「エネ投資の2/3が原子力含むクリーンエネに」IEAレポート
01 Jun 2023
©IEA
国際エネルギー機関(IEA)は5月25日、エネルギー部門に対する世界的な投資動向を分析した報告書「世界エネルギー投資(World Energy Investment)」を公表。2023年に全世界で予想されるこの部門の総投資額約2兆8,000億ドルのうち、約3分の2に相当する1兆7,000億ドル以上が、原子力を含むクリーン・エネルギー技術に投資されるとの見通しを明らかにした。
IEAがクリーン・エネルギー関連に区分した技術は、太陽光などの再生可能エネルギーや原子力のほか、電気自動車、送電網、電池貯蔵、低炭素燃料、エネルギー効率の改善、ヒートポンプなど。残りの1兆ドル強が石炭や石油、天然ガス等への総投資額となる。世界的なエネルギー危機を引き金とする供給保証や価格高騰への懸念が、化石燃料への投資を大幅に上回る金額を持続可能なオプションであるクリーン・エネルギー関連技術に投入させている。年間投資額は、電気自動車や再エネへの投資拡大等により、2021年から2023年の間に24%増加する一方、同じ時期の化石燃料投資の増加率は15%に留まるとした。ただし、この増加分の90%以上が経済先進国と中国におけるもので、その他の国でクリーン・エネルギーへの移行が勢いを増さなければ、世界のエネルギー市場は新たな分断を生む深刻なリスクにさらされると指摘している。
クリーン・エネルギーに対する近年の投資拡大の背景には様々な要因があり、IEAは例として安定した経済成長や不安定な化石燃料価格などを指摘。化石燃料価格の乱高下は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻後は特に、エネルギー供給への不安要因となっている。また、米国での「インフレ抑制法」に基づくクリーン・エネルギー支援政策や、欧州、日本、中国その他の国における同様のイニシアチブも大きく作用した。
IEAのF.ビロル事務局長は、「多くの人々の実感よりも迅速にクリーン・エネルギーの普及が進んでおり、このことは投資の傾向が化石燃料から遠ざかり、クリーン・エネルギーに向かっていることからも明らかだ」と表明。「5年前に1対1だった双方の投資比率は、今や化石燃料への投資額1ドルに対しクリーン・エネルギーは約1.7ドルになった」と述べ、典型的な例として太陽光発電への投資額が石油生産に対する投資額を初めて上回るとの予測を示した。IEAによると、太陽光をはじめとする低炭素発電技術への投資額は、発電部門の総投資額の約90%に達する見通し。電気自動車の今年の販売台数は、前年実績から約30%増加すると見ている。
原子力に関しては、IEAは経済先進国と中国を中心に投資額が上昇している事実に言及。福島第一原子力発電所事故から10年以上が経過し、原子力発電所の生み出す低炭素電力や出力調整が可能という特長から、新たな視点で見直す国が増えつつあるとした。アジア地域では多くの国が再エネと原子力への支援政策を打ち出しており、日本では既存炉の稼働年数を60年以上に延長する法案が審議されている。韓国では「第10次電力需給基本計画」の中で、原子力発電シェアを2036年までに約35%に拡大することが盛り込まれた。新興国や開発途上国の中では、インドネシアとベトナムがCOP26で立ち上げられた国際協力枠組みの「公正なエネルギー移行パートナーシップ(JETP)」に加わっており、化石燃料から再エネへの移行を加速している。
一方IEAによると、大型原子力発電所の建設計画に対する「最終投資決定(FID)」は、2021年実績の600万kW分が400万kW分に減少した。中国では2022年も新規原子力発電所の建設拡大を継続したものの、大型水力発電所に対する建設投資額の方がこれを大きく上回ったとしている。
(参照資料:IEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月26日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)