米国防総省のマイクロ原子炉計画が進展、原型炉建設に向け設計選定へ
15 Apr 2022
©INL
米国防総省(DOD)の戦略的能力室(SCO)は4月13日、軍事作戦用の可搬式マイクロ原子炉を設計・建設・実証するための「プロジェクトPele」が進展し、少なくとも3年間フル出力で稼働可能なマイクロ原子炉の原型炉(電気出力0.1万~0.5万kW)を、エネルギー省(DOE)傘下のアイダホ国立研究所(INL)内で建設すると発表した。
SCOが同日、原型炉建設の最終意思決定となる「決定記録書(ROD)」を発行したもので、これは米国の環境アセスメント制度における最終段階のアクション。国家環境政策法(NEPA)の下で、これまで行われていた(原型炉の建設・運転にともなう)環境影響の評価プロセスが完了したことを示している。
SCOは2021年3月、原型炉に採用する候補設計として、対象をBWXテクノロジーズ(BWXT)社の先進的高温ガス炉と、X-エナジー社の小型ペブルベッド式高温ガス炉に絞り込んだ。これらはともにSCOの技術要件を満たしているが、SCOは今春の終わり頃までに最終的な採用設計を一つだけ選定する方針である。
発表によると、この原型炉は固有の安全性を有する第4世代の原子炉として、米国内で初めて建設されるもの。世界初の第4世代炉としては、中国・山東省の石島湾で建設されていた「ペブルベッド式モジュール高温ガス炉(HTR-PM)」の実証炉(電気出力約10万kWのモジュール×2基)が2021年9月、初めて臨界条件を達成している。
また、DODの作戦活動では、年間約300億kWhの電力と一日当たり1,000万ガロン(約37,850m3)以上の燃料を必要とするが、今後この量は一層拡大していく見通しである。このような需要に応えるため、SCOは小型で安全かつ輸送も可能な原子炉でクリーンエネルギーを確保。遠隔地や厳しい環境の場所においても、長期にわたって作戦活動を維持・拡大する考えだ。
「プロジェクトPele」ではSCOが2020年3月、NEPAに基づき原型炉建設の環境影響評価を実施すると発表。これと同時に同炉の採用設計を選定するため、プロジェクトの技術要件を満たした設計について、2年計画の設計コンペを開始した。SCOはまた、同時期の連邦官報で、検討中のマイクロ原子炉はHALEU燃料(U-235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン)の三重被覆層・燃料粒子「TRISO」を用いた、先進的なマイクロ・ガス冷却炉(AGR)になると発表していた。
今回のROD発行について、SCOは「候補企業2社の契約チームによる不断の努力や、水質汚染防止法等に基づいて建設計画の審査・承認を行う米陸軍工兵隊(Corps)、およびDOEの専門家による技術支援チームの功により、確実に固有の安全性を備えた可搬式マイクロ原子炉を安全に建設・実証できる」と表明。「先進的原子炉設計は、DODや米国の商業部門にとって戦略的に大きな変革をもたらす可能性があるものの、導入に際してはさらに実際の運転条件下で実証する必要がある」と指摘している。
(参照資料:DODの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)