原子力産業新聞

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欧産業界 原子力水素の利点を強調

04 Jun 2024

桜井久子

ポジションペーパー  ©nucleareurope

欧州原子力産業協会(nucleareurope)は522日、原子力による水素製造がエネルギー安全保障と産業競争力の面でもたらす利点を強調したポジションペーパー発表。さらに、欧州連合(EU)においてクリーンな水素製造を支援するために必要な重点項目を、EUの政策立案者に提言した。

水素は工業用熱、アンモニア生産、精製・石油化学、陸上輸送、鉄鋼業などの分野における需要を満たすのに役立つ。ポジションペーパーによると、欧州委員会は現在、主に再生可能エネルギーからのみ生産される水素(グリーン水素)に焦点をあてている。この水素の大部分は第三国、特に南半球から輸入されるため、輸送と損失からエネルギー需要を増大させ、エネルギー貧困が深刻な国を搾取し、輸入水素への依存を生み出すことで欧州のエネルギー安全保障への影響のほか、圧縮、貯蔵、輸送に係るコストが増加する可能性があるという。そして2050年までのネットゼロ達成という目標を見据え、グリーン水素の国内生産の現実的予測とのギャップを原子力など他の低炭素エネルギー源が埋める可能性に言及している。

そして、グリーン水素の殆どは電気分解によって生産されるため消費電力の大幅増加は避けられないが、原子力から水素を製造することで、設置される電解装置の稼働率がベースロード生産で最大化されると指摘した。出力100kWe、設備利用率90%超の原子力プラントと電解装置との組合せで年間約16万トンの水素を生産、原子力の蒸気を利用できる高温電解装置との組合せでは、更に20%まで増産が可能だという。

nucleareuropeは信頼性が高く手頃な価格のエネルギーの確保は再産業化のカギであり、雇用創出と経済成長、エネルギー安全保障の強化につながると強調した上で、EU域内での水素製造の展開を支援するため、EUに対し、以下の重点項目を提言している。

  • エネルギー安全保障の強化のため、原子力を含むあらゆるネットゼロ技術の可能性を認識し、水素製造への多様なアプローチを奨励する。
  • 第三国からの輸入水素への依存を減らし、EU加盟国が自国のエネルギーの将来に対するコントロール維持を目指す。
  • EU域内の水素製造施設の競争力と持続可能性を確保するため、再産業化と雇用創出における水素産業の役割を認識し、域内の水素産業の成長を支援する政策を策定する。
  • エンドユーザーへの近さ、費用対効果、環境の持続可能性を優先した、域内の水素製造、貯蔵、流通を支援するインフラへの戦略的投資を提唱する。
  • 原子力による水素製造等、水素製造技術の効率と費用対効果の改善に焦点を当てた研究開発イニシアチブに資源を配分する。技術革新の加速のため、産業界、研究機関、政府間の協力を促進する。

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