■シリーズ「あなたに知ってもらいたい原賠制度」【44】


イギリスの原子力開発事情と原賠制度
 今回は、米国に次いで世界で2番目に原子力損害賠償制度を法制化したイギリスの原子力開発事情と原賠制度についてQ&A方式でお話します。

Q1.(イギリスの原子力開発事情)
イギリスの原子力開発はどのような状況ですか?

A1.
・ イギリスは1950年代に天然ウランを燃料とするガス冷却炉を自主開発して導入し、現在、ガス炉16基、加圧水型炉1基の合計17基1149.2万kWの原子力発電所が運転されています。
・ 17基あるイギリスの原子炉のうち15基はフランス電力の現地法人が所有していますが、運転は別の会社が行っています。
・ イギリスでは原発の新規建設が凍結されたこともありましたが、北海ガス田の枯渇や地球温暖化問題を背景として2008年以降は新規建設を促進する政策が採られており、複数の事業者が具体的な新規建設計画案を提示しています。
・ なお、1957年に発生したウィンズケール1号炉の火災事故は国際原子力事象評価尺度(INES)でレベル5に相当し、イギリス史上最悪の原子力事故とされています。


【A1.の解説】
 原子力開発初期の1950~60年代には、イギリスはウラン濃縮や重水濃縮のプラントを持っていなかったことから、軽水炉や重水炉ではなく、天然ウランを燃料とする黒鉛減速炭酸ガス冷却型炉(GCR)を商業用に開発し実用化しました。その後1960~70年代に改良型ガス冷却炉(AGR)を開発し、現在はガス炉16基、加圧水型軽水炉(PWR)1基の、合計17基1149.2万kWの原子力発電所が運転されており、原子力の比率は総発電量の15%程度を占めます。

 イギリスでは電力自由化によりM&Aが活発化した結果、17基のうち15基の原子炉(AGRの全基)をフランス電力の英国法人であるEDFエナジー社が所有しており、その運転はブリティッシュ・エナジー社の子会社であるBEジェネレーション社が行っています。

 1986年に発生したチェルノブイリ原発事故をきっかけとしてイギリスでは原子力開発に消極的な立場が取られ、新規原子力発電所の建設が凍結されたこともありました。しかし、北海ガス田の枯渇や地球温暖化問題を背景として2008年1月に「民間事業者が競争原理で原子力発電所を建設できるよう環境整備を行う」という原子力政策が発表され、以降は新規建設促進のための様々な制度改革が進められています。その結果、複数の事業者が具体的な新規建設計画の案を提示しており、EDFエナジー社がセントリカ社と組んで進めているヒンクリーポイントCプロジェクトでは160万kW級のEPR2基分について原子炉圧力容器鍛造契約が結ばれています。

 なお、1957年10月11日、軍事用プルトニウム生産炉であるウィンズケール1号炉(黒鉛減速空気冷却炉)において火災事故が発生しました。これにより大量の放射性物質が放出され、イギリスのみならず欧州大陸に拡散したため、国際原子力事象評価尺度(INES)はレベル5となって、イギリス史上最悪の原子力事故とされています。


Q2.(イギリスの原賠制度)
イギリスの原賠制度はどのようになっていますか?
 

A2.
イギリスの原賠制度は「1965年原子力施設法」に規定されており、原賠制度の基本的原則である無過失責任、責任集中、責任限度額、賠償措置、国家補償などが網羅されています。
・ イギリスの原子力事業者の責任限度額は1億4000万ポンドであり賠償措置額も同額です。免責事由は戦闘上の敵対行為に起因する場合に限られており、自然災害に関してはいかなるものも免責とはなりません。
・ イギリスはパリ条約、ブラッセル補足条約に加盟しており、パリ条約加盟国でない国に対しては、当該施設法に基づく原子力損害の賠償は行われないことになっています。


【A2.の解説】
 イギリスの原子力安全規制については、原子力施設に関して1946年に制定された「原子力法」を基本とし、実質的な安全規制においては原子炉の設置、運転等の規制を定めた1965年の「原子力施設法(NIA65)」及び安全規制機関の設置・権限等を定めた1974年の「労働保健安全法(HSWA74)」に基づいて実施されています。その他の関連法として、「放射線防護法(1970年)」、「放射性物質法(1993年)」、「電離放射線規則(1999年)」、「原子力セキュリティ規則(2003年)」等があります。
 イギリスは米国に次いで世界で2番目に原子力損害賠償に関する法制度を作った国です。イギリスの原賠制度は1959年7月9日に成立した「原子力施設(許可及び保険)法」(1960年4月1日施行)において、原子力施設と核物質の取り扱いに関する許認可とともに規定されました。この法律はパリ条約とブラッセル補足条約を批准するに当たって1965年8月5日に大幅に改正されて「1965年 原子力施設法」(1965年12月1日施行)となり、その後も責任限度額等の見直しなどが行われています。

 1965年原子力施設法は原子炉等の原子力施設の設置、運転等の規制を定めたものですが、そのうち原子力賠償責任に関する事項は、第7〜11条において“原子力事故により何人にも原子力損害を与えないことは被許可者の義務である”と規定した上で、第12〜14条にその義務違反に対する賠償請求権を定めています。また、第15〜17条には賠償請求に関する事項、第18〜21条には賠償の保証に関する事項が規定されており、原賠制度の基本的原則である無過失責任(7条)、責任集中(12条)、責任限度額(16条)、賠償措置(19条)、国家補償(16条、18条)などが網羅されています。

 イギリスの責任限度額は1億4000万ポンドであり賠償措置額も同額となっています。免責事由は戦闘上の敵対行為に起因する場合に限られており、自然災害に関してはいかなるものも免責とはなりません(13条)。請求権の消滅時効は原子力事故が起こった日から30年、盗難・紛失等が起こった日から20年とされています(15条)。請求額が責任限度額を超える場合や、責任保険の請求権が消滅する10年経過後の請求、盗難・紛失等から20年経過後の請求、被許可者に責任がない輸送手段への損害に対する請求等については、政府に請求を申し立てることができます(16条)。なお、原子力事故が起きてから一定の期間内に一定の地域に居たことを証明できるような登録措置(23条)も規定されています。

 イギリスの制度(本施設法に基づく限りでは)はパリ条約の加盟国でない国で発生した原子力損害について補償しないことになっており、また、パリ条約加盟国の外国原子力事業者によりイギリス国内で発生した原子力損害についてはイギリスの制度が適用されますが、当該国の法律で定める範囲を限度とすることが規定されています(17条、21条)。

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○ 原産協会メールマガジン2009年3月号〜2012年10月号に掲載されたQ&A方式による原子力損害賠償制度の解説、「シリーズ『あなたに知ってもらいたい原賠制度』」を冊子にまとめました。

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