■シリーズ「あなたに知ってもらいたい原賠制度」【47】
諸外国の原賠制度の特徴(3)
諸外国の原賠制度の特徴についてQ&A方式でお話します。
Q1.(原子力事業者の責任制限)
諸外国においても我が国と同様に、原子力事業者は無限に原子力損害の賠償責任を負うのでしょうか?
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A1. ・ 全ての国の原賠制度が無限責任を採用しているわけではありません。
・ 無限責任制を採用する国の例として、我が国の他にドイツやスイスが挙げられます。
・ しかし、他の多くの国の原賠制度では原子力事業者の賠償責任に一定の限度を設けており、世界的に見れば、むしろ責任制限は原賠制度の基本的な原則の一つとなっています。
・ なお、原子力損害賠償に関する国際条約には責任制限に関する一定の基準が規定されています。
【A1.の解説】
我が国の「原子力損害の賠償に関する法律」(原賠法)では、原子力事業者の責任制限についての規定がないことから、原子力事業者は無限に責任を負うこととなりますが、このような無限責任制を採用する国は、他にドイツやスイスなど極めて少数です。我が国の場合と違いドイツやスイスにおいては、原子力事業者の責任が無限であることを法律に明記しています。
一方、その他多くの国においては原子力事業者の賠償責任に一定の限度を設けています。原賠制度は原子力黎明期の米国において原子力の平和利用を進める際に、巨額の賠償負担は民間企業には負いきれないと判断した民間側の強い要請により1957年に世界で初めて制度化されました。それ以来、原子力事業者の責任制限は原賠制度の基本的な原則の一つとして世界中で採用されています。
我が国においても制度導入時に責任制限の採用が検討されたことがありましたが、原子力損害が一定額を超えた場合であっても第三者である被害者に対して国が無制限に補償するような制度を創設することは制度設計上、また財政的にも難しい反面、被害者の保護に万全を期さなければ原子力産業は安定成長できないという考えが強く指摘されたことから、責任制限の導入は見送られました。
1つの原子力事故に対する原子力事業者の責任制限額は、最も高額な米国では125億9448万ドル(約1兆68億円)に設定されていますが、パリ条約の加盟国である原子力大国のフランスでは約9147万ユーロ(約98億円)、同じくイギリスでは1億4000万ポンド(約181億円)、ウィーン条約の加盟国であるロシアでは条約の規定額である500万米ドル(1963年4月29日の金による米ドルの価値としての500万米ドル:約204億円)と規定されており、また我が国近隣の中国では3億元(約38億円)、韓国では3億SDR(約369億円)と規定されています。
なお、原子力損害賠償に関する国際条約には責任額に関する規定があり、その額はパリ条約では1事故あたりの最高責任額を1500万SDR(約19億円)、ウィーン条約では同じく責任額を最低500万米ドル(1963年4月29日の金による米ドルの価値としての500万米ドル:約204億円)、改正ウィーン条約及びCSCでは同じく責任額を最低3億SDR(約369億円)、改正パリ条約では同じく責任額を最低7億ユーロ(約724億円)としています。
Q2.(責任限度額を超過した場合の補償)
諸外国が設定する責任限度額を超える原子力損害が発生した場合、被害者はどのように救済されますか?
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A2. ・ 責任限度額を超過する損害が発生した場合、国家がさまざまな方法で被害者を救済することが原賠制度の基本的な原則の一つとなっています。
・ 救済の具体的な方法としては、国家による補償、事業者等の基金による補償、国家による被害者への公平な配分など、国によって異なります。
・ 他方、無限責任を規定するドイツやスイスにおいて賠償資金を超える損害が発生した場合には国が配分方法を決定することが規定されています。
【A2.の解説】
我が国の原賠制度は原子力事業者が無限に責任を負う仕組みになっていますが、多くの国においては原子力事業者の賠償責任を一定限度に制限しているため、大規模な原子力事故が発生すれば損害額は責任限度額を超過してしまう可能性があります。
責任限度を超過する損害が発生した場合、国家が被害者を救済することが原賠制度の基本的な原則の一つとなっています。その救済方法は国によりさまざまであり、その例としては、国家による補償(上限のある補償、あるいは上限規定のない補償)、事業者等の基金による補償、国家による被害者への公平な配分などの方法が規定されています。
なお、我が国には原子力事業者の責任制限が規定されていませんが、損害額が賠償措置額を超え、必要と認められる場合には国が必要な援助を行うことが規定されています。福島原発事故の賠償に際して損害額が賠償措置額を大きく超えると見込まれたため、国の援助の具体的な方法としての原子力損害賠償支援機構を通じた特別資金援助の仕組みが新たに作られました。
一方、無限責任を規定するドイツやスイスでは、損害額が原子力事業者の用意できる賠償資金を超えてしまった場合には国が配分方法を決定することになっています。
諸外国における責任限度を超過する損害が発生した場合の救済方法は以下の通りです。
・ 国が補償する国(上限規定なし)
ロシア、米国、マレーシア
・ 国が一定限度まで補償する国
中国(8億元:約103億円)、フランス(3億SDR:約369億円)、イギリス(3億SDR:約369億円)
・ 事業者等の資金により基金を設けて支払う国
ベトナム(上限規定なし)、ポーランド(上限規定なし)、インド(上限3億SDR:約369億円)
・ 国が配分方法を決定する国
台湾
・ 規定がない国
韓国、インドネシア
(表をクリックすると、拡大表示されます)
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○ 原産協会メールマガジン2009年3月号〜2012年10月号に掲載されたQ&A方式による原子力損害賠償制度の解説、「シリーズ『あなたに知ってもらいたい原賠制度』」を冊子にまとめました。
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