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フィリピン 米USNC社製マイクロ原子炉の建設を検討

17 Nov 2023

USNC社とメラルコ社による協力協定の締結
©Ultra Safe Nuclear Corporation

米国でモジュール式マイクロ原子炉(MMR)を開発中のウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)は1115日、フィリピンで1基以上のMMRを建設する可能性を探るため、同国最大の配電会社であるマニラ電力(通称メラルコ社)と協力協定を締結した。

MMRを組み込んだエネルギー供給システムの建設がフィリピンの環境と社会に及ぼす影響や、技術面と立地面の要件、商業的な実行可能性などを予備的に調査するのが目的。商業炉を持たない同国で先進的原子炉技術の導入を促し、同国の長期的なエネルギー安定供給と供給源の多様化に貢献していく考えだ。

フィリピンでは、1976年にバターン半島で着工した米国製の60kWPWR1985年に9割がた完成したものの、チェルノブイリ事故の発生を受けて、当時のアキノ政権はその安全性と経済性を疑問視。運転認可を発給しなかった。

今回の原子力導入に向けたメラルコ社の動きは、同社の長期的持続可能性戦略の一部であり、MMRのような次世代エネルギー供給システムを採用することで、同社はクリーン・エネルギーへの移行を加速。同社はまた、近年「フィリピン人学者とインターンのための原子力工学プログラム(FISSION)」を開始しており、原子力工学の高度な教育・訓練を通じて、技術分野や規制分野の人材を育成するとしている。

USNC社によると、今回の協定締結は今年8月に両社が結んだパートナーシップに基づくもので、同協定の下でUSNC社は約4か月かけて事前の実行可能性調査を実施する。MMRによるエネルギー供給システムの詳細や、同システムをフィリピンで効果的に活用する方法などをメラルコ社に説明するとしており、メラルコ社はこの調査結果を土台として、MMR建設プロジェクトの実施に向けた詳細な調査活動や、特定したサイトでのプロジェクト開発について重要な判断を下すことになる。また、建設資金の調達についても評価が行われる予定で、調査の結果次第で同計画は詳細な実行可能性調査に移行する可能性がある。

協力協定は、第30回アジア太平洋経済協力会議(APEC)非公式首脳会議が米サンフランシスコで開催されたのに合わせ、メラルコ社のM.V.パンギリナン会長兼CEOUSNC社のF.ベネリCEOが調印。これには20225月のフィリピン大統領選前から、同国初の原子力発電所建設に意欲を示していたF.マルコス大統領も同席した。

USNC社のMMR(電気出力0.5万~1kW、熱出力1.5kW)は、ヘリウムを冷却材に使用する第4世代の小型モジュール式高温ガス炉。同炉を使ったエネルギー供給システムでは、最大4.5kWの熱を熱貯蔵ユニットに蓄え、これを従来のタービン方式で電気に変換するという。

USNC社は米国内で今後、MMRの許認可手続きを円滑に進められるよう、すでに米原子力規制委員会(NRC)と事前の協議を始めている。また、カナダ原子力研究所のチョークリバー研究所内でMMR初号機を建設するため、同社とカナダ・オンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社の合弁事業体であるグローバル・ファースト・パワー(GFP)社は20193月、「サイト準備許可(LTPS)」をカナダ原子力安全委員会(CNSC)に申請した。

MMRで使用する3重被覆層・粒子燃料(TRISO燃料)については、USNC社は20228月、この燃料を使って「完全なセラミック・マイクロカプセル化(FCM)燃料」を製造するパイロット施設(PFM)をテネシー州のオークリッジにオープン。その後、同社は今年1月に、TRISO燃料とFCM燃料ペレットを商業規模で製造する合弁事業体の設立に向け、仏フラマトム社と予備的合意文書を交わした。6月には、PFMで製造したTRISO燃料を米航空宇宙局(NASA)の「宇宙探査用原子力推進(SNP)プログラム」用に納入している。

(参照資料:USNCの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNA1116日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)

 

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