学術振興会が「エネルギー社会と原子力」でシンポ、立地地域の首長らを交え議論
25 Dec 2019
「エネルギー社会と原子力」について考えるシンポジウムが12月22日、東京大学本郷キャンパスで開催され、立地地域の首長らも交え、将来の原子力エネルギー利用のあり方について、社会的合意形成の視点などから総合的に討論した(=写真)。福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえ、技術的課題・社会的課題を抽出し調査・検討を行っている日本学術振興会「『未来の原子力技術』に関する先導的研究開発委員会」の主催によるもの。
福島県双葉町長の伊澤史朗氏、同大熊町商工会長の蜂須賀禮子氏、茨城県東海村長の山田修氏、東京大学大気海洋研究所教授の渡部雅浩氏、地球環境産業技術研究機構副理事長の山地憲治氏、元日立GEの守屋公三明氏、日本エネルギー経済研究所の村上朋子氏、原子力資料情報室共同代表の伴英幸氏、「自分ごと化会議 in 松江」共同代表の福嶋浩彦氏が登壇。
現在全域が避難指示区域となっている双葉町の復興に関して、伊澤氏は、「来春の避難指示解除に向けて16の企業と立地協定を結んだが、昨日ようやく道路建設関係の会社が操業開始したところ」と、雇用の確保とインフラ整備の重要性を示唆。2022年春の帰還開始目標に際し、「避難指示解除が遅れるほど帰還率が低くなっている」と他の自治体の状況を踏まえた上で、「『戻ってきてよかった』となるよう努力しなければ誰も戻ってこない」と、独自の町作り・魅力発信に取り組んでいく考えを強調した。
また、「花屋の母ちゃん」を自称する蜂須賀氏は、国会事故調委員の立場で現地調査に参画した経験に触れたほか、「原子力に賛成の人も反対の人も『安全であるにはどうすればよいのか』を考える契機となった」と振り返った上で、「子供たちに何を伝えていくのか」などと、事故の経験継承の重要性を繰り返し訴えた。
「東海村はこれからも原子力研究開発の中心」と自負する山田氏は、JCO事故から20年となった去る9月の「安全フォーラム」開催や、村民との「ふれあいトーク」、定例記者会見を通じた情報発信・対話活動の取組を述べる一方、防災対策に関し、東海第二発電所から30km圏内に約94万人を擁することから、「複合災害、広報体制、バスの確保など、住民の不安は解消できない」と懸念を述べた。
技術者の立場から守屋氏は原子力発電所の安全確保の仕組みを、村上氏は世界のエネルギー動向について説明。原子力発電に慎重な姿勢をとる伴氏は、立地が断念された、もしくは未着工の地点を図示し、新規立地に対する地元理解を得る難しさなどを述べた。
福嶋氏は、無作為に選ばれた住民たちが地域の課題について議論する「自分ごと化会議」を、松江市で原子力発電をテーマに実施した経験を紹介し、信頼関係や「町を自分たちで作る」意識の醸成につながったとした。
この他、地球温暖化問題の視点から山地氏が「CO2排出正味ゼロシステム」を、気象学の立場から渡部氏が今世紀末までの気候変化シミュレーションを披露。討論の中で、山地氏はスウェーデンの原子力復活やロシアの舶用炉開発の動きを、渡部氏は自然災害リスクの不確実性などをそれぞれ強調した。