■シリーズ「あなたに知ってもらいたい原賠制度」【40】米国の原賠制度の成り立ち
A1. 第二次世界大戦後直後の1946年、米国は原子力法を整備して原子力利用を軍事のみならず民生部門に拡大しようとしましたが、当初、民生利用は進みませんでした。アイゼンハワー大統領による「アトムス・フォア・ピース」演説の翌年にあたる1954年には、新たな原子力法による許認可制度が整備され、民間による原子力平和利用がさらに奨励されました。
A2. ・ 原子力損害賠償に関する国際条約は無過失責任や責任集中を規定していますが、米国はそれらを直接的に連邦法で規定していないため、条約への加盟は難しく、パリ条約やウィーン条約には加盟してきませんでした。 ・ 「原子力損害の補完的補償に関する条約(補完基金条約)」(CSC)には、一定の条件を満たす制度を有していれば厳格責任や責任集中の規定に適合するものとみなす規定があり、米国は2008年5月21日にCSCを批准しました。 ・ CSCの各加盟国が拠出して作る補完基金に対して米国政府が拠出する公的資金(public funds)は、「遡及的リスクプール制度(retrospective risk pooling program)」に基づいて、事後的に原子力産業界から回収されますが、その負担方法に関する連邦規則の制定は遅れています。 【A2.の解説】 米国では、連邦と州の権限分配の原則にしたがい、一般の不法行為責任は州に立法権限が属しています。そのため、無過失責任や責任集中の仕組みを直接的に連邦法(PA法)で規定することができません。 一方で、原子力損害賠償に関する国際条約は原子力損害の範囲、原子力事業者の無過失責任及び責任集中、賠償責任限度額の設定、損害賠償措置の強制、専属裁判管轄の設定と判決の承認・執行の義務、賠償請求権の時効(除斥期間)などを明確に規定しており、これらの規定に合致しなければ条約への加盟は難しく、PA法を国内法としている米国は上記の状況からパリ条約やウィーン条約には加盟してきませんでした。 スリーマイルアイランド原発事故、チェルノブイリ原発事故を経験した後に制定された新たな国際条約では、大規模な原子力損害により条約上の責任限度額を超えた場合、全締約国が拠出する補完基金により実際の補償額が底上げとなる特長をもつ制度が新たに設けられました。これが1997年に採択された「原子力損害の補完的補償に関する条約」(CSC)であり、さらに多くの国が加盟できる仕組みとなっています。 CSCに加盟するためには国内法をCSC付属書の規定に適合させなければなりません(ウィーン条約又はパリ条約に加盟していれば付属書の規定は無用)。この付属書には、用語の定義、責任制限額、損害賠償措置、国家補償、時効、求償権の制限など原賠制度の基本的な原則が規定されており、運営者の厳格責任や責任集中についても規定されています。 ただし、付属書第2条には独特の法制を持つ米国も加盟できるように配慮された規定があり、原子力事故に関して厳格責任を定める規定、運営者以外の者が賠償責任を負う場合にその者が補償を求める規定、少なくとも10億SDRを補償に利用できる可能性を確保する規定を有している米国は、付属書に規定する厳格責任や責任集中の規定に適合するものとみなされるため、CSCに加盟するための条件を満足することができます。 このような経緯をへて、米国は2008年5月21日にCSCを批准しました。CSCには3億SDRを超える原子力損害に対して加盟国の拠出による公的資金が提供されますが、米国はこの補完基金に対して政府が拠出した公的資金を「遡及的リスクプール制度」に基づいて、事後的に、米国内の原子力事故に係る場合には原子力事業者から回収し、米国外の原子力事故の場合には原子力産業のサプライヤーから回収することをエネルギー自立・安全保障法934条に規定しています。政府は「リスク情報評価式」により算定される各サプライヤーのリスクに応じて資金を回収することになっていますが、サプライヤーの範囲や配分方法等に様々な問題が生じており、「リスク情報評価式」に関する連邦規則の制定は遅れています。 ○ 原産協会メールマガジン2009年3月号〜2011年10月号に掲載されたQ&A方式による原子力損害賠償制度の解説、「シリーズ『あなたに知ってもらいたい原賠制度』」を冊子にまとめました。 冊子「あなたに知ってもらいたい原賠制度2011年版」入手をご希望の方は、有料[当協会会員1000円、非会員2000円(消費税・送料込み)]にて頒布しておりますので、(1)必要部数、(2)送付先、(3)請求書宛名、(4)ご連絡先をEメールで genbai@jaif.or.jp へ、もしくはFAXで03-6812-7110へお送りください。 シリーズ「あなたに知ってもらいたい原賠制度」のコンテンツは、あなたの声を生かして作ってまいります。原子力損害の賠償についてあなたの疑問や関心をEメールで genbai@jaif.or.jp へお寄せ下さい。 以上
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