東大他の若手研究者グループが冬季雷観測で成果、金沢市内の高校にガンマ線検出器を設置し
日本海沿岸で発生する冬の雷で2種類の放射線放出現象が引き続いて起きていることを観測した研究成果がこのほど、東京大学他、全国各地の大学・高専の若手研究者グループにより発表された。観測網の整備では石川県内の高校や企業も協力した。発表によると、2018年1月10日に金沢市内の上空を通過中の雷雲を追跡し、およそ1km離れた金沢泉丘高校と金沢大学附属高校に設置したガンマ線検出器と、富山湾沿岸部の複数個所に設置した電波アンテナによる観測結果から、継続時間の異なる「ロングバースト」、「ショートバースト」と呼ばれるガンマ線放出現象を分析したとしている。雷雲から1分間ほど発せられる微弱な「ロングバースト」の観測途中に雷放電が発生して「ロングバースト」が消失し、続いて原子核反応に由来する1秒未満の短く明るい「ショートバースト」が観測されたことから、「ロングバースト」が「ショートバースト」や雷放電そのものの発生を促進した可能性が示唆されたというもの。身近な現象にもかかわらず未だ詳細が解明されていない雷放電発生のメカニズムを知る手がかりとなりそうだ。
「雪起こし」とも呼ばれる日本海沿岸の冬の雷は、一般的な夏の雷と比べおよそ100倍の威力があり、電力設備に大きな被害をもたらすこともある。雷雲が地表近くで発達し大きなエネルギーを持つ冬の雷は、日本海沿岸以外では、ノルウェーなどでしか見られないため、自然界の高エネルギー現象を観測できる世界でも非常に限られた地域といえる。
6月24日、東大本郷キャンパスで記者発表を行った研究グループの一員である同大学院理学系研究科博士課程の和田有希さんは、2006年より進めてきた雷観測の経緯に触れた上で、冬季雷の持つ研究に適した特徴を「地上でガンマ線を検出できる。夏の雷では、山頂や航空機でしかできない」と強調した。
また、本研究の推進に際しては、学術系クラウドファンディングサイトを通じた一般市民からの資金調達や、小型・低コスト化を図る可搬型ガンマ線検出器の独自開発の他、検出器の設置で協力を得た金沢市内の高校における出前授業も行ったとしている。資金調達で音頭を取った京都大学白眉センター特定教授の榎戸輝揚氏は、「市民と一緒に科学を進めていく」というオープンサイエンスの考えを強調した。研究グループでは今後、市民サポーターを募りさらに小型・簡便化した検出器を配布し、「市民とともに」より詳細な観測を進めていくこととしている。