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世界の「環境危機時刻」が7分後退、旭硝子財団の有識者アンケートで

09 Sep 2022

「環境時計」の時刻の変化(N:アンケートの回答者数、旭硝子財団発表資料より引用)

旭硝子財団は9月8日、世界の環境問題に対する危機感を時計の針に例えた「環境危機時計」の時刻が2022年、前年より7分戻って9時35分になったと発表した。〈旭硝子財団発表資料は こちら

「環境危機時計」は、同財団が1992年より世界各国・地域の有識者らを対象に毎年実施している「地球環境問題と人類の存続に関するアンケート」の調査結果に基づき分析・公表しているもの。時計が示す「環境危機時刻」として、0時1分~3時は「ほとんど不安はない」、3時1分~6時は「少し不安」、6時1分~9時は「かなり不安」、9時1分~12時は「極めて不安」と、針が進むにつれて深刻度が増す。今回のアンケート調査は、4~5月に日本を含む202か国・地域の有識者らに調査票を送付し、127か国・地域の1,876人から回答を得た。各回答者は、自身の居住する国・地域の環境問題を考える上で、「気候変動」、「生物圏保全性(生物多様性)」、「陸域系の変化(土地利用)」、「生物化学フロー」、「水資源」、「人口」、「食糧」、「ライフスタイル」、「社会、経済と環境、政策、施策」の9項目から重要と思う3項目を選び、それぞれについて現状に相当する時刻を回答。得られた回答を分析し、各地域の「環境危機時刻」を決める。

世界各地の環境危機時刻(日本は9時33分で世界の平均レベル、旭硝子財団発表資料より引用)

世界の「環境危機時計」は、2011年以降、針が進む傾向にあったが、2020年は9時47分、2021年は9時42分、2022年は9時35分と、2年連続で針が戻っており、これは12年ぶりのこと。地域別には、2022年はアジア、オセアニアでは時刻が戻る一方、北米、アフリカ、中東、東欧・旧ソ連では時刻が進むという二極化がみられており、同財団では「現在の世界の地政学的な要因が影響している」と推察。実際、今回は、9項目の中で「社会、経済と環境、政策、施策」に係る「環境危機時刻」が9時49分(前回は9時34分)と、最も進んでいたことから、「ロシアによるウクライナ侵攻の影響が出ている」と分析している。この他、項目別には、「生物圏保全性(生物多様性)」が9時43分(同9時54分)、「気候変動」が9時40分(同9時41分)の順に深刻度が高い。

同財団では、2019年のアンケートより「環境問題への取組に係る改善の兆し」に関する調査を行っている。その中で、「脱炭素社会への転換」については、世界全体でみると、政策・法制度、社会基盤に係る取組は一般の人々が思うほど進んでいないと認識されていることが示された。一方、中国では、3年連続して政策・法制度、社会基盤の面で脱炭素社会への転換が進んでいるとの意識が強く現れていた。同国は回答者数が多く、また、9割近くが20~30代であることから、「若い世代が中国政府の環境対策を高く評価し、環境問題は良い方向に向かっていると考える人が多い」とみている。

アンケートにおける自由記述意見では、地球温暖化問題について述べたものも多く、「明確なコンセンサスがなく、どのように温暖化を解決していくのか道筋が不明」、「単に再生可能エネルギーにすべて置き換えれば済む話ではなく、ライフスタイルの転換が大きな問題」といった日本のエネルギー利用に関する指摘の他、先進国と発展途上国とのCO2排出に係る対立、人口爆発・食糧危機対策とのトレードオフ、ウクライナ情勢が気候変動対策に及ぼす影響への懸念もあった。

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