■シリーズ「あなたに知ってもらいたい原賠制度」【41】


政府の賠償基準の考え方と総括基準
 今回は、政府による避難指示区域の見直しに伴う賠償基準と原子力損害賠償紛争解決センターによる総括基準の追加分についてQ&A方式でお話します。

Q1. (政府の賠償基準の考え方)
2012年7月20日に政府から公表された、「避難指示区域の見直しに伴う賠償基準の考え方」はどのような内容ですか?

A1.
・ 原発事故に関わる賠償の中でも、避難指示区域内の不動産等に関する賠償については、被災者が今後の生活再建を展望する上でとりわけ密接に関わることから、政府は被害を受けた自治体や住民の意見や実情の調査結果を踏まえて、賠償基準の考え方を公表しました。これが2012年7月20日に公表された「避難指示区域の見直しに伴う賠償基準の考え方」です。
・ この賠償基準では、被災者が帰還を希望する場合も移住を希望する場合も、賠償上の取り扱いは同一とするとされています。
・ 具体的には、避難区域見直しに伴い原子力損害賠償紛争審査会が策定した中間指針第二次追補を踏まえて、不動産や家財の賠償、精神的損害や営業損害・就労不能損害の賠償を一括払いするための、算定方法が示されています。


【A1.の解説】
 東京電力は、これまで原子力損害の賠償を実施するに際して、原子力損害賠償紛争審査会(紛争審査会)が策定した指針を踏まえ、同社としての賠償基準を定めて、各被害者に対して個別状況を勘案した損害賠償を行ってきました。

 実際の避難指示区域の見直しは当初の予定から大幅に遅れた状況にありますが、この区域の見直しに関連して、それぞれの区域における不動産や家財等の財物損害の賠償、営業や就労等に対する賠償が被害者の今後の生活再建にとりわけ密接に係わるものといえます。そのため、政府は被害を受けた自治体や住民からの意見・実情を調査し、それを踏まえて賠償基準に反映させるべき考え方を取りまとめ、今回の公表に至りました。

 避難住民の中には、できるだけ早く帰還して生活再建を希望する者や、新たな土地に移住することを選択する者など、様々な立場や考え方があり得ます。それを前提として、賠償が個人の判断・行動に影響を与えるべきではないという指針における基本的な考え方に立ちつつ、帰還した上での生活再建や、新たな土地における生活の開始など、それぞれの選択に可能な限り資することが賠償の基本方針とされました。
具体的には、帰還を希望する場合も、移住を希望する場合も賠償上の取り扱いは同一とし、財物、精神的損害、営業損害、就労不能損害等幅広い損害項目について賠償金の一括払いを可能とすること等により、住民の生活再建のための十分な金額を確保するものとされています。

 「避難指示区域の見直しに伴う賠償基準の考え方」の概要は以下の通りです。

<避難指示区域における各賠償項目の考え方>
1. 不動産(住宅・宅地)に対する賠償
【基本的な考え方】
(1) 帰還困難区域においては、事故発生前の価値の全額を賠償する。
居住制限区域・避難指示解除準備区域においては、事故時点から6年で全損とし、避難指示の解除までの期間に応じた割合分を賠償する。
(2) 解除の見込み時期までの期間分を当初に一括払いをすることとし、実際の解除時期が見込み時期を超えた場合は、超過分について追加的に賠償を行うこととする。
【事故発生前の価値の算定】
(1) 土地
宅地については、固定資産税評価額に1.43倍の補正係数をかけて事故前の時価相当額を算定する。
(2) 建物
住宅については、固定資産税評価額を元に算定する方法と、建築着工統計に基づく平均新築単価を元に算定する方法を基本とし、個別評価も可能とする。
(3) 住宅の修復費用等
住宅について、早期に修繕等を行いたいという要望も強いことから、基準公表後、建物の賠償の一部前払いとして、建物の床面積に応じた修復費用等を速やかに先行払いすることとする。
【事業用の不動産等の賠償】
事業用不動産や償却資産、田畑、森林等については、その収益性は営業損害の賠償に反映することを基本とし、加えて、資産価値についても別途賠償を行うこととするが、適切な評価方法については継続して検討する。

2. 家財に対する賠償
(1) 家族構成に応じて算定した定額の賠償とし、帰還困難区域は、避難指示期間中の立入などの条件が異なり、家財の使用が大きく制限されること等から、居住制限区域・避難指示解除準備区域と比較して一定程度高くなる設定とする。
(2) 損害の総額が定額を上回る場合には個別評価による賠償も選択可能とする。


3. 営業損害・就労不能損害に対する賠償
(1) 営業損害、就労不能損害の一括払い
従来の一定期間毎における実損害を賠償する方法に加え、一定年数分の営業損害、就労不能損害を一括で支払う方法を用意する。ただし、大企業は適用対象外。
(ア) 農林業:5年分
(イ) その他の業種:3年分
(ウ) 給与所得:2年分
(2) 営業・就労再開等による収入は差し引かず
営業損害及び就労不能損害の賠償対象者が、営業・就労再開、転業・転職により収入を得た場合、一括払いの算定期間中の当該収入分の控除は行わない。ただし、大企業は適用対象外。
就労不能損害で控除を行わない収入は月額50万円を上限とする。
(3) 事業再開費用等
帰還して営農や営業を再開する場合、その際に必要な追加的費用に加え、一括払いの対象期間終了後の風評被害等についても別途賠償の対象とする。

4. 精神的損害に対する賠償
(1) 2012年6月以降の精神的損害について、帰還困難区域で600万円、居住制限区域で240万円(2年分)、避難指示解除準備区域で120万円(1年分)を標準とし、一括払いを行う。
(2) 居住制限区域、避難指示解除準備区域について、解除の見込み時期が(1)の標準期間を超える場合には、解除見込み時期に応じた期間分の一括払いを行う。その上で、実際の解除時期が標準の期間や解除の見込み時期を超えた場合は、超過分の期間について追加的に賠償を行うこととする。

<旧緊急時避難準備区域における賠償の方針>
1. 住宅等の補修・清掃費用
住宅等の補修・清掃に要する費用として、30万円の定額の賠償を行うこととし、これを上回る場合は実損額に基づき賠償するものとする。

2. 精神的損害・避難費用等の賠償
中学生以下の年少者の精神的損害について月額5万円として2013年3月分まで継続するとともに、全住民について、通院交通費等生活費の増加分として、2013年3月分までを一括して一人当たり20万円を支払うこととする。

3. 営業損害・就労不能損害の賠償
営業損害については、2013年12月分まで、就労不能損害(勤務先が避難指示区域外の場合)については、2012年12月分まで継続するとともに、一括払いの選択肢を用意する。また、一括払いの算定期間中の追加的な収入については賠償金から控除しない。

4. 早期帰還者等への精神的損害の賠償
早期帰還者・滞在者については、避難継続者との賠償の差異を解消する観点から、遡って支払いを行う。

5. 旧屋内退避区域等への対応
旧屋内退避区域及び南相馬市の一部については、避難継続者に対して2011年9月末まで精神的損害の賠償金が支払われていたことから、早期帰還者及び滞在者に対してもその間の精神的損害の賠償について遡って支払いを行う。また、家屋の賠償、営業損害等についても、旧緊急時避難準備区域の考え方に準じた扱いとする。

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中間指針第二次追補と総括基準(2012年3月14日公表分)


Q2.(紛争解決センターが策定した総括基準)
原子力損害賠償紛争解決センターは、これまでも総括基準を公表してきましたが、その後4月、7月、8月に追加した6つの総括基準はどのような内容ですか?
 

A2.
・ 東京電力の回答金額を上回る部分の損害主張のみを紛争解決センターの審理の対象とすること、
・ 東京電力が審理を不当に遅延させる態度をとった場合には和解案に年率5%の遅延損害金を付することができること、
・ 営業損害に関しては複数の合理的な算定方法が存在し、いずれを選択したとしても合理的なものと推認されること、
・ 営業損害や就労不能損害算定の際の中間収入は50万円までは非控除とすること、
・ 観光業の風評被害については、青森、秋田、山形、岩手、宮城、千葉の観光業の減収は少なくとも7割を原子力損害とすること、
・ 旧緊急時避難準備区域の滞在者慰謝料等については、指針や総括基準の慰謝料支給要件を満たさない期間の慰謝料を月額10万円としたうえで、別途生活費の増加費用の賠償を受ける場合は平成23年10月1日以降の慰謝料を月額8万円とすること
の各点が示されました。


【A2.の解説】
 紛争解決センターでは、申し立てられた案件の多くに共通する論点があることから、一貫性のある和解案を作成して申立人間の公平を確保するため、中間指針を踏まえ個別の和解仲介事件に適用するべき「総括基準」を策定しています。
この総括基準の公表により、他に同様な損害を被っている人にも賠償の可能性や範囲を知ってもらうことのほか、同一基準に基づく和解案提示の促進や、被害者と東京電力との円滑な相対交渉を促進することで、多数の賠償手続の処理に寄与することが期待されています。

 総括基準としては、初回の2012年2月14日に、@避難者の第2期の慰謝料、A精神的損害の増額事由等、B自主的避難を実行した者がいる場合の細目、C避難等対象区域内の財物損害の賠償時期、の4項目、続いて3月14日にD訪日外国人を相手にする事業の風評被害等、E弁護士費用、2項目が策定、公表されてきました。
その後、新たに2012年4月19日にF営業損害算定の際の本件事故がなければ得られたであろう収入額の認定方法、G営業損害・就労不能損害算定の際の中間収入の非控除、2012年7月5日にH加害者による審理の不当遅延と遅延損害金、I直接請求における東京電力からの回答金額の取扱い、2012年8月1日にJ旧緊急時避難準備区域の滞在者慰謝料等、2012年8月24日にK観光業の風評被害、についての総括基準が策定、公表されました。

 2012年4月19日以降に新たに公表された6つの総括基準の概要は以下の通りです。

<総括基準>
1.営業損害算定の際の本件事故がなければ得られたであろう収入額の認定方法
合理的な算定方法の代表的な例として以下のものが挙げられる。
■ 平成22年度の同期の額
■ 平成22年度の年額の12分の1に対象月数を乗じた額
■ 上記の額のいずれかの2年度分又は3年度分の平均値(加重平均を含む)
■ 各年度の収入額に変動が大きい場合は平成22年度以前の5年度分の平均値(加重平均を含む)
■ 平成23年度以降に増収増益の蓋然性が認められる場合には、上記の額に適宜の金額を足した額
■ 営業開始直後で前年同期の実績等が無い場合には、直近の売上額、事業計画上の売上額その他売り上げ見込みに関する資料、同種事業者の例、統計地などをもとに推定した額
■ その他上記の例と遜色のない方法により計算された額

2.営業損害・就労不能損害算定の際の中間収入の非控除
 営業損害や就労不能損害の算定期間中に、避難先等における営業・就労によって得た利益や給与等は、特段の事情がない限り、営業損害や就労不能損害の損害額から控除しないものとする。
原則として、一人月額50万円を越える部分に限り、営業損害や就労不能損害の損害額から控除することとする。

3.加害者による審理の不当遅延と遅延損害金
 和解の仲介手続きにおいて、東京電力が審理を不当に遅延させる態度をとった場合には、和解案に遅延損害金を付することができる。この場合、利率は民事法定利率5%の割合とし、平成23年10月1日を起算日とする。

4.直接請求における東京電力からの回答金額の取扱い
 東京電力に対する直接の請求に対して東京電力の回答があった損害項目については、紛争解決センターは東京電力の回答金額を上回る部分の損害主張のみを実質的な審理判断の対象とする。

5.旧緊急時避難準備区域の滞在者慰謝料等
 事故発生時に旧緊急時避難準備区域に居住していた者のうち、指針や総括基準に基づく慰謝料支給要件を満たさない期間がある者は、当該期間について仲介委員の定めるところにより、以下のいずれかの慰謝料を賠償する。
■ 平成23年3月11日〜平成23年9月30日まで 月額10万円
 平成23年10月1日以降 月額8万円
 この基準による場合は生活費の増加費用は含まれず、別途賠償を受けることができるものと扱う。
■ 平成23年3月11日以降 月額10万円
 この基準による場合は当該期間中の生活費の増加費用の全額が当該慰謝料に含まれているものと扱う。

6.観光業の風評被害
 青森県、秋田県、山形県、岩手県、宮城県、千葉県の観光業において事故後に発生した減収等の損害については、少なくともその7割(修学旅行、スキー教室、臨海学校、林間学校等は全部)が原子力事故による損害と認められる。

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