米政府のクリーン水素ハブ計画に原子力も加わる
20 Oct 2023
「地域水素ハブ」の設計見本 ©DOE Office of Clean Energy Demonstration
米エネルギー省(DOE)は10月13日、「地域のクリーン水素製造ハブ(Regional Clean Hydrogen Hubs: H2Hub)」プログラムで全米から7地域の水素製造ハブを選定し、それぞれに約10億ドルずつ合計70億ドルの支援金を提供すると発表した。
クリーン・エネルギーの製造関係では最大規模となるこの投資を通じて、DOEは原子力等のクリーン電力で製造した水素経済の確立に向け、官民全体で総額500億ドル規模の投資を促す方針。同プログラムで選定した7地域の水素製造ハブでは、高サラリーの雇用が数千人規模で生み出されるほか、米国全体のエネルギー供給保障の強化や地球温暖化への対応にも貢献すると強調している。
米国のJ.バイデン政権は2035年までに発電部門を100%脱炭素化し、2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化することを目標に掲げている。産業部門の革新的な技術を用いたクリーンな水素の製造は、これに向けた戦略の一つであり、2021年11月に成立した「超党派のインフラ投資・雇用法」に基づくもの。水素の製造ハブ用に拠出される80億ドルのうち、70億ドルがDOEの「H2Hubプログラム」に充当されており、DOEは2022年11月に同プログラムへの応募を全米の水素製造団体に呼び掛けた際、国内の6~8か所にクリーンな水素の製造ハブを設置し、各地域における水素の製造者と消費者、接続インフラを結ぶ全国ネットワークの基盤を構築すると表明していた。
今回DOEが決定した7地域の水素製造ハブは、イリノイ州とインディアナ州およびミシガン州をカバーする「中西部水素ハブ(MachH2)」や、ミネソタ州とノースダコタ州およびサウスダコタ州の「ハートランド水素ハブ(HH2H)」、ペンシルベニア州とデラウェア州およびニュージャージー州の「中部大西洋岸水素ハブ(MACH2)」、など。
これらにより、DOEは低コストでクリーンな水素の製造施設が商業規模で設置されるよう促し、7ハブ全体で年間約300万トンのクリーン水素を製造するとともに、毎年2,500万トンのCO2排出を抑制する。これは550万台のガソリン車の年間排出量に相当する。
中西部の「MachH2」には、米国最大の無炭素電力の発電企業であるコンステレーション・エナジー社をはじめ、水素バリューチェーンの各段階に係わる官民の70社以上が参加。同社はDOEから提供される支援金を用いて、イリノイ州の「ラサール・クリーン・エナジー・センター」にラサール原子力発電所(BWR×2基、各117万kW)のクリーン電力を活用した世界規模のクリーン水素製造施設を建設する。同施設の建設に必要な約9億ドルの一部をカバーできる見通しで、完成すれば年間33,450トンのクリーン水素を製造可能だと強調している。
コンステレーション・エナジー社はすでに今年3月、ニューヨーク州で保有するナインマイルポイント原子力発電所(BWR×2基、60万kW級と130万kW級)で、米国で初となる水素製造の実証を開始。1時間あたり1,250kWの電気から、一日当たり560kgの水素を製造している。ラサール水素製造施設では、この実証製造で得られた知見を生かす方針である。
また、「HH2H」には、電力・ガス会社を傘下に置く持株会社のエクセル・エナジー社が参加しており、DOEの発表同日、「既存の原子力発電所や太陽光、風力発電設備を活用してクリーン水素を製造する」と表明。同社はミネソタ州で、モンティセロ原子力発電所(BWR、60万kW)とプレーリーアイランド原子力発電所(PWR×2基、各55万kW)を所有・運転中で、交渉次第ではDOEの支援金の大半を受け取れるとの見通しを示した。
このほか、中部大西洋岸地域の「MACH2」も、再生可能エネルギーや原子力の電力を活用して製造したクリーン水素で、同地域の脱炭素化を加速する考えを表明している。
(参照資料:DOE、コンステレーション・エナジー社、エクセル・エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月17日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)