豪野党 原子力発電の導入を公約に
21 Jun 2024
7か所の建設候補地 © Australia needs nuclear.
オーストラリア最大野党の保守連合(自由党・国民党)は6月19日、バランスの取れたエネルギーミックスと、より安価で安定したクリーンな電力供給を実現するため、原子力導入を次期総選挙の公約にすると発表した。同国はウランの主要輸出国であるものの、原子力発電を法律で禁止している。一方で核医学など、発電以外の原子力・放射線利用には力を入れている。
気候変動・エネルギー・環境・水資源省によると、2022年の同国の電源別シェアは、石炭(47%)、天然ガス(19%)、石油(2%)と、化石燃料が7割近くを占めており、太陽光は14%、風力は11%、水力が6%。石炭は減少傾向にあり、太陽光と風力は増加を続けている。保守連合は、現労働党政権が2030年までに再生可能エネルギーを82%にするという目標を掲げるもののスケジュールは大幅に遅延し、急速なエネルギーの枯渇に直面、全国の家庭や企業の電力料金は値上がりが顕著であると指摘。コストのかかる「再生可能エネルギーのみ」のアプローチは既に失敗しているとし、現政権が掲げる2030年までに43%のCO2排出量削減目標は達成不可能と主張している。
また、最大シェアの石炭火力発電所は今後10年間で閉鎖予定であり、保守連合は政権交代が実現すれば、再生可能エネルギーや天然ガスとともにバランスの取れたエネルギーミックスを図り、電力料金とCO2排出の削減を実証している原子力を導入して、より安価でクリーンな電力を安定供給するとともに、2050年までにCO2排出量を実質ゼロにし、強固で回復力のある経済を実現するとの方針を示した。
閉鎖済みまたは閉鎖予定の石炭火力発電所サイトに原子力発電所(小型モジュール炉を含む)を建設する方針で、候補サイトは以下の7地点。
- リデル発電所(ニューサウスウェールズ州)
- マウント・パイパー発電所(ニューサウスウェールズ州)
- ロイ・ヤン発電所(ビクトリア州)
- タロン発電所(クイーンズランド州)
- カリデ発電所(クイーンズランド州)
- ノーザン発電所(南オーストラリア州、SMRのみ)
- ムジャ発電所(西オーストラリア州、SMRのみ)
これらの発電所は、冷却水や送電網などの原子力発電所に必要なインフラを既に備え、地元コミュニティには熟練労働者の雇用機会、経済的利益をもたらし、現政権の「再生可能エネルギーのみ」のシステム構築に必要な新たな経費の支出やそれに伴う電気料金の値上げを回避できるとしている。そして保守連合は、現政権の「再生可能エネルギーのみ」のアプローチでは、5,800万枚のソーラーパネル、3,500基の新しい産業用風力タービン、最大2.8万kmの新送電線の全国敷設が必要となり、1.2兆~1.5兆豪ドル(約127兆~159兆円)の費用が掛かるとのエネルギー専門家による試算を紹介。現政権が提案する太陽光と風力発電のみに依存する国は世界中になく、世界20大経済国の中で、原子力を利用していない、あるいは利用に向けて動いていないのは、オーストラリアだけであると訴えている。
政権交代が実現すれば、SMRまたは米ウェスチングハウス(WE)社製の「AP1000」や韓国電力公社(KEPCO)製APR1400などの最新大型炉を採用した2つの発電所プロジェクトを計画し、SMRの場合には2035年、大型炉の場合には2037年に運転を開始したい考えだ。発電施設は政府所有とし、建設と運転については経験豊富な原子力発電会社と提携するとしている。
オーストラリアの世論も原子力に対して肯定的になっている。同国の世論調査を20年にわたり広範囲のテーマで実施するローウィー研究所が、オーストラリアの成人2,028人を対象とし、6月上旬に公表した年次世論調査の結果によると、オーストラリアが原子力発電を利用することを「どちらかといえば支持」または「強く支持」すると答えた回答者は61%で、「どちらかといえば反対」または「強く反対」の37%を上回った。なお、原子力発電を「強く支持」(27%)が「強く反対」(17%)を上回っている。対照的に、2011年に実施した質問で、「温室効果ガス排出削減計画の一環としての原子力発電所建設」に「強く反対」と答えたのは46%、「やや反対」と答えたのは16%であった。同研究所は、オーストラリア人の原子力発電に対する世論の現状が10年以上前の否定的な態度から大きく変化したと分析している。
なお、保守連合の原子力発電導入方針とサイト候補地の発表を受け、C.ボーウェン気候変動・エネルギー相は、「詳細、コスト、モデルが何も示されておらず、オーストラリアの排出削減目標の達成には遅すぎ、高すぎ、リスキーだ。これは計画ではなく、詐欺だ」と自身のSNSにポストしている。