欧州の原子力企業7社、EUのタクソノミー報告に対し原子力の評価で専門家Grの設置要請
19 Mar 2020
©EC
欧州委員会(EC)の持続可能な金融に関する技術専門家グループ(TEG)は3月9日、2050年までに気候中立(CO2排出量が実質ゼロ)を達成するための行動計画で、中心となるグリーン事業の分類(タクソノミー)を最終報告書(=写真)で公表した。しかし、原子力を同タクソノミーに含めるべきとの勧告がなかったことから、チェコ電力公社(CEZ)など欧州で原子力発電所を操業する電気事業者など7社は12日に声明文を発表し、CO2を出さない原子力が持続可能な電源であると適切に評価されるよう、科学者など独立の立場の専門家グループを設置することをECに要請した。
EUタクソノミーは見せかけの環境配慮を装った事業を廃し、環境上の持続可能性を満たす真にグリーンな事業に正しく投資が行われるよう、明確に定義づけるための枠組。今回の報告書でTEGは、原子力を付属文書中の1項目として取り上げており、まず「発電中にCO2をほとんど排出しない原子力発電は気候変動の影響緩和に貢献し得るため、TEGはこの観点から原子力を検討した」と述べた。
グリーン事業をタクソノミーに含める重要な基準として、TEGは「環境への十分な貢献」と「(資源循環や生態系といった)他の環境分野に悪影響を及ぼさないこと(DNSH)」の2点を設定。「原子力で環境上かなりの貢献が可能になるという証拠は明確かつ広範囲に及び、低炭素なエネルギー供給で原子力が果たす潜在的役割もデータ等で十分に裏付けられている」とした。
しかし、放射性廃棄物の管理などで他の環境分野に悪影響が及ばないかという点について、TEGは原子力関係の証拠は非常に複雑で評価が難しいと指摘。原子力利用の全体体系が生態系等に及ぼすリスクに関しては、ピアレビューの結果や科学的な証拠を入手するとともに、悪影響を抑える先進的リスク管理の手続や規制についても証拠を得ている。しかし、TEGは高レベル放射性廃棄物深地層処分場の例を挙げ、現状ではまだ世界のどこにも安全で長期的に利用可能な地下処分場が存在していないなど、実験等に裏付けられた確固たるデータが不足していると述べた。
このためTEGとしては、原子力の全体体系が環境に深刻な悪影響を及ぼさないと結論付けることはできず、現段階で原子力をタクソノミーに含めるよう勧告することはできないが、今後、原子力技術や環境影響について深い専門知識を有するグループが、原子力について一層幅広い技術評価を実施することを推奨するとしている。
これに対してCEZは、仏国のフランス電力(EDF)とオラノ社、フィンランドのフォータム社、ルーマニアの国営原子力発電会社(SNN)、ポーランドの国営エネルギー・グループ(PGE)、スロバキア電力(SE)社とともに欧州の主要エネルギー企業が直面する課題に挑戦し、原子炉の新規建設や既存炉の運転期間延長などで、原子力産業界が今後も持続的な投資を受けるべきとの点でECの合意を得たいと表明。CEZ社のD. ベネシュCEOは、ECやその直属の科学研究組織である「共同研究センター(JRC)」がこの分野の専門的知識に乏しいのであれば、独立の専門家による評価が論理的に必要になると述べた。
同CEOはまた、持続可能性の評価でタクソノミーのような新基準を導入することは、欧州の既存の法的枠組に違反すると指摘。「原子力によって如何なる被害も及ばないよう、EUではすでに非常に広範な規制や法律、指令が敷かれている」とした。このことは放射性廃棄物にも適用されており、欧州指令に基づいて管理されているほか、各国の規制当局や国際機関の監視下にも置かれている点を強調している。
(参照資料:CEZの発表資料(チェコ語)、TEGの最終報告書と付属文書、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)