原子力産業新聞

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スタートアップ企業がSMRで熱供給目指す フィンランド

28 Jun 2023

「LDR-50」の構造図 ©VTT

フィンランドのステディ・エナジー(Steady Energy)社は627日、小型モジュール炉(SMR)を活用して地域熱暖房プラントを建設するため、約200万ユーロ(約31,500万円)の研究開発資金を調達したことを明らかにした。

ステディ社は、フィンランド国営の「VTT技術研究センター」からスピンアウトしたばかりのスタートアップ企業。今回の設立資金は、VTTのほか投資会社のYes VC社とLifeline Ventures社が提供した。また、ステディ社の今回のプロジェクトは、VTTの持つノウハウの商業化に際し起業支援を行っているスピンオフ企業、VTTローンチパッド(VTT LaunchPad)社のプロジェクトの一部である。ステディ社は、VTT2020年から開発中のSMRLDR-50」(熱出力5kW)を複数基備えた熱暖房プラントを2030年までに完成させ、地域熱供給業を手始めに、その他のエネルギー集約型の産業を脱炭素化していく考えだ。

ステディ社の計画ではまず、熱暖房プラントの実物大モックアップ(電気加熱式)を作製して、その機能を実証する。その後、顧客のニーズに合わせてビジネス・モデルを作成しプラント供給を開始、将来的には世界中で複数のプラントを運転する方針だ。

LDR-50」の原子炉モジュールは二つの圧力容器を「入れ子」状に組み合わせた構造で、これらの隙間の一部に水を充填。熱交換器の熱除去機能が損なわれた場合、この水が沸騰し始めて受動的な熱伝導ルートを形成、電動機器に頼らず効率的に熱を除去することが出来るという。また、同炉の稼働条件は温度が約150°C、圧力は10バール以下と大型炉より緩やかで、設計を簡素化し、厳しい安全基準をクリアしている。

ステディ社によると、10バール以下の圧力は一般家庭にあるエスプレッソ・マシンと同程度で、既存の地域熱供給ネットワークよりも低い。このため、リークにつながる故障が内部機器で発生した場合でもプラント外にリークする恐れはなく、周辺住民や環境は保護される。

また、欧州連合(EU)域内の世帯が消費するエネルギー全体の約50%が暖房用で、年間の総消費量は約5,000kWh。このうち約3,000kWhが化石燃料発電起源のため、欧州の地域熱暖房を脱炭素化するだけで数千億ユーロ規模の成長市場が見込まれるほか、温室効果ガス排出量の大幅な削減につながると同社は強調している。

ステディ社のT.ナイマンCEOは、「この惑星を守り健全な地球を後の世代に残していくには、化石燃料の燃焼による暖房をすべて終わらせねばならない」と指摘。「再生可能エネルギーに加えて、原子力を活用することで熱やエネルギーが安定供給され、近代的な社会のニーズに応えるとともに地球温暖化への対処も可能になる」としている。

(参照資料:VTTの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNA627日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)

 

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