インドネシア ThorCon社製SMRの導入で事前協議開始
11 Apr 2023
BAPETENとThorCon社による合意書調印 ©BAPETEN
インドネシアの原子力規制庁(BAPETEN)は3月29日、米国のデベロッパーThorCon社が開発したトリウム溶融塩炉「TMSR-500」(電気出力25万kWのモジュール×2基)の設置に向けた認可手続きの実施準備として、原子力安全と核セキュリティ、および保障措置(3S)に関する関係者との事前協議を開始した。
これは同日、BAPETENがThorCon社のインドネシア子会社であるThorConパワー・インドネシア社と交わした実施合意書に基づくもの。同協議では12か月かけて、原子力発電所の規制当局や事業者、原子力産業界等の関係者が正式な手続きの開始準備を整える。また、「TMSR-500」の建設マスター・プランを審査するとともに、関係各位の役割と責任の所在、採用設計の準備状況評価、建設スケジュール、申請用の技術文書や行政文書の書式と範囲、適用される法令と規制等を記した「ロードマップ」も作成する。インドネシア初となる「TMSR-500」の実証炉はスマトラ島の東方沖、バンカ島とビリトゥン島の間に位置するケラサ(Kelasa)島に2029年までに設置する予定で、ThorCon社は事前協議の終了後、認可申請を行う計画である。
ThorCon社はまた、将来的にインドネシアで「TMSR-500」の製造・組立ラインを設置したいと考えており、インドネシアの複数の大学に溶融塩炉技術に関するプログラムの設置を働き掛けている。このような活動を通じて、同社はインドネシア経済に新たな産業を生み出し、同国がクリーン電力に移行するのを支援していく考えだ。
「TMSR-500」は浮揚式発電所としてバージ(はしけ)に搭載される原子炉で、設置点の浅瀬まで曳航されて送電網に接続。近隣地域の電力需要を満たすことになる。「TMSR-500」の建設実現に向け、ThorCon社は2022年1月にスペインのエンジニアリング企業「Empresarios Agrupados Internacional (EAI)」を設計エンジニアリング担当に指名している。
今回の発表によると、BAPETENは前日の28日、首都ジャカルタで原子力発電所の建設認可手続きに関する委員会を開催した。海洋・投資問題調整省やエネルギー・鉱物資源省といった関係省庁、国家エネルギー委員会、国立研究革新庁(BRIN)などのほか、2019年に「TMSR-500」の研究開発・建設に関する契約をThorCon社と交わした国有の艦船建造企業PT PALインドネシア社、ThorConパワー・インドネシア社、フランスの検査認証企業ビューロー・ベリタス社等の代表者が出席した。
委員会の出席者はまず、再生可能エネルギーや原子力など新たな無炭素エネルギー源の研究開発を促進して、CO2排出量の実質ゼロ化に移行していくという同国の方針を確認。インドネシア政府は国内エネルギー・ミックスの信頼性を維持するため、原子力で2035年までに800万kW、2060年までに3,500万kWの発電設備導入を目指している。
このため、BAPETENは委員会で発電所の管理を担うすべての関係者に「TMSR-500」建設に向けた初期情報を提供。関係省庁や国有企業、民間部門、学術界、一般国民が緊密に連携し合うことによってのみ、クリーンエネルギーへの移行が成し遂げられると説明した。同委の終了時には、出席者が事前協議の実施条件や責任範囲を示した文書に調印したほか、ThorCon社が「TMSR-500」の実行可能性調査や日程に関する文書を提示した。
インドネシアでは電力需給のひっ迫等を理由に、1980年代に原子力発電の導入が検討されたが、建設予定地における火山の噴火や地震の可能性、福島第一原子力発電所事故などが影響し、100万kW級大型炉の導入計画は進展していない。一方、初期投資の小ささや電力網への影響軽減等の観点から、中小型炉への関心は維持されており、インドネシア原子力庁(BATAN)は2018年3月、大型炉導入の前段階として小型高温ガス炉(HTGR)を商業用に導入するため、熱出力1万kWの実証試験炉の詳細工学設計を開始している。
(参照資料:BAPETENの発表資料①(インドネシア語)、②、ThorCon社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月5日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)