原子力産業新聞

海外NEWS

スウェーデン政府 今後の大規模原子力開発に向け調整役を任命

12 Jan 2024

大野 薫

国家原子力発電コーディネーターに就任したC. ベルグロフ氏

スウェーデンのE. ブッシュ・エネルギー・ビジネス・産業大臣兼副首相は14日、同国の原子力発電拡大計画を始動するにあたり、国家原子力発電コーディネーター(調整役)にスウェーデン原子力協会事務局長のC. ベルグロフ氏を任命したと発表した。同氏は今後、政府の原子力発電牽引、加速の中心的役割を担う。また、進捗のフォローアップや分析により、必要な対策を検討していくほか、立地地域のステークホルダーとのコミュニケーションを図る役割も期待されている。就任は2月1日付。

スウェーデンでは20229月に総選挙が行われ、翌10月、40年ぶりに原子力を全面的に推進する中道右派連合の現政権が新たに誕生した。そのスウェーデン政府は202311月、原子力発電の大規模な拡大をめざすロードマップを発表。これには、非化石燃料による電力を競争力のある価格で安定的に確保し、社会の電化にともない総発電量を25年以内に倍増させるため、2035年までに少なくとも大型原子炉2基分の原子力発電設備を完成させ、さらに2045年までに大型炉で最大10基分相当の原子力発電設備を追加することなどが盛り込まれている。また今月1日には、環境法の一部改正法が発効、新たなサイトでの原子炉の建設禁止や国内で同時に運転できる原子炉基数を10基までとする制限事項が撤廃されるなど、原子力推進に向けた環境整備が着々と進められている。

今回、国家原子力発電コーディネーターに任命されたベルグロフ氏は、スウェーデンのエネルギー貿易協会であるSwedenergyのシニア原子力アドバイザーであり、2017年から原子力産業政策協力グループであるスウェーデン原子力協会の事務局長を務めている。同氏はストックホルムのスウェーデン王立工科大学で原子炉物理学の博士号を取得し、国営企業のバッテンフォール社で6年間、原子力発電所の運転と新規建設準備に従事した経験を持つ。また、昨年4月に開催された日本原子力産業協会の56回原産年次大会にもスピーカーとして参加している。

ベルグロフ氏によると、スウェーデンが原子力推進に舵を切る背景には、気候変動や脱炭素化の世界的な潮流に加え、2015年以降に国内4基の原子炉が閉鎖されたことによる、電力価格の高騰と発電設備容量の不足、そしてロシアによるウクライナ侵攻に端を発するエネルギー危機などが影響しているという。気候変動や電化に対する野心的な目標が掲げられるなか、自ずと原子力の役割が明確になり、原子力に対する国民の支持もこれまで以上に大きくなったと指摘する。同氏らが行った世論調査によると、回答者の59%が新規建設を支持する一方、原子炉の段階的廃止に賛成する割合は過去最低の8%に低下。この強い世論の支持が、原子力をめぐる政治的転換の大きな要因となったと分析している。

ベルグロフ氏は今回の任命について、原子力分野における自身のキャリアをふまえ、「準備は整っている。これまで培ってきた知識やネットワークを生かし、この難しいタスクに取り組んでいく」と意気込みを語った。

cooperation