原子力産業新聞

国内NEWS

電動ピペットシステム 原子力機構が共同開発

28 May 2024

石川公一

学生時代、化学の中和滴定実験で器具の微妙な取扱いに戸惑った経験を持つ人も多いのではないだろうか。試薬を一滴ずつ滴下させるピペットのコック操作を誤り、ビーカーに溶かした指示薬の変色反応分岐点を大きく超え、正しい分析ができなくなるのは、実にもどかしいものだ。また、粗雑な扱いでガラス器具先端を欠損すると、高価な実験機材の損失ともなってしまう。

そんな手間や歯がゆさの解決にもつながりそうな実験・分析器具を、日本原子力研究開発機構が理化学機器の製造・販売を行う藤原製作所と共同開発し、5月27日より販売を開始した。ロボットでも操作可能な電動ピペットシステム「ぴぺすま」だ。理工学系の教育現場の他、分子生物学、製薬・医学、分析化学、環境保全など、幅広い学術・産業分野で、「微量の液体を必要なだけ分注(吸引・排出)する」ツールとして、「マイクロピペット」が利用されており、原子力機構らは、「複雑な分注操作を安価に自動化できるスマートな製品」と、「ぴぺすま」の可能性を強調。微妙な成分配合の調整が求められる食品・化粧品の分野での活用も期待できそうだ。〈原子力機構発表資料は こちら

従来型の「マイクロピペット」は、電動タイプであっても、人による手操作が前提で、特に先端箇所の排出は人がボタンを押す手動式となっていることから、ロボットに操作を行わせることが困難だった。そのため、コンピューターで分注する容量を指定するなど、新たな機構を有した「ぴぺすま」を開発。これにより、人が操作しにくいグローブボックス・セル内での分注操作にも適用できるという。

原子力機構で開発に当たった物質科学研究センター研究主幹の大澤崇人氏は、「ぴぺすま」の特徴として、「一般的な多関節ロボットでもピペット操作が可能」な他、遠隔操作の特性から、毒物・劇物や放射性物質を含んだ液体などについても安全に実験・分析が実施できること、安価な研究室レベルでの導入などをあげており、今後、幅広い分野での活用が期待される。

藤原製作所は1916年創業の理化学機器製造・販売の老舗。原子力機構では、研究者のニーズに応じた商品・サービス提供で経験を有する同社と技術協力し、昨秋、自動減圧ろ過装置「ろかすま」を販売するなど、民間企業と連携した研究用実験装置の開発にも力を入れている。

cooperation