原子力産業新聞

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都内初の陽子線がん治療が江戸川区で QST発ベンチャー

12 Apr 2023

基本契約締結調印式の模様(左より、仁生社・加藤理事長、江戸川病院・加藤院長、ビードットメディカル・古川社長、ビードットメディカル発表資料より引用)

「切らずに治せる」非侵襲的な治療法として注目される粒子線がん治療の都内初となる装置導入が具体化している。量子科学技術研究開発機構(QST)発ベンチャー企業のビードットメディカルと社会福祉法人仁生社が取り組む「東京江戸川がんセンター構想」のもと、江戸川メディケア病院(江戸川区)への設置が計画される超小型陽子線がん治療装置だ。〈ビードットメディカル発表資料は こちら

ビードットメディカルと仁生社・江戸川病院グループは4月3日、「東京江戸川がんセンター構想」の実現に向け、基本契約締結の調印式を行った。ビードットメディカルとこれまでも先端医療技術を採り入れてきた仁生社・江戸川病院はともに江戸川区内に所在し、2022年12月に、ビードットメディカル製の超小型陽子線がん治療装置の導入に関する基本合意を締結。地元を起点として他県まで通院する必要のない「都市型の陽子線治療装置」による治療を多くの患者に提供すべく取り組んでいる。

医用原子力技術研究振興財団によると、国内には現在、粒子線がん治療施設が25か所(重粒子線:7か所、陽子線:19か所、両者併設含む)あり、東京近郊では、直近で、2022年1月に湘南鎌倉総合病院先端医療センター(神奈川県鎌倉市)で陽子線治療が開始された。陽子線治療は、QST病院(千葉市)などで既に多くの治療実績を持つ重粒子線治療と比べ、例えば肝臓がんでみた場合、3年の生存率で重粒子線73%(QST病院)に対し陽子線57%(筑波大附属病院)と、治療成績はやや劣る。一方で、陽子線治療は、機器配置の最適化などを図ることで、都市部での限られた敷地面積の縮小を図り、設置に要するコスト・期間を抑えることが可能だ。

現状、設置に100億円以上のコストを要する重粒子線治療に関しては、QSTを中心に10年程度先の実用化を目指した装置小型化のプロジェクトが進められている。ビードットメディカルでは、「がんの診断時に収入のある仕事をしていた人は44%、治療で退職・休職した人は7割。いかに大切な日常を大きく変えることなく、高いQOLを維持しながら治療できるか」を理念に掲げ、陽子線治療装置の早期・大幅普及を目指し技術開発に取り組み、従来のX線治療装置と同程度のサイズまでの小型化を可能とする独自技術「非回転ガントリー」を考案。超小型陽子線がん治療装置の実現に向けて要素技術開発、原理実証を進めてきた。

基本契約締結の調印式を受け、同社の古川卓司社長は、「都内最初の陽子線治療の実現を含む『東京江戸川がんセンター構想』のチャレンジに参画できることは大変光栄」とコメント。江戸川病院の加藤正二郎院長は、「希望する誰もが先進的な高度がん治療を受ける環境の実現を目指している。より低侵襲で治療効果の高い幅広い治療を提供したい」と話している。

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