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文科省「SPring-8」の高度化で報告書

09 Aug 2023

「SPring-8」全景

文部科学省は8月8日、大型放射光施設「SPring-8」(理化学研究所運営、兵庫県佐用町)の高度化に関する報告書を取りまとめ発表した。老朽化対策や技術革新の進展などに対応し、施設の高度化を推進すべく、山本左近・文部科学大臣政務官を座長とし関係部局の行政官で構成されるタスクフォースで5月より検討を行ってきたもの。

「SPring-8」は、光速近くまで加速した電子の進行方向を曲げたときに発生する極めて明るい光「放射光」を用いて、物質の原子・分子レベルの構造や機能を解析する世界最高性能の研究基盤施設で、1997年に供用を開始し、生命科学、環境・エネルギー、新材料開発など、様々な分野で革新的な研究開発に貢献している。

報告書では、次世代半導体の量産やGX(グリーントランスフォーメーション)社会の実現など、国内外で大型放射光施設の利用が大きな契機を迎える2030年から先の社会・産業を見据え、「今、『SPring-8』を高度化した『SPring-8-Ⅱ』は待ったなしのタイミング」と強調。運転開始から25年が経過し、運転・保守に係るコストの年々増加している一方、欧米・中国など、海外における大型放射光施設の躍進から、「このまま陳腐化すると、わが国の研究者は海外施設に頼らざるを得ず、施設利用に際し他国に研究内容を開示する結果になる」と、「SPring-8」の将来を懸念。その上で、「放射光の輝度を約100倍に向上させ、高精細なデータが短時間で取得可能にすることが必須」と、アップグレードの必要性を指摘し、2024年度から所要の取組を進めるべきと述べている。

さらに、「SPring-8」の高度化が5年、10年遅れた場合の逸失コストを、それぞれ74億円、211億円と試算。技術伝承・人材育成の観点からも高度化を先送りすることは大きな損失となるとしている。「SPring-8」の整備・共用について、文科省は例年、約100億円の予算を計上。安定的な運転の確保、利用環境の充実化に努めてきた。

「SPring-8」の総累計利用者数は約30万人、同施設を利用した研究論文は累計で約2万件に上り、小惑星探査機「はやぶさ」が採取した試料の解析もその一つだ。また、共用ビームラインにおける全実施課題で産業利用の割合は約2割を占めている。「SPring-8」を利用した製品開発の例としては、GX社会実現のもと、さらなる普及が見込まれる燃料電池車から、コンタクトレンズに至るまで大小多岐にわたり、特に身近なものではヘアケア製品が注目される。古代からの整髪剤、既婚女性の風習だったお歯黒の原料として知られる米のとぎ汁が含む糖質「イノシトール」の予防美髪効果を放射光分析で解明し開発した量販品シャンプーのほか、植物性オイルの毛髪浸透をミクロレベルで可視化した研究成果を応用した美容室専売品もある。

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