは際限がなく、やはり人間の注意力で補っていくことが、これからの日本社会の全てで望まれているのではないかと考えております。本当の安全というものは、正当な自己評価とそれに対応した努力が絶えず行われていなければ実現できないものだということを改めて認識しているしだいです。

 今は亡き向坊先生から「原子力産業の健全な発展に向けて、この組織の世話をするように」とご指名を受けて、私は会長をお引き受けし、原産の組織としての方向をきちんと定めなければならないということを絶えず考えているところです。

 原子力産業界もその研究開発も、そして当原産も、機能としていかにあるべきか、その性能はどのようなものが要求されているのか、こういう視点から改革を進めていくには、これまでの取組みやその成果、問題点、今後の課題につきまして、特に深く分析をしていく必要があります。現場のニーズに対応した研究や経営こそ大切であり、ここに創造性が要求されるわけでございます。

 こうした原産改革にあたりましてのキーワードはやはり、「現場の力」と「経営の力」である、そしてこの両方の強化であり、バランスがとれた相互の融合がなければいけないと考えております。原産は団体であり、その掟(おきて)というといかめしいのですが、「皆が協力し合うこと」をルールとしてそれを大切にすることであり、その基盤となるものは次のような信頼の絆でございます。

 「自分はきちんと仕事をしている、他の人もきちんと仕事をしてくれているだろう、だから、安心して一緒に仕事ができる」。

 そのような気持ちが、当原産の職員全体にも十分に行き渡っていなければならないと考えるところでございます。

 また、事業者の日常不断の真摯な取組みと、国による適切な規制の両方が揃ってこそ、初めて本当に性能の高い原子力産業と言えるわけで、安心と安全という国民の要望に応えることができるわけでございます。真の経済性やコスト削減をするにも、それを目的とするのではなく、結果として出てくるような、よく考えた取組みが大切だということでございます。

 日本は簡便さを求める余り、目的と結果を取り違えることが多いと思います。受験勉強で得点を稼ぐということに目的が短絡した結果、暗記という手法が発達しました。海外評価機関により、日本の若者の物事に対応する力に関して、「極めて卑近な理解力すら十分ではない」という厳しい評価が下され、従来の日本のあまりにも結果を急ぎすぎるという欠点が出ました。これは私の本業の教育における大問題で、この方向からしっかり直していくことが、当原産にとっても、大変大きな意味を持つものと考えております。

 今年はさらに原研とサイクル機構の二法人統合、核燃料サイクル路線の要でもあります六ヶ所再処理施設の試験運転など、さまざまな取組みがさらに現実の問題として付け加わってくるわけでございます。現場や経営の方々の力がしっかりと充実してきておりますので、こういう方々のご協力をより緊密化することによりまして、ぜひ実り多き一年にして行きたいと、また、お集まりの方々のお力を拝借したいと存じます。

 会員の皆様方のご健勝とますますのご活躍の結果、我等が祖国日本の再起と原子力産業の隆盛を来たすことを心から祈念いたしまして、年頭のご挨拶とさせていただきます。


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